1.懲戒解雇の最後手段性
懲戒解雇には「最後手段性」という原則があります。
色々な説明の仕方がありますが、土田道夫『労働契約法』〔有斐閣、第3版、令6〕631頁には、次のとおり書かれています。
「懲戒解雇は,労働者を『制裁』として企業外に排出しなければならないほどの労働者の重大な義務違反と企業秩序侵害の事実(業務阻害や職場規律上の実害の発生)がある場合にのみ発動できると解すべきである。具体的には,労契法15条の懲戒権濫用規制に即して,①懲戒解雇事由該当性の判断段階で,労働者の非違行為の程度や使用者の命令・規律の有効性を慎重に判断し(客観的合理的理由の存否),懲戒事由該当性が認められる場合も,②懲戒権濫用の判断段階で,処分の相当性や手続の適正さを厳しくチェックする必要がある(社会通念上の相当性の存否)。要するに,使用者は,懲戒解雇を『最後の手段』(ultimaratio)としてのみ発動できる」
この「最後手段性」には、他のより軽微な懲戒処分によっては目的を達することができない場合に限って正当化されるという考え方が含意されています。昨日紹介した、東京地判令8.1.27労働判例ジャーナル172-46 公益社団法人地域医療振興協会事件は、この理を明確に判示した裁判例としても意義があります。
2.公益社団法人地域医療振興協会事件
本件で被告になったのは、
地域保健医療を支援する病院の設置等を目的とし、d病院(本件病院)を経営する公益財団法人(被告教会)
本件病院のリハビリテーション科の科長(被告c)
の二名です。
原告になったのは、被告協会との間で雇用契約を締結し、本件病院のリハビリテーション科の理学療法士として稼働していた方です。
被告協会から懲戒解雇されたことを受け、その無効を主張して地位確認等を求めるとともに、被告cによるパワーハラスメント等を理由とする損害賠償を請求する訴えを提起したのが本件です。
本件の被告は、
「原告は、患者からのクレームが突出して多く、被告協会の再三にわたる指導や指示にも従わなかったほか、勤務時間中に他の病棟をうろついたり、急性硬膜下血腫で入院していた患者をデイルームに放置して、患者の生命、身体を危険にさらしたりした。被告協会は、原告に対し指導書を交付したが、原告は、指導書への署名を拒否し、被告協会が業務命令として出席を求めたヒアリングも欠席した。」
「これらの原告の言動は、職員の服務等について定めた本件就業規程20条、21条2項、10項に反し、同規程53条1号、3号、5号の懲戒事由に当たる。本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当なものであり、有効である。」
と述べ、懲戒解雇は有効だと主張しました。
裁判所は、被告の主張を排斥したうえ、次のとおり述べて、懲戒解雇は無効だと判示しました。
(裁判所の判断)
「一般に、懲戒解雇は、労働者に対して重大な不利益を与える懲戒処分であり、他の種類の懲戒処分を行うことによっては目的を達することができない場合に採られるべきものであること、被告協会において、原告に対し、本件懲戒解雇の前に他の懲戒処分をした事実はなく、懲戒解雇以外の懲戒処分(別紙「本件就業規程の定め(抜粋)」エ)を検討した形跡もないこと、原告は、本件以前に懲戒処分を受けた経歴を有していないこと(争いがない。)も考慮すると、被告らが主張する前記〔1〕から〔4〕までの非違行為をもって、直ちに懲戒解雇により本件雇用契約を終了させなければならない程度の事由ということはできない。そうすると、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとはいえないから、無効というべきである。」
「以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件懲戒解雇は無効であるから、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める原告の請求は理由があり、また、未払賃金の請求については、本件懲戒解雇当時の原告の賃金は、月額33万1700円(賃金の締め日及び支払日は、毎月末日締め、翌月25日払い)である・・・から、本件懲戒解雇がされた令和5年8月31日の翌月分(同年10月25日を支払日とする同年9月分)以降、月額33万1700円の賃金が未払であると認めるのが相当である。」
3.応用可能性の高い法理判決
福岡高判丙18.11.9労働判例956-69熊本県教委(教員、懲戒免職処分)事件は、
「免職処分は,当該職員の職員としての身分を失わせ,職場から永久に放逐するというこれ以上ない厳しい処分なのであるから,当該非違行為自体が免職に相当するという場合であればともかく,加重処分として免職を選択するについては,当該非違行為そのものの行状はもとより,それに至る経緯,動機及びその後の経過をはじめ日ごろの勤務実績に至るまで,当該職員をめぐるあらゆる事情を総合考慮した上で,なお当該職員を職員としての地位にとどめ置くことを前提とした懲戒処分(すなわち停職以下)では足りないという場合に,はじめてその相当性が肯定されるものというべきである。」
と述べて懲戒免職処分の最終手段性・補充性を示しました。
本件は民間の労働者との関係において、
「一般に、懲戒解雇は、労働者に対して重大な不利益を与える懲戒処分であり、他の種類の懲戒処分を行うことによっては目的を達することができない場合に採られるべきものである」
と述べ、懲戒解雇の最終手段性を明らかにしました。
いずれも応用可能性の高い法理判決であり、懲戒解雇等の効力を争う事件において、積極的に活用して行くことが考えられます。
