- マスク不着用を理由とする配転命令の効力on 2023年5月30日
1.マスク不着用をめぐる紛争 最近は下火になりつつありますが、新型コロナウイルスが流行する中、マスクの着用に応じない従業員を配転することができるのかという問題がありました。 近時公刊された判例集に、この問題を扱った裁判例が掲載されていました。大阪地判令4.12.5労働判例1283-13 近鉄住宅管理事件です。 これは、以前、下記の記事の中で言及した裁判例と同じ事件です。 退職の意思表示の慎重な認定-口頭での発言は迅速な介入により覆せる可能性がある - 弁護士 師子角允彬のブログ マスク不着用を理由とする解雇の可否 - 弁護士 師子角允彬のブログ 通勤手当の不正取得を理由とする普通解雇が否定され…
- 第二東京弁護士会労働問題検討委員会「労働事件ハンドブック 改訂版」が発刊されますon 2023年5月30日
第二東京弁護士会の労働問題検討委員会では「労働事件ハンドブック」という実務家向け書籍を刊行しています。 既に弁護士会館の地下の本屋には置かれているようですが、来月、「2018年労働事件ハンドブック」の2023年改訂版である 「労働事件ハンドブック 改訂版」 が発刊されます。 労働事件ハンドブック 改訂版 – 株式会社 労働開発研究会 この書籍には、共同執筆者として参加するとともに、全体編集者の一人としても関与させて頂きました。実務的に有用な書籍になったことには、自信を持っています。 労働法や労働事件にご興味・ご関心をお持ちの方は、ぜひお手に取って頂ければと思います。
- 兼業による長時間労働で健康を害した労働者は、本業の使用者に安全配慮義務違反を問えるのか?on 2023年5月29日
1.過重労働と安全配慮義務 最二小判平12.3.24労働判例779-13 電通事件は、 「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法六五条の三は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する…
- 外科医・救急科医の就労請求権-「就労するのを妨害してはならない」仮処分の認容例on 2023年5月28日
1.就労請求権 使用者に労働することを請求する権利を、就労請求権といいます。 代表的な裁判例は、 ①労働契約等に就労請求権についての特別の定めがある場合、 または ②労務の提供について労働者が特別の合理的な利益を有する場合、 を除き、一般的に労働者は就労請求権を有するものではないとの考え方を採用しています(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、初版、令元〕249頁参照)。 つまり、原則的には否定されるものの、例外的には肯定される場合があるということです(上記①、②の場合)。 就労請求権の存否は、しばしば裁判所でも争いの対象になります。これまで就労請求権が認められた職種としては、大学教員、…
- 専門医資格が維持できなくなること、外科医・救急科医としての技量が低下することが「著しい不利益」とされた例on 2023年5月27日
1.配転命令が権利濫用となる場合 最高裁判例(最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件)は、配転命令が権利濫用となる要件について、 「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であつても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつ…
- 医局から派遣されてきた医療センター長が気持ちよく働ける職場環境を整えることは医師を配転する理由になるか?on 2023年5月26日
1.医師に対する配転命令 医師独特の労働慣行の一つに「医局」があります。 医局とは、 「大学医学部や歯学部の附属病院における診療科ごとの、教授を頂点とした人事組織のこと」 をいいます。 「医局では臨床や研究、教育、医局員に対する学位取得に関する指導などが行われますが、医局の構成員を関連病院等へ紹介・派遣することも重要な機能 であるとされてます。 どちらが大きい?医局に「所属する」メリットと「所属しない」メリット - 【Dr.転職なび】医師の転職/就職の募集など好条件や非公開求人多数! 従前よりも影響力が低下してきているようには思われますが、医師の紹介・派遣を通じて医療機関が医療機関に対し及ぼし…
- 医師の職場・職種限定契約-三次救急医療機関で外傷・救急外科医としての業務に限定する合意on 2023年5月25日
1.配転命令と職種限定合意 一般論として、配転命令には、使用者の側に広範な裁量が認められます。最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件によると、配転命令が権利濫用として無効になるのは、 ① 業務上の必要性がない場合、 ② 業務上の必要性があっても、他の不当な動機・目的のもとでなされたとき、 ③ 業務上の必要性があっても、著しい不利益を受ける場合 の三類型に限られています。業務上の必要性が広く認められていることもあり、いずれの類型を立証することも容易ではありません。 しかし、職種限定合意の存在を立証することができれば、権利濫用を立証できなかったとしても、配転命令の効力を否定す…
- 「賛同できない職員は法人を離れることもやむなし」-一定の情報提供が認められながらも自由な意思の法理の適用が認められた例on 2023年5月24日
1.自由な意思の法理 自由な意思の法理とは、賃金や退職金の不利益に係る個別合意の効力を論じる中で生じてきた、 「労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である」(最二小判平28.2.19労働判例1136-6山梨…
- 「退職届は撤回できない」は本当なのか?on 2023年5月23日
1.退職届は撤回できない? どのような理屈なのかは分からないのですが、 退職届は撤回できない という俗説があるようです。 退職する場合、退職届と退職願のどちらを出す? | 法律事務所求人広場 こうした俗説が掲載されているサイトは、ざっと見たところ、一つや二つでなく、かなりたくさん存在しているように思われます。 しかし、退職届、退職願、辞表といった用語は法令用語ではなく、特定の法的な効果と結びついているわけではありません。「辞めたい」という意思を伝えたことが、 退職(辞職)の意思表示に該当するのか(民法540条2項により撤回できない)、 合意解約の申込みに該当するのか(民法525条1項により、承…
- ハラスメントを理由とする精神障害(精神疾患)-訴訟が係属している以上、加害者との関係は継続するon 2023年5月22日
1.パワーハラスメントによる精神障害 パワーハラスメントは、労働者に強い心理的負荷を与え、精神障害(精神疾患)を発症させる原因になることがあります(平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」〔最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4号〕別表1「具体的な出来事」番号28参照)。 こうした深刻な事態を避けるため、事業者は、パワーハラスメントが確認された場合には、被害者と行為者を引き離すための配置転換を行うなど、迅速かつ適切な措置をとる必要があります(令和2年厚生労働省告示第5号「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し…