- 労災申請をしていたことが傷病手当金の支給申請手続に協力しない理由にならないとされた例on 2025年5月24日
1.怪我や病気で働けなくなった時の生活 怪我や病気で働けなくなった労働者が生活費を確保する方法としては、 傷病手当金を受給する、 労災の休業補償給付を受給する、 という二つの方法が考えられます。 傷病手当金は、健康保険法99条1項の、 「被保険者・・・が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する」 という規定に基づいて健康保険組合から支給されます。 休業補償給付は、労働者災害補償保険法14条1項の、 「休業補償給付は、労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため労働するこ…
- 注意指導無効確認請求に訴えの利益が認められた例on 2025年5月23日
1.注意指導の無効確認請求に訴えの利益は認められるのか? 戒告・譴責といった具体的な不利益と結びついていない軽微な懲戒処分が無効であることの確認を求める事件は、「訴えの利益」が否定されることが少なくありません。 「訴えの利益」とは、裁判所に事件として取り扱ってもらうための要件の一種です。訴えの利益のない事件は、不適法却下-いわゆる門前払いの判決が言い渡されます。 裁判所が、戒告・譴責の無効の確認を求める事件に消極的であるのは、 具体的な不利益と結びついていないから、有効か無効かを判断する実益がない、 戒告・譴責といった処分歴が考慮されて、より重い処分(減給・停職・解雇など)が下される可能性があ…
- 条件付採用の延長処分が無効である場合、延長期間経過後になされた免職処分の効力にどのような影響が及ぶのか?on 2025年5月22日
1.条件付採用 地方公務員法22条は、 「職員の採用は、全て条件付のものとし、当該職員がその職において六月の期間を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに、正式のものとなるものとする。この場合において、人事委員会等は、人事委員会規則・・・で定めるところにより、条件付採用の期間を一年を超えない範囲内で延長することができる。」 と規定しています。 前段は民間の「試用期間」に、後段は民間の「試用期間の延長」に対応する仕組みです。 条件付採用の延長処分が行われた場合、延長期間経過後に改めて、 採用を正式なものとするか、 免職処分とするか、 が判断されます。 それでは、条件付採用の延長処分が無…
- 地方公務員の条件付採用期間の延長が無効とされた例on 2025年5月21日
1.条件付採用 地方公務員法22条は、 「職員の採用は、全て条件付のものとし、当該職員がその職において六月の期間を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに、正式のものとなるものとする。この場合において、人事委員会等は、人事委員会規則・・・で定めるところにより、条件付採用の期間を一年を超えない範囲内で延長することができる。」 と規定しています。 前段は民間の「試用期間」に、後段は民間の「試用期間の延長」に対応する仕組みです。本日、注目したいのは、この「条件付採用期間の延長」についてです。 条件付採用期間の延長の可否は、実務上、滅多に問題になりません。 それは、審査請求期間が3か月に限定…
- 授業中の発言を理由とする大学非常勤講師の雇止めが有効とされた例on 2025年5月20日
1.授業中の発言が問題視される例 個人的な体感によるものですが、近時、授業中の発言や学生アンケートの内容を理由として、有期労働契約で働いている大学講師の方が雇止めになる例が増えているように思います。 特に、セクシュアルハラスメント関係で顕著であり、「そんなことを言う必要はない」という理屈で、比較的簡単に雇止めが正当化される傾向にあります。 昨日ご紹介した、東京高判令5.10.23労働判例1327-36 国立大学法人電気通信大学事件(原審:東京地判令5.4.14労働判例1327-48)もそうした事案の一つです。 2.国立大学法人電気通信大学事件 本件で被告(被控訴人)となったのは、電気通信大学を…
- 大学非常勤講師の雇止め-「一定程度の合理性」で第一段階審査を突破できた事例on 2025年5月19日
1.雇止めの二段階審査 労働契約法上、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」(契約更新に向けた合理的期待が認められる)場合、 有期労働契約者からの契約更新の申込みに対し、使用者は、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められなければ、申込みを拒絶できず、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したことを擬制される というルールが採用されています(労働契約法19条2号参照)。 言い換えると、雇止めの可否は、 ① 合理的期待があるのか、 ② 客観的合…
- 日々雇用に雇止め法理(労働契約法19条)の類推適用が認められた例on 2025年5月18日
1.雇止め法理(労働契約法19条)の類推適用 労働契約法19条は、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」(契約更新に向けた合理的期待が認められる)場合、 有期労働契約者からの契約更新の申込みに対し、使用者は、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められなければ、申込みを拒絶できず、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したことを擬制される というルールを採用することで、有期労働契約を唐突に切られてしまった人(雇止めを受けた人)の雇用の安定を図っ…
- 社名が報道されていない私生活上の犯罪(示談済み)でも懲戒解雇が有効だとされた例on 2025年5月17日
1.私生活上の非違行為を理由とする懲戒処分と報道 ある犯罪が報道されるのか否かは、基本的にコントロールできることではありません。そうであれば、報道されたのか否かによって、私生活上で罪を犯した労働者に対する勤務先の懲戒権行使の可否が左右されるというのは酷であるようにも思われます。 しかし、私生活上の非行を理由とした懲戒処分の効力の有無を判断するにあたり、報道の有無は、それなりに重視されてきました。例えば、名古屋地判令6.8.8労働判例ジャーナル153-14 日本郵便事件は、職務外で行われた盗撮行為を理由とする懲戒解雇の可否を判断するにあたり、 「本件行為が行われて以降、本件行為ないし本件行為に係…
- 「十分に反省しているとはにわかには考え難い」とされながらも、解雇無効とされた例on 2025年5月16日
1.反省をどうみるか? 問題行動が原因で勤務先からペナルティを受ける場合、通常、 問題行動⇒行為発覚⇒調査・ヒアリング等⇒ペナルティ といった形で時系列が流れて行くことになります。 この行為発覚後の対応が良くないと、「反省していない」ことが重いペナルティを正当化する事情として用いられがちです。例えば、 反省していない⇒またやる可能性が高い⇒労働契約関係を解消せざるを得ない、 といったようにです。 しかし、前に、 自衛隊の懲戒処分-「改しゅんの情」はどのように計測されるのか? - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事でも言及しましたが、反省しているかどうかというのは、客観的に計測できることでは…
- 勤務態度不良を理由とする普通解雇事案で、3年以上前の問題行動(勤務態度に関する問題)をもって解雇の社会的相当性を基礎付けることが否定された例on 2025年5月15日
1.過去の行為の蒸し返し 解雇無効を主張する事件でも、懲戒処分の効力を争う事件でも、必ずと言っていいほど問題になることの一つに、過去の行為の取扱いがあります。 解雇には解雇事由、懲戒処分には懲戒事由があります。普通に考えれば、解雇事由、懲戒事由を構成する事実の存否や評価を争うだけでも良さそうに思います。しかし、使用者側からは「経緯」と称して膨大な事情が主張されるのが通例です。個人的に経験した最も酷いものでは、約10年前まで遡って延々と問題行動を主張されたこともあります。これは労働事件の平均審理期間が通常事件よりも長くなる一因となっています。 しかし、あまりに昔の出来事を持ち出すことに何の意味が…