実習実施者には技能実習生に対し快適な住環境を確保すべき不法行為法上の注意義務があるとされた例

1.外国人技能実習生の住環境

 技能実習生は外国から日本にやってきます。当然、日本に住居を持っているわけではありません。そのため、住むところは、しばしば実習を実施する企業や監理団体が確保することになります。

 この実習実施者や監理団体によって確保される住居の中には、かなり劣悪なものがあることが指摘されてきました。例えば、令和2年11月3日には、

「多いときは15人以上をタコ部屋に押し込めた」 相次ぐ‟外国人技能実習生犯罪”はなぜ起きるのか? | 文春オンライン

という記事が掲載されています。

 この外国人技能実習生に提供される住居との関係で、近時公刊された判例集に注目すべき判断を示した裁判例が掲載されていました。鹿児島地判令8.3.3労働判例ジャーナル172-36枕崎市水産物振興協同組合ほか1社事件です。何が注目されるのかというと、実習実施者に快適な住環境を確保すべき不法行為法上の注意義務があるなどと判示していることです。

2.枕崎市水産物振興協同組合ほか1社事件

 本件で被告になったのは、

「枕崎市の水産加工業者などを構成員とし、組合員のためにする外国人技能実習生共同受入れに係る職業紹介事業等を目的とする協同組合であり、技能実習生の受入れや実習先との調整、実習生の保護等の実習監理事業を行う監理団体」(被告組合)、

「被告組合の職員で・・・被告組合の実習監理事業を統括し、技能実習生の受入れや実習先との連絡調整、技能実習生の保護等の業務に従事していた」方(被告P7)、

外国人技能実習生の実習先(被告マルタツ)

の三名です。

 原告になったのは、フィリピン共和国から来日した技能実習生で、被告マルタツとの間で雇用契約を締結し、宿舎(本件宿舎)に居住して鰹節の製造業務等水産加工の技能実習を行っていた方4名です。

 劣悪な住環境の宿舎で生活を送らされたり、私生活を不当に制約されたなどと主張して慰謝料の支払等を求める訴えを提起したのが本件です。

 裁判所は住環境との関係で、次のような判断を下しました。

(裁判所の判断)

技能実習法は、技能実習に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにするとともに、技能実習計画の認定及び監理団体の許可の制度を設けること等により、出入国管理法その他の出入国に関する法令及び労働基準法、労働安全衛生法その他の労働に関する法令と相まって、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図り、もって人材育成を通じた開発途上地域等への技能等の移転による国際協力を推進することを目的とし(同法1条)、技能実習が、技能等の適正な修得等のために整備されるものであり、技能実習生が技能実習に専念できるようにその保護を図る体制が確立された環境で行われなければならず、労働力の需給の調整の手段として行われるものではないとし(同法3条1項2項)、実習実施者に対し、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護について技能実習を行わせる者としての責任を自覚し、技能実習法3条の基本理念にのっとり、技能実習を行わせる環境の整備に努めるとともに、国及び地方公共団体が講ずる施策に協力することを義務付け(同法5条1項)、また、監理団体に対し、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護について重要な役割を果たすものであることを自覚し、実習監理の責任を適切に果たすとともに、国及び地方公共団体が講ずる施策に協力することを義務付けている(同条2項)。
 そして、技能実習法は、技能実習を行わせようとする法人は、主務省令で定めるところにより、技能実習生ごとに、技能実習計画を作成し、これを出入国在留管理庁長官及び厚生労働大臣若しくはこれらの委任を受けたOTITに提出して、その技能実習計画が適当である旨の認定を受けることができるものとし(技能実習法8条1項、12条)、技能実習計画には、報酬、労働時間、休日、休暇、宿泊施設、技能実習生が負担する食費及び居住費その他の技能実習生の待遇を記載することを義務付け(同法8条2項9号)、さらに、団体監理型技能実習を行わせようとする申請者に対し、実習監理を受ける監理団体の指導に基づき、技能実習計画を作成することを義務付けている(同条4項)。技能実習計画の提出を受けた出入国在留管理庁長官及び厚生労働大臣若しくはこれらの委任を受けたOTITは、技能実習計画における技能実習生の待遇が主務省令で定める基準に適合していることが要件とされ(同法9条9号)、当該主務省令である技能実習法施行規則は、団体監理型技能実習に係るものである場合にあっては申請者又は監理団体が、技能実習生のための適切な宿泊施設を確保していることをその基準の一つとして規定している(同規則14条1号)。外国人が、技能実習の在留資格で本邦に在留するためには、技能実習計画が上記の認定を受けることを要することから(出入国管理法別表第一の2の技能実習)、技能実習を行わせようとする法人は、上記の基準に適合する技能実習計画の作成を義務付けられることになる。実習実施者は、認定計画に従って技能実習を行わせることを義務付けられ、出入国在留管理庁長官及び厚生労働大臣は、実習実施者が認定計画に従って技能実習を行わせていないと認め、技能実習の適正な実施を確保するために必要があると認めるときは、当該実習実施者に対し、期限を定めて、改善命令を発することができると定め(技能実習法15条1項)、認定計画に従って技能実習が行われることによる技能実習生の保護の実効化を図っている。
 これらの規定は、外国人である技能実習生が、本邦の労使関係における法的規制に精通していないことにより、労働者としての権利が侵害され、安価な労働力として利用されるおそれがあることから、これを防止するとともに、宿泊施設についても、実習実施者又は監理団体が確保した宿泊施設を利用せざるを得ない場合が多いことを踏まえ、実習実施者に対して技能実習生が健康で快適な生活を送ることができるよう、適切な宿泊施設を確保することを義務付けるとともに、監理団体に対して、実習実施者が認定計画と異なり、適切な宿泊施設を確保していない場合には、適切な指導を行うことを義務付けるものであり、監理団体が自ら宿泊施設を用意する場合には、これが適切なものであることも当然義務付けるものと解される。
 以上のような技能実習法等の規定内容やその趣旨に加え、技能実習法が、実習実施者等が同法又はこれに基づく命令の規定に違反する事実がある場合においては、技能実習生は、その事実を出入国在留管理庁長官及び厚生労働大臣に申告することができ、実習実施者等に対して、同申告を理由として技能実習生に対して技能実習の中止その他の不利益取扱いをすることを禁止する旨定めていること(同法49条1項及び2項)にも照らすと、実習実施者である被告マルタツは、自らのもとで技能実習を行う原告P2らに対し、技能実習生が健康で快適な実習生活を送れるようにするため、快適な住環境を確保すべき不法行為法上の注意義務を負うとともに、監理団体である被告組合は、本件各実習先で団体監理型技能実習を行う技能実習を行う原告らに対する不法行為法上の注意義務として、本件各実習先が快適な住環境を確保すべき注意義務を怠っていないかを確認するとともに、これを怠っている場合には適切な指導を行って是正させるなど技能実習の実施に関して本件各実習先を適切に監理する注意義務を負っており、さらに、自ら宿泊施設を用意する場合には、適切な宿泊施設を確保すべき注意義務を負っているというべきである。

(中略)

「監理団体であり、技能実習計画の内容について把握しており(被告P7は、自らOTITに技能実習計画に係る書類を提出している(被告P7本人)。)、かつ自ら宿泊施設を提供していた被告組合は、適切な宿泊施設を確保し、適切な住環境を確保すべき注意義務を怠ったというべきである。」

「また、実習実施者である被告マルタツについても、本件宿舎の状況を確認し、把握することを怠り、上記のような不適切な宿泊施設に原告P2らが居住を余儀なくされていることを放置し、適切な宿泊施設を確保すべき注意義務を怠ったというべきであるから、原告P2らに対する関係では、被告組合との共同不法行為が成立するというべきである。」

3.実習実施者や監理団体に不法行為法上の注意義務が認められた

 以上のとおり、裁判所は、実習実施者や監理団体に対し、快適・適切な住環境を確保すべき不法行為法上の注意義務があると認めました。

 これは外国人技能実習生の住環境問題に対処して行くにあたっての先例として、実務上参考になります。