1.定年後再雇用-同じ仕事をさせながら賃金を下げることが許されるか?
定年後再雇用された方の賃金水準は、多くの場合、定年前よりも低くなります。より軽易なものへと業務内容が変わっているのであれば、このような取扱いも、理解できなくはありません。しかし、定年前と全く同じ仕事をさせながら、定年後再雇用された方の賃金水準を低く抑えている企業も散見されます。
それでは、定年後再雇用であることから、従前と同じ仕事をさせながら賃金を減少させることは、法的に許容されるのでしょうか?
この点が問題になった過去の最高裁判例に、最二小判平30.6.1労働判例1179-34 長澤運輸事件があります。長澤運輸事件では、定年前に支給していた能率給・職務給を、定年後再雇用者に支給しないことが、労働契約法旧20条で禁止されていた不合理な労働条件の相違といえないのかが問題になりました。
この事案の最大の特徴は、定年後再雇用の前後で、従業員の職務内容等に変更がなかったことでした。
最高裁は、定年後再雇用であることが不合理性を判断するにあたっての考慮要素になることを認めたうえ、再雇用後の基本賃金及び歩合給の減少幅が、再雇用前の基本給、能率給及び職務給を合計した金額の2~12%に留まっていることなどを指摘し、
「嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であるといった事情を踏まえても、正社員に対して能率給及び職務給を支給する一方で、嘱託乗務員に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえないから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。」
と判示しました。
近時公刊された判例集に、これとは対照的に定年後再雇用者との間での基本給の相違が違法と判示された裁判例が掲載されていました。名古屋高判令8.2.26労働判例1354-33 名古屋自動車学校(再雇用・差戻審)事件です。この事件には最高裁を経由して差戻されたという特徴もあります。
2.名古屋自動車学校(再雇用・差戻審)事件
本件は自動車学校の経営を目的とする株式会社(名古屋自動車学校 一審被告)で働いていた原告ら2名が、有期の定年後再雇用契約を結んだ後、期間の定めのない労働契約を締結している従業員との間に不合理な労働条件の相違があるとして、損害賠償を請求する訴えを提起した事件です。
本件の特徴は、正職員定年退職時と嘱託職員時(定年後再雇用時)との間で、役職を解かれたほか、職務内容や変更の範囲に相違がなかったことです。
この事件では基本給の相違が問題になりましたが、裁判所は、次のとおり述べて、法違反を認めました。なお、原告らの定年時の基本給は、それぞれ、18万1640円、16万7250円です。
(裁判所の判断)
「一審原告らは、定年退職後に嘱託職員として有期労働契約によって再雇用された者であるものの、正職員定年退職時と嘱託職員時で役職を解かれていたこと以外はその職務内容及び変更の範囲に相違はないところ、正職員の基本給には複合的な性質(年功的性格(勤続給としての性質)、職能給及び職務給)が認められるものの、職務給の占める割合が大きく、同じく職務給としての性質を有する嘱託職員の基本給とその点においては同質であり、若年正職員や指導員資格を取得した直後の正職員の基本給と大きな相違があることは不合理であるといえ、実際に、一審原告らの嘱託職員の基本給が、若年正職員らの基本給と比べて相当に低額であること、労使交渉の経過を見ても、正職員と嘱託職員の労働条件の相違が、一審被告の誠実さを欠く対応により、一審原告ら及び本件組合と一審被告との具体的な協議を経ることができなかったものであることに加え、一審原告らの嘱託職員の基本給が退職前の正職員時の半分以下とされていることなど、補正後の上記・・・の事情を踏まえると、一審被告において嘱託職員が定年退職後の再雇用として有期労働契約を締結した者であり、将来役職に就くことが予定されておらず、また、65歳までの5年間しか雇用が予定されていないことから、その基本給には年功的性格や職能給の性質が含まれておらず、若手職員の雇用維持や将来の人材確保等の基本給の支給の目的が妥当しないことや、嘱託職員が退職金を受領し、高年齢雇用継続基本給付金や老齢厚生年金(報酬比例部分)を受給することが予定されていることなど一審被告が主張する事情を考慮しても、一審原告らの正職員定年退職時と嘱託職員時の各基本給に係る金額という労働条件の相違は、上記事情を総合すると、嘱託職員時の基本給が、一審原告P2については10万円、一審原告P3については9万5000円を下回る限度で、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である(ただし、一審原告P3が病欠をした平成27年2月分は、正職員であれば基本給が8万3628円であったと認められる(原判決別紙4のB-1参照)から、正職員時の基本給に比した同月分の基本給の支給割合を9万5000円に乗じた4万7501円(=約83,628円÷167,250円×95,000円)を下回る限度で同条にいう不合理と認められる。)。」
3.基本給の相違
裁判所は、
職務の内容と変更の範囲
に触れたうえ、
正社員の基本給の法的性質、
嘱託職員の基本給の法的性質
とを比較し、これが同質であるから、相違には合理性がない、
という論理で結論を導いています。
本件は、改めて上告が申し立てられているようですが、引き続き動向が注目されます。
