- 医師の労働時間-PHSで拘束されている休憩時間は本当に休憩時間か?on 2023年12月5日
1.休憩時間と手待時間 労働基準法34条1項は、 「使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。」 と規定しています。 ここでいう休憩時間とは、 「単に作業に従事しないいわゆる手待時間は含まず、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間をいう・・・すなわち、現実に作業はしていないが、使用者からいつ就労の要求があるかもしれない状態で待機しているいわゆる『手待時間』は、就労しないことが使用者から保障されていないため休憩時間ではない」 と理解されています(厚生労働省労働基準…
- 医師のオンコール待機時間の労働時間性(消極)on 2023年12月4日
1.医療従事者の院外での待機時間の労働時間性 少し前に、看護師の緊急看護対応業務のための待機時間の労働時間性の有無が問題になった裁判例が公刊物に掲載されました。横浜地判令3.2.18労働判例1270-32 アルデバラン事件です。 この事件のオンコール出勤の頻度は、 「緊急看護対応業務に従事する従業員の緊急出動(オンコール出勤)の頻度は、被告の主張するところを前提にしても、日数にして9.5日に一度程度、緊急看護対応業務の担当回数にして8回に一度程度(原告について見ると16.4回に一度程度)」 と判示されていますが、裁判所は、 「上記待機時間は、全体として労働からの解放が保障されていたとはいえず、…
- 医師の配転-内分泌科医が内分泌疾患固有の領域を担当することができなくなるキャリア上の不利益は通常甘受すべき程度なのか?on 2023年12月3日
1.配転命令権の濫用 昨日、医師のような特殊な技能が必要となる専門職は、黙示的な職種限定契約が成立し得るという話をしました。 ただ、黙示的な職種限定契約は、「黙示的」であるがゆえに、その内容が必ずしも一義的ではありません。そのため、昨日お話したとおり、 「従前の職務と全く関連しない職務へと一方的に変更されないことは格別、従前の職務と密接に関連し、あるいはその一部となる職務についても、一切の変更や限定を許さない旨の職種限定合意があったなどとは認められない」(東京地判令5.2.16労働経済判例速報2529-21 東京女子医科大学事件) などという理屈のもと、医師であったとしても、黙示的職種限定契約…
- 黙示的職種限定合意により、内分泌内科医の高血圧内科(分野)への配転を措置できるか?on 2023年12月2日
1.黙示的職種限定合意 医師など特殊な技能が必要となる専門職は、明示的な職種限定契約を締結していなかったとしても、黙示的な職種限定合意が成立し得ると理解されています(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ』〔青林書院、改訂版、令3〕291頁参照)。 ただ、黙示的な職種限定合意が成立し得るとはいっても、どの範囲で成立するのかは微妙な問題です。それが顕著に表れるのが、診療科や診療分野を異にする配転の場合です。このブログでも幾つかの事例を紹介してきましたが、 外科部長からがん治療サポートセンター長への配転について違法とした事例(広島高裁岡山支決平31.1.10判例タイムズ1459-41)、…
- IDとパスワードを使って従業員であれば誰でもアクセス可能な情報の営業秘密該当性on 2023年12月1日
1.営業秘密の侵害 営業秘密は不正競争防止法で保護されています。 例えば、「窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為」は不正競争行為として、差止や損害賠償の対象となります(不正競争防止法2条1項4号、3条、4条参照)。 また、「営業秘密を営業秘密保有者から示された者であって、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き」「営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録について、又は営業秘密が化体された物件について、その複製を作成すること」により「営業秘密を領得した」場合、刑事罰の対象になります(不正競争防止法21条1項3号参…
- 残業代請求-管理監督者性を誤信していた場合にも時間外勤務等の「容認」の論理は使えるか?on 2023年11月30日
1.時間外勤務等の「容認」 残業が許可制になっている会社などでしばしば見られることですが、時間外勤務手当等を請求すると 「勝手に残業していただけであって、業務を指示していない」 という反論を寄せられることがあります。 しかし、「規定と異なる出退勤を行って時間外労働に従事し、そのことを認識している使用者が異議を述べていない場合や、業務量が所定労働時間内に処理できないほど多く、時間外労働が常態化している場合など」には、残業を容認していたとして、黙示の指示が認められるのが通例です(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ』〔青林書院、改訂版、令3〕151頁参照)。 しかし、この時間外労働等の…
- 残業代を除いた賃金が6割以上増額(21万円⇒34万円)されていても、管理監督者として相応しい待遇であることが否定された例on 2023年11月29日
1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監督者への該当性は、しばしば裁判で熾烈に争われます。 管理監督者とは、 「労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」 の意と解されています。そして、裁判例の多くは、①事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有していること(経営者との一体性)、②自己の労働時間についての裁量を有していること(労働時間の裁量)、③管理監督者にふさわしい…
- 訴えの追加的変更が時機に後れた攻撃防御方法の却下の対象にならないとされた例on 2023年11月28日
1.時機に後れた攻撃防御方法の却下 民事訴訟法157条1項は、 「当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる」 と規定しています。 この規定があるため、結審直前に行われる新たな主張や立証の補充は、裁判所によって却下されてしまうことがあります。 それでは、この時機に後れた攻撃防御方法の却下の対象に「訴えの変更」は含まれるのでしょうか? 訴えの変更とは、民事訴訟法143条1項に根拠のある制度で、同項は、 「原告は、請求の基礎に変更がない限り…
- 社会保険労務士から管理監督者にすれば残業代を支払わなくてよいといわれ、労働者を管理監督者にした代表取締役に重過失が認められた例on 2023年11月27日
1.残業代の不払と取締役の個人責任 会社法429条1項は、 「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」 と規定しています。 残業代を払ってもらえない労働者は、この規定を根拠として役員(取締役)に個人責任を追求することが考えられます。 ただ、会社法429条1項に基づく損害賠償として残業代を請求するにあたっては、幾つかの乗り越えなければならない壁があります。 一つは、損害の発生です。 会社から残業代を払ってもらえる限り、労働者に損害が発生することはありません。そのため、「損害」があったといえるためには、会社…
- 考課対象期間の満了日の経過をもって、賞与の金額が具体的に確定したとされた例on 2023年11月26日
1.賞与を具体的な権利として請求するためには・・・ 「会社の業績等を勘案して定める」といったように具体的な金額が保障されていない賞与は、算定基準の決定や労働者に対する成績査定が行われて具体的な金額が明らかにならない限り請求することができないと理解されています(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ』〔青林書院、改訂版、令3〕44頁参照)。 しかし、近時公刊された判例集に、賃金規程の文言上は決定・査定を要する体裁であるにもかかわらず、考課対象期間の満了日の経過をもって賞与の金額が具体的に確定したと判示した裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、松山地判令4.11.2労働判例129…