1.性的意図は争って意味があるのか?
一昨日、セクシュアルハラスメントの成立にあたり、国家公務員の場合は性的意図(性的な関心や欲求)が極端に希釈されていて、地方公務員の場合は性的意図が不要とされているという話をしました。
小学校の体育教師がレシーブの体制を指導する目的で両肘を軽くつかむことまでセクハラでいいのか? – 弁護士 師子角允彬のブログ
これにより、性的意図がなかったとの指摘は、セクシュアルハラスメントの成否との関係では殆ど意味をなさないことになります。
それでは、性的意図によるものではないとの指摘は、懲戒処分の効力を争うにあたり、何の意味も持たないのでしょうか?
一昨日、昨日と紹介している、横浜地判令8.3.18労働経済判例速報2612-33 横浜市教育委員会事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。
2.横浜市教育委員会事件
本件で原告になったのは、横浜市の小学校に勤務する男性教諭(体育主任)です。
ソフトバレーボールの授業中に女子児童に声を掛け、レシーブの練習として背後から両手を伸ばし両肘に触れる動作を行ったことなどがセクハラにあたるとして懲戒免職処分を行いました。その後、懲戒免職処分の効力を争い、その取消を求めて横浜市を訴えたのが本件です。
原告は性的な意図で行ったものではないとして、これがセクハラにあたることを争いました。
裁判所は性的意図を不要と理解したうえでセクハラの成立自体は認めましたが、次のとおり述べて、処分量定が不当であると判示しました。
(裁判所の判断)
・本件処分の量定の相当性
「本件標準例・・・によれば、処分の量定として、免職、停職又は減給があり得るところ、本件処分は最も重い免職を選択したものである。しかし、本件処分の処分理由・・・において、処分行政庁は、原告にレシーブの指導目的があることを否定しているが、上記・・・及び・・・のとおり、原告にはレシーブの指導目的があったものと認められるのであって、この点について、処分行政庁は誤った事実関係に基づいて本件処分をしたものである。原告は、事情聴取において、レシーブの指導目的であったと述べており、上記・・・で指摘したように、原告の聴取結果と異なる事実を認定するには相当に慎重な判断が求められることも考慮すると、この点についての処分行政庁における事実認定は相当性を欠くものであったといえる。」
「そして、上記・・・ないし・・・において説示したことによれば、原告各行為は本件標準例におけるセクシャル・ハラスメントに該当し、その態様や過失の度合いは軽視し難いものであり、被害児童に与えた精神的被害や、原告が体育主任の立場であったこと、過去に女子児童との身体的接触に関し指導を受けたことがあることも考慮すべき事情である。他方、原告が過去に処分を受けたことがないことは、原告に有利に考慮すべきものである。また、その動機それ自体に非難すべき点はなく、その他の考慮要素に重視すべき点はない。」
「なお、他の懲戒処分の事例との対比の観点からさらに検討すると、証拠上、本件標準例・・・に該当すると判断されたかどうかは明らかでないが、これに該当し得る類型のものとして、
〔1〕中学校の臨時的任用職員が、在籍校の生徒に対し、SNSで私的なメッセージを送ったり、当該生徒の手を握ったり抱きしめたりするなどの行為をしたとして、停職6か月の処分を受けた事例(行為時は令和4年9月、処分時は令和5年2月。・・・)、
〔2〕高校教諭が体育の授業において、複数の生徒に対し複数回、大腿部や腰などに触れて指導をしたとして、停職1か月の処分を受けた事例(行為時は令和4年11月、処分時は令和5年4月。・・・)
がある。原告各行為についての上記検討を踏まえると、原告各行為は、これらの事例と比較して、身体的接触の程度は軽いものであり、動機の点において悪質とも評価し難い。また、被害児童(生徒)の学年(年齢)は、
上記〔1〕は中学生,
上記〔2〕は高校生であるのに対し、
本件は小学6年生であり、上記各事例よりも低いものの、被害児童の学年ないしそれに伴う被害の程度は、具体的な被害(行為)の内容と併せて考慮すべきものであって、被害児童の学年をもって、直ちに原告各行為の結果がより重大であるなどと評価できるものとはいえない。さらに、原告各行為は被害児童と二人きりの場でなされたものであるところ、上記〔2〕のように複数の生徒がいる場でなされた行為とは異なるが、上記〔2〕は複数の生徒に対してなされたものであって、この観点のみではいずれの行為がより悪質か判断できるものではない。そうすると、原告に対し、上記〔1〕及び〔2〕のいずれの事例よりも重い処分である免職処分を選択することが相当といえるかには疑問が残る。」
「被告は、上記
〔1〕については、当該教諭が自らの行為が発覚する前に自主的に申し出て、懲戒処分の決定以前に退職願を提出した事例であり、
〔2〕については、トレーニングルームにおいて他の生徒がいる中で男女問わず複数回大腿部や腰などに触れて指導した事例であり、
いずれも本件とは事案が異なる旨の主張をする。しかし、これらの事案の処分説明書・・・によっても、上記の被告主張に係る事実関係は明らかではなく、かえって、〔2〕の処分説明書・・・では、『複数の女子生徒に対し、内肩や大腿部、腰などに複数回触れた』ことが処分の理由とされている。」
「以上によれば、原告各行為について、処分の量定として免職、停職又は減給があり得るところ、そのうち最も重い免職処分を選択した処分行政庁の判断は、誤った事実認定を前提とした部分があり、また、本件指針における考慮事項の認定ないし軽重を誤って、重きに過ぎる処分を選択したものといわざるを得ず、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したものというべきである。」
3.性的意図を争う価値がなくなったわけではない
上述のとおり、裁判所はセクハラの成立を認めつつ、指導目的であったことを認定しなかった処分庁の判断を相当性を欠くと判示しました。
セクハラの成立が争えないとしても、性的意図の有無によって行為の持つ非難可能性の度合いは異なります。そう考えると、やはり、性的意図は争って意味のない事実というわけではなさそうです。
裁判所の判断は、セクハラを理由に懲戒処分を受けた方が、その効力を争って行くにあたり、実務上参考になります。
