- 大学教員の労働問題-人事評価を目的としない授業評価アンケートの結果を雇止め理由にできるのか?on 2024年12月9日
1.授業評価アンケート 教育を改善するための取り組みとして、現在、多くの大学において、学生による授業評価アンケートが実施されています。 関内隆ほか「主要国立大学における『学生による授業評価』アンケートの分析」〔東北大学高等教育開発推進センター紀要、2006〕1頁によると、 「学生による授業評価アンケートを実施する国立大学は、10年前の平成7年度には全体の約6割の56大学という状況にあったが、今や実施していない大学は皆無に等しい」 とのことです。 https://tohoku.repo.nii.ac.jp/records/51321 また、少し古いデータになりますが、文部科学省によると、学生によ…
- 大学教員が学生の出来栄えについて「論外」「愚行」「最低最悪」と酷評したことなどが雇止めの理由になるとされた例on 2024年12月8日
1.授業中の言動や学生とのトラブル 学問の自由(憲法23条)として教授の自由が保障されていることや、教育内容の専門性の高さから、大学教員には、授業の内容や進め方について、一定の裁量が認められています。教育的観点からの合理性が認められる限り、基本的には、授業の内容や進め方について、外野からとやかく言われる筋合いはありません。「外野」というのは雇い主も含まれます。例えば、「A学説しか教えるな」と大学当局から指示されたところで、「B学説も教授することが必要だ」と考えれば、大学教員はA学説もB学説も教授することができます。現行憲法の施行後について言うと、それが問題だと言われた例は、あまり聞いたことがあ…
- 大学教員の不安定雇用問題-専任教員への昇任が予定されていない「月給」3万5000円の非常勤講師にも5年無期転換ルールの例外は適用されるのか?on 2024年12月7日
1.大学の教員等の任期に関する法律 労働契約法18条1項、第1文は、 「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。」 と規定しています。いわゆる無期転換ルールです。 この無期転換ルールには、幾つかの例外が設けられています。 その一つが、大学教員です。 あまり聞きなれない法律だと思いますが、「大学の教員等の任期に関する…
- 大学教員の不安定雇用問題-5年無期転換ルールの例外を適用するための「任期」はどのタイミングで定めておくことが必要なのか?on 2024年12月6日
1.大学の教員等の任期に関する法律 労働契約法18条1項、第1文は、 「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。」 と規定しています。いわゆる無期転換ルールです。 この無期転換ルールには、幾つかの例外が設けられています。 その一つが、大学教員です。 あまり聞きなれない法律だと思いますが、「大学の教員等の任期に関する…
- 就業時間中のインターネット閲覧-現実的にあり得ない時間数が提示された場合の反論on 2024年12月5日
1.就業時間中の私的なパソコンの使用 仕事をしている最中、私的にインターネットを使ったことのある方は、少なくないように思います。 常識的な範囲内の時間である限り黙認されていることが多いのですが、実務上、懲戒や解雇などの不利益処分がなされる段になって、掘り返される例が多くみられます。 こうした事件では、大抵の場合、業務用端末のデータが解析され、一定の記録に基づいて、 「これだけの時間、私的にインターネット上のサイトを閲覧、視聴していた」 という主張が提示されます。 しかし、YouTubeで音楽を再生しながら仕事をしていたような場合を想像すれば分かるとおり、仕事と関係ないサイトを開いていた時間は、…
- 紛争後に作成される従業員アンケートの証拠価値(使用者側に有利な回答が信用性に乏しいとされる一方、不利な回答の存在が労働者の利益に評価された例)on 2024年12月4日
1.紛争後、使用者側で作成される従業員アンケート 解雇事件に限った話ではありませんが、労働者が使用者に対して法的措置をとると、使用者側から従業員アンケートの回答が証拠提出されることがあります。 例えば、ハラスメントを理由とする損害賠償請求訴訟を提起すると、 「ハラスメントを受けている場面を目撃した事実はない。」 と書かれたアンケートが大量に提出されるといったようにです。 逆に、ハラスメント等を理由とする解雇が違法無効であるとして地位確認等を請求する訴訟を提起すると、 「ハラスメントをしていた場面を見た。」 というアンケートが大量に出てくることがあります。 紛争後に作成された資料というだけでも、…
- 弁明の中で「どんなペナルティでも受ける」と述べたことは後の処分でどう影響するか?on 2024年12月3日
1.もし、それが事実ならどんな処分(ペナルティ)でも受ける 勤務先から不正行為の調査を受けている時に、弁明の内容を信じてもらうため、 「もし、それ(不正行為)が事実ならどんな処分でも受ける」 という趣旨のことを言ってしまう人がいます。 しかし、このような発言は有害無益です。 事実は経験則と証拠によって認定されます。強く言ったり、何度も繰り返し言ったりすれば認定されるというものではありません。法曹有資格者が重視するのは、飽くまでも供述に証拠による裏付けがあるのかです。証拠による裏付けのある供述は控え目に言ったところで重視されますし、証拠による裏付けのない供述は強く言ったところで聞き流されるのが普…
- 預託金の使途について一部領収書がない場合、金銭を管理していた労働者を解雇できるのか?on 2024年12月2日
1.金品の横領 当たり前のことですが、会社の金銭を使い込むことは解雇理由になります。 「一般的に金銭の不正については裁判所の態度は厳格であり、事実が認められると解雇が有効になることが多い」 と理解されています(第二東京弁護士会労働問題検討委員会編『労働事件ハンドブック』〔労働開発研究会、改訂版、令5〕436頁参照)。 こうした裁判例の傾向を利用してか、時折、金銭管理の問題に絡め、強引に労働者を解雇する例が見られます。例えば、 ① 金銭を管理していたのは労働者Aである、 ② 預託されていた金銭の使途について、一部領収書が存在しないものがある、 ③ 領収書が存在しない部分は労働者Aが横領したに違い…
- 解雇紛争にみる金品の受領と社会的儀礼の範囲on 2024年12月1日
1.金品の受領 職務の公正を守るため、仕事上の関係者から金品を受領することを禁止している組織、団体は少なくありません。 例えば、公務員は職務に関連して賄賂を収受すれば収賄罪(刑法197条1項)に問われますし、弁護士職務基本規程49条1項は、「弁護士は、国選弁護人に選任された事件について、名目のいかんを問わず、被告人その他の関係者から報酬その他の対価を受領してはならない。」と国以外の者からの国選事件に関する対価受領を禁止しています。 民間の場合も(業務上)横領罪(刑法252条、253条)、背任罪(刑法247条)などの刑罰法規だけでは職務の公正を守ることができないとして、仕事上の関係者からの金品の…
- 故意による賃金不払を理由とする慰謝料請求の可否・金額(給与1か月分が基準とされた例)on 2024年11月30日
1.賃金支払義務 労働基準法24条1項本文は、 「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」 と規定しています。 賃金を支払うことは労働契約上当たり前のことではありますが、労働基準法はこれを契約上の義務から法的義務へと引上げ、賃金の不払いを犯罪として規定しています(30万円以下の罰金、労働基準法129条1号参照)。 このような法の建付けからすると、賃金の不払いが違法であることは明らかです。 それでは、賃金の不払いを理由として、慰謝料を請求することはできるのでしょうか? なぜ、このような問題が出てくるのかというと、損害賠償(慰謝料)を請求するためには、「損害」が発生してい…