審理対象事項について必要な審理を行わなかったとして措置要求の判定が違法とされた例

1.措置の要求(行政措置要求)

 地方公務員法46条は、次のとおり規定しています。

「職員は、給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、人事委員会又は公平委員会に対して、地方公共団体の当局により適当な措置が執られるべきことを要求することができる。」

 これは措置要求(行政措置要求)という仕組みです。

 措置要求は、次のような制度であると理解されています。

「勤務条件に関する措置要求制度は職員の勤労基本権制限の代償措置であるが、より厳密にいうならば、勤務条件の法定制度がストライキ権制限の代償であり、措置要求制度は団体協約の締結権が認められないことの代償であるということができよう。」(橋本勇『新版 地方公務員法』〔学陽書房、第4次改訂版、平29〕844頁参照)。

 この行政措置要求に対しては「判定」が出されます。

 判定が措置要求者の意向に沿ったものであればよいのですが、そうではない場合、要求者は判定の効力を争って裁判所に救済を求めることができます。

 判定がどのような場合に違法になるのかには最高裁判例があります。具体的に言うと、最三小判昭36.3.28民集15-3-595が、

「地方公務員法四六条は、職員の措置要求に対し、適法な手続で、かつ、内容的にも、裁量権の範囲内における適法な判定を与うべきことを職員の権利乃至法的利益として保障する趣旨の規定と解すべきものであり、違法な手続でなされた棄却決定また裁量権の限界を越えてなされた棄却の決定は、同条により認められた職員の権利を否定するものとして、職員の具体的権利に影響を及ぼすわけであるから、右棄却決定が取消訴訟の対象とする行政処分に当る」

と判示しています。

 上述の判示からも分かるとおり、法は適正な手続のもとで措置要求に対する判定を行うことを求めており、適法な手続に依拠せずに出された判定は違法な行政処分になります。

 近時公刊された判例集に、手続的瑕疵を理由として措置要求に対する判定を取消した珍しい裁判例が掲載されていました。大分地判令8.4.10労働判例ジャーナル173-56 大分県事件です。

2.大分県事件

 本件で原告になったのは、大分県警察職員として採用された一般職の地方公務員の方です。要綱に基づいて「勤務成績不良職員」に指定されたところ、これに基づく昇級遅延の解除し、適正な昇級号数に基づく給与支給等を求める措置要求を行いました(本件措置要求)。

 これに対し、人事委員会が棄却判定を行ったところ、手続的瑕疵等を理由に原告が大分県を被告として取消訴訟を提起したのが本件です。

 裁判所は、次のとおり述べて、手続的瑕疵を認め、判定の取消請求を認めました。

(裁判所の判断)

「措置要求制度に関する法の定めは別紙関係法令の定め等記載1のとおりであるところ、同制度は、法が一般職の地方公務員に対して労働組合法の適用を排除し、団体協約を締結する権利を認めず、また争議行為を禁止し、労働委員会に対する救済申立ての途を閉ざしたことに対応し、職員の勤務条件の適正を確保するために、職員の勤務条件につき人事委員会等における適法な手続で、かつ、内容的にも、裁量権の範囲内における適法な判定を求めることを職員の権利ないし法的利益として保障する趣旨のものと解される(最高裁昭和34年(オ)第1187号同36年3月28日第三小法廷判決・民集15巻3号595頁参照)。」

「原告は、本件判定における審理等の過程には、適正手続に違背する等の手続的違法があると主張するところ、県人事委員会が定める県人事委員会規則は、審査手続について、「人事委員会は、事案の審査のため必要があると認めるときは、措置の要求を行う職員その他事案に関係がある者を喚問してその陳述を求め、これらの者に対し書類又はその写しの提出を求め、その他事実調査を行うものとする」(4条)と定めるのみで、これ以外に審理手続の詳細を定めた規定はない。」

そうすると、措置要求がされた事項について県人事委員会が採るべき具体的な審理方法は、第一次的には同規則に定める範囲内で手続主宰者である県人事委員会の合目的的裁量に委ねられているものと解される。

もっとも、措置要求制度が定められた趣旨が前記のとおりであることからすると、判定を導いた審理の手続や認定、判断の内容が法令等から導かれる適正手続に違反し、又は考慮した事実関係に重大な誤認があるなどの重大な瑕疵があり、県人事委員会に認められる裁量権の範囲を逸脱していると認められる場合や、その裁量権の行使としてした判断等が社会通念に照らして著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したものと認められる場合には、当該判定は違法になるものと解すべきである。

「前記の観点から本件判定の手続上の違法性の有無について検討するに、原告が、『勤務実績不良等職員に該当すると認められる事実』が存在しないはずであるにも関わらず本件指定等が行われたことが不当であるなどとして、本件指定等を前提とする給与支給等の是正を求めて本件措置要求をしていたことからすると・・・、本件措置要求について判定をするに当たっては、本件指定等における手続的な適正の有無のみならず、その判断内容の適否もまた主要な審理判断の対象であったものと解される。」

「そして、上記判断内容の適否につき審理判断をするに当たっては、直接的には、本件指定等をした本部委員会等の判断内容の適否が問題とはなるものの、当該判断内容の前提となった任命権者の人事評価が社会通念上著しく妥当性を欠き、あるいは、任命権者の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してされたものと認められる場合には、当該人事評価に基づき行われた本部委員会等による勤務実績不良等職員の指定もまた違法又は不当なものとなることは明らかである。」

「そうすると、県人事委員会は、本件措置要求について判定をするに当たり、本件指定等に手続的な瑕疵がないかという点について審理を行うことはもちろんのこと、原告の『勤務実績不良等職員』該当性判断に関する本部委員会等の判断の適否(当該判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったと認められるか否か、ひいては、当該判断の前提となった任命権者の人事評価に重大な事実誤認等があったか否か)についても、必要な事実の調査を遂げた上で、判断をすることが求められていたものというべきである。この点、県人事委員会も、本件判定書において、『本事案において本件指定等の手続が適正に行われたか及び当局の裁量権を逸脱又は濫用したと認められる事実があったか並びに本件指定等に基づく給与計算が適正に行われたかという点について審査する』との審理方針を示しているところ・・・、当該方針自体は、県人事委員会に求められる審理方法として適正性を欠くものとはいえない。」

「しかし、本件措置要求に対して県人事委員会が行った審理内容について見ると、本件判定書は、『勤務実績不良等職員の指定の手続が適正に行われたか及び当局の裁量権を逸脱又は濫用したと認められる事実があったか』との点について、大分県警察職員の人事評価が法の定めるもののほか人事評価規程により実施されていることを指摘した上で、人事評価規程における人事評価の手続を説明し、原告に対してその手続が履践されていたことを認定するなどして手続上の問題点が見られないことを指摘し、『当局の資料によっても、特に他の職員と比して不利な手続が行われた事実など当局の裁量権を逸脱又は濫用したと認められるような事実は認められず、これらの要求者に対する人事評価の一連の手続は、地公法及び人事評価規程に沿って行われている。』と結論づけるにとどまっている(甲1)。このように、本件判定書が、専ら手続面について、法や人事評価規程との整合性があり、裁量権の範囲の逸脱又は濫用がないことを指摘する一方で、本件判定書には、本部委員会等がした本件指定等の前提となった任命権者の人事評価自体について裁量権の範囲の逸脱又は濫用となる事実があったか否かについての県人事委員会の結論の記載はない(甲1)。また、原告の『勤務実績不良等職員』該当性判断において、県人事委員会が、原告についての具体的な評価根拠事実を確認したのか否か、その事実認定や当該認定された事実に基づく本部委員会等の判断内容自体に裁量権の範囲の逸脱又は濫用を認めたか否かという点についても、本件判定書においては全く触れられていない(甲1)。

本件判定書からうかがわれる上記のような審理判断の内容からすると、県人事委員会は、原告の『勤務実績不良等職員』該当性判断に関する本部委員会等の判断の適否(当該判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったと認められるか)について、ほとんど審理を行っていないものといわざるを得ず、そうすると、本件判定は、本件措置要求における審理対象事項について必要な審理を行わなかったという手続の点において、違法の誹りを免れない。

「そして、当該審理対象事項が本件措置要求について判定をするに当たっての主要な争点に関するものであったことをも踏まえると、審理手続について第一次的には県人事委員会の裁量に委ねられている点があることを考慮しても、本件判定には取り消されるべき重大な手続上の違法があるものと認められる。」

3.木で鼻を括ったような判定書が返ってきたら・・・

 措置要求はそれほど多くの利用件数がある仕組みではなく、人事委員会側も必ずしも手続に習熟しているわけではありません。そのせいか、要求の内容に正面から答えない木で鼻を括ったような判定書が出されることがあります。

 本件は判定書において必要な審理が行われていた形跡がないこと等を理由に手続的瑕疵を認め、判定を取消しました。裁判所の判断は、要求した審理対象事項に正面から判断しない判定の効力を争うにあたり、参考になります。