1.既婚者による職場の女性へのアプローチ
既婚者による職場の女性へのアプローチがセクハラとの関係で問題になることは少なくありません。
ただ、従来、それは性的同意との兼ね合いが多かったように思います。
既婚者と好んで関係を持つとは考え難い、
ゆえに、抵抗していないように見えたとしても、あるいは、迎合的な言動があったとしても、真摯な性的同意があったとは認められない、
といったようにです。
しかし、近時、関係を持つ手前の段階、言い換えると、職場の女性にアプローチをかけること自体をセクハラと理解する例が散見されるようになっています。例えば、横浜地判令7.3.25労働判例ジャーナル162-28 損害賠償等請求事件は、卑猥な発言をしたことだけではなく、
「被告Aは、平成24年頃、横浜地方裁判所の付近のサンドイッチ屋で、原告に対し、『あなたのことが大好きで仕方がないんだ。』と述べ、以後、繰り返し原告に好意を告げ、『奥さんがいなかったらあなたと結婚したい。』とも述べた」
といった好意を示す言動まで含めて不法行為該当性を認めています。
「あなたのことが大好きで仕方がないんだ。」「奥さんがいなかったらあなたと結婚したい。」等の好意を告げる発言がセクハラとされた例 – 弁護士 師子角允彬のブログ
近時公刊された判例集にも、既婚者による好意の発露とも取れる言動に違法性が認められた裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、大津地判令8.3.27労働判例ジャーナル173-38 草津市事件です。
2.草津市事件
本件で被告になったのは、地方自治体である草津市です。
原告になったのは、新規採用職員として採用され、草津市の都市計画部都市計画課に配属された市職員の方です。
cは都市計画課の課長で、dは都市計画課の主査(後に副係長)です。
原告の方は、cやdからセクシュアルハラスメント・パワーハラスメントを受けて双極性障害を発症したなどと主張し、損害賠償を請求する訴えを提起しました。
裁判所は、次のとおり述べて、c、dの各行為の違法性を認めました。
(裁判所の判断)
「別表1の行為に関し
番号1
cは、原告に対し、『デートしよう』『一緒に帰ろう』との発言を日常的にしていた(争いがない)。また、『彼氏は浮気してると思うで。だから僕とどうや』『26歳まではいける。それ以上はおばさんだからダメ』『家に行くわ』『今日はデートか。誰と行くんや』との発言もした・・・。
番号2
cは、令和3年10月頃、原告に対し、『結婚しているが、彼女がほしい。一夫多妻制が良い。』との発言をした・・・。
番号3
cは、令和3年10月26日、g株式会社の株主総会参加後、原告に対し、『二人っきりやな。デートしようか。』との発言をした・・・。
番号4
cは、令和3年9月か10月頃、原告に対し、『女が働くと、男が子供の世話をしなければならなくなるから、女は働いてほしくない』との発言をした・・・。
番号5
cは、令和3年10月28日、都市計画課景観係の女性職員が泣き出してしまった出来事があった後に同職員の机の上にお菓子を置いた際、『aさんにもまたお菓子あげるしな』という趣旨の発言をした・・・。」
番号9
dは、原告が定時退社した後である令和3年11月4日午後5時57分、都市計画課都市計画係の職員のグループラインに『@h(注記:原告に対するメンション)予算決裁固まって無い中、予算担当帰ったらあかんと思うよ』とのメッセージを送信した(・・・以下『本件メッセージ』という。)。なお、本件メッセージは都市計画係の所属6人が見ることのできるものである。」
(中略)
「cの一連の発言・行動については、他者を不快にさせる性的な言動としてセクシャルハラスメントに該当するものである。また、本来、このような発言を見過ごさせない職場環境を作るべき管理職としての立場としても、自ら冗談として済まされるような職場環境を作ってしまったことは、不適切といわざるを得ないものである。被告におけるセクシャルハラスメントの啓発活動としても、ハラスメント相談員の設置がされ・・・や無記名アンケートなどは実施されており・・・、職場におけるハラスメント防止指針・・・も定められ、これが市役所の共有フォルダに保存されて誰でも見ることができるようになっていたとはいうものの・・・、他方、cは、現実にはこの指針を見ておらず、研修を受けた記憶もないというのであり・・・、十分な実効性のある対応がされていたとは解し難い。」
「また、dによる本件メッセージについてみると、各係の予算要求に関し課長決裁が終わっていない以上、課長からの修正指示があればこれを踏まえた修正がされた上でのとりまとめ(製本)作業が必要になるのであり・・・、令和3年11月4日のうちに課長決裁を終わらせることが想定されていたことからすれば・・・、課長決裁が終わるまで退庁を控えるというのが被告における予算担当としての心得と解される(退庁するにしてもその旨の声掛けを要したというべきである。)。したがって、dにおいてこれを原告に対して指導する必要性があったといえ、そのメッセージの内容自体は業務上の必要性があったものといえる。他方、都市計画係の誰もが読むことが可能な形式とする必要はなかったもので、このことは無用に原告の自尊心を傷つけることに繋がるものであって、適切性を欠いたものといえる。」
「これらを総合考慮すれば、c、dのこれらの行為は、国家賠償法1条1項所定の違法性が認められ、被告は、原告に対し、国家賠償法上の責任を負うものというべきである。」
3.既婚者が性的関心を示すことは禁忌
それまで順調にキャリアを重ねてきていても、セクシュアルハラスメントで足元を掬われる方は少なくありません。関係性を持つに至らなかったとしても、既婚者の立場で職場の他の女性に性的な関心をせば、それだけで問題視される可能性があることに留意しておく必要があります。
また、本件は、被害者側から見ると、既婚者から性的な関心を向けられることそれ自体をセクハラとして問題にする可能性を開くものです。相談窓口への申告の場面で活用できる裁判例として、覚えておいて良いのではないかと思います。
