- パワハラ被害者も「加害者に対する抗議や抵抗をちゅうちょすることが少なくない」との経験則が示された例on 2025年2月18日
1.パワハラとセクハラの異同 パワーハラスメントもセクシュアルハラスメントも、ハラスメント(許されない行為)という点では共通しています。 しかし、訴訟実務に従事していると、異なると感じられる点も少なくありません。 例えば、立証方法が挙げられます。 セクシュアルハラスメントは人目につかないところで行われるのが普通です。そのため、被害者供述以外の証拠の確保は容易ではありません。こうした事件の性質を考慮してか、立証計画が被害者供述を中心としたものであっても、ハラスメントが認定される例は少なくありません。録音や録画のような直接的な客観証拠がなかったとしても、泣き寝入る必要のない事件は結構あります。 し…
- 仕事と相性の悪い非違行為-窃盗行為に及んだ銀行員への懲戒解雇が否定された例on 2025年2月17日
1.仕事と相性の悪い非違行為 非違行為を犯した労働者は、勤務先から懲戒処分を受けることがあります。 懲戒処分が法的に有効なものかどうかを判断するにあたっては、 「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である」 かどうかが問われます(労働契約法15条)。 この条文に従って懲戒処分の効力を判断する時、職業と非違行為の相性が極めて悪いことがあります。例えば、電車乗務員が痴漢をする、銀行員が横領をするといったようにです。こうした場合、「行為の性質及び態様」に問題があるとして、重たい処分でも正当化され易い傾向があります。 しかし、近時公…
- 懲戒処分-余罪(懲戒事由を構成する事実以外の事実)による処分量定の加重が戒められた例on 2025年2月16日
1.懲戒事由以外の事情が大量に主張される問題 労働契約法15条は、 「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」 と規定しています。 大雑把に言うと、 「使用者が労働者を懲戒することができる場合」 とは、就業規則で定められた懲戒事由に該当する場合をいいます。 就業規則で定められた懲戒事由に該当する行為があり、 当該行為の性質、態様、その他の事情 を考慮し、 客観的に合理的な理由、社会通念…
- 業務上の必要性はパワーハラスメントの心理的負荷の軽重の判断に影響するのか?on 2025年2月15日
1.パワーハラスメントによる心理的負荷 実務上、精神障害の発症が労災になるのか(業務に起因するといえるのか)は、 令和5年9月1日付け基発0901第2号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」 という文書に掲げられている基準に基づいて判断されています。 精神障害の労災補償について|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/001140931.pdf ここに掲げられている基準によると、精神障害の発症に業務起因性が認められるためには、発症時点から6か月以内に強い心理的負荷を生じさせる出来事の存在が必要になります。 上記の文書は、どのような出来事が、どの程度の心…
- 昼食の時間を犠牲にせざるを得ない従業員に「昼食をとらないと人事考課を下げるぞ」と要求することによる心理的負荷on 2025年2月14日
1.二律背反の指示 従業員の悩みの一つに、上司からの矛盾する指示があります。 例えば、業務量が多く、とても時間内に業務を終えることができないにもかかわらず、「残業をしないように」といった命令を受けるような場合が典型です。 この種の二律背反は、労働者に強いストレスを生じさせます。 それでは、こうした両立困難な指示は、どの程度の心理的負荷を生じると理解されるのでしょうか? 近時公刊された判例集に、この問題を考えるうえで参考になる裁判例が掲載されていました。一昨日、昨日とご紹介している、名古屋高判令6.9.12労働経済判例速報2570-20 国・瀬戸労基署長(東濃信用金庫)事件です。 2.国・瀬戸労…
- プロセス重視の評価が外向けの綺麗事である可能性が高いとされた例(自爆営業を行っていた社員を「給料泥棒」などと罵っていた事案)on 2025年2月13日
1.どうっいったハラスメントがどの程度の心理的負荷を生じさせるのか? ハラスメントと自殺との間に業務起因性(相当因果関係)が認められるためには、 ハラスメント⇒鬱病などの精神障害⇒自殺 といった一連の過程を立証する必要があります。 これは労働者災害補償保険法12条の2の2第1項が、 「労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となつた事故を生じさせたとき」 を業務起因性が認められる範囲から除外しつつ、 平成11年9月14日 基発第545号「精神障害による自殺の取扱いについて」が、 「業務上の精神障害によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどま…
- 遺書が理路整然としていることは、正常な判断のもとで書かれたことを裏付けるのか?on 2025年2月12日
1.自殺事案の業務起因性 労働者災害補償保険法12条の2の2第1項は、 「労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となつた事故を生じさせたときは、政府は、保険給付を行わない。」 と規定しています。 この規定に照らすと、故意に死亡結果を実現する自殺は、労働者災害補償保険法に基づく保険給付の対象にはならない(業務起因性がない)と理解されそうです。 しかし、ハラスメント⇒鬱病⇒自殺のような経過を考えれば分かるとおり、全ての自殺を労災ではないと言うのは、明らかに不合理です。そのため、平成11年9月14日 基発第545号「精神障害による自殺の取扱いについて」は、 「業務上の精神障害…
- 労働基準監督署からの是正勧告を受けて残業代が支払われた場合、どの範囲で時効更新の効果が発生するのか?on 2025年2月11日
1.残業代請求の時効 労働基準法115条は、 「この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。」 と規定しています。 労働基準法には「附則」というものが付いており、この「附則」に相当する労働基準法143条3項は、 「第百十五条の規定の適用については、当分の間、同条中『賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間』とあるのは、『退職手当の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による賃金(…
- 賃金からの寮費控除が自由な意思に基づいていないとされた例on 2025年2月10日
1.自由な意思の法理 労働基準法24条1項は、 「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。」 と規定しています。要するに、賃金から何某かの金銭を差…
- 過半数代表者の選出の効力-会社と労働者代表とが労使協定を締結していることを知らなかった者がいることの意味on 2025年2月9日
1.過半数代表者 労働基準法は過半数代表者に対し、様々な役割を与えています。 例えば、1年単位の変形労働時間制を定める労働基準法32条の4第1項は、 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、第三十二条の規定にかかわらず、その協定で第二号の対象期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が四十時間を超えない範囲内において、当該協定(次項の規定による定めをした場合においては、その定めを含む。)で定めるとこ…