1.男女雇用機会均等法と育児介護休業法
男女雇用機会均等法9条3項は、
「事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」
と規定しています。労働基準法65条は1項で産前休業を、2項で産後休業を規定しています。そのため、この条文は、妊娠、出産、産前産後休業の取得等を理由とする不利益取扱いを禁止するものと理解されます。
育児介護休業法10条は、
「事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第九条の五第二項の規定による申出若しくは同条第四項の同意をしなかったことその他の同条第二項から第五項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」
と育児休業を理由とする不利益取扱いを禁止しています。
2.男女雇用機会均等法9条3項に係る最高裁判決とその射程
男女雇用機会均等法9条3項の解釈については、有名な最高裁判決があります。最一小判平26.10.23最高裁判所民事判例集68-8-1270、労働判例1100-5 広島中央保健生協(C生協病院)事件です。
この裁判例は、
「被上告人に雇用され副主任の職位にあった理学療法士である上告人が,労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任を免ぜられ,育児休業の終了後も副主任に任ぜられなかったことから,被上告人に対し,上記の副主任を免じた措置は雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下『均等法』という。)9条3項に違反する無効なものであるなどと主張して,管理職(副主任)手当の支払及び債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求め」
たという事案において、
「一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であるところ,上記のような均等法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば,女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが,当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき,又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。」
との規範を定立し、
「原審摘示の事情のみをもって直ちに本件措置が均等法9条3項の禁止する取扱いに当たらないと判断した原審の判断には,審理不尽の結果,法令の解釈適用を誤った違法がある。」
と判示しました。
最高裁判決が示した規範の特徴は、
軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として違法
ただし、特段の事情が存在するときは違法ではない、
といったように、降格措置を「原則違法」とした点にあります。このルールのもとでは、労働者側で降格処分が違法である理由を一々説明する必要がなくなります。労働者は降格されたとだけ言えば良く、使用者側で例外事由に該当することを立証できなければ、労働者の言い分が通ることになります。
それでは、この最高裁判決の射程は、育児休業等を理由とする不利益取扱いの禁止の場面にも妥当するのでしょうか?
昨日ご紹介した、津地判令8.3.27労働判例ジャーナル172-24 クロップス事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。
2.クロップス事件
本件で被告になったのは、通信機器販売や電気通信サービスの加入手続に関する代理店業務等を目的とする株式会社です。
原告になったのは、被告に雇用され、店長として勤務していた方です。育児休業を取得した後、副店長職で復帰させられたうえ、長期間経過しても店長に任命されなかったこと(本件措置)などを問題視して、減額分の賃金の支払や慰謝料の支払を求める訴えを提起したのが本件です。
この事件の裁判所は、本件措置の適否を判断するにあたり、次のような規範を示しました。
(裁判所の判断)
「法は、育休制度等を設けることにより、子の養育等を行う労働者の雇用の継続等を図り、その職業生活と家庭生活の両立に寄与することを目的とする(法1条)ものであり、法10条は、事業主に対して、労働者が育休の申出をし、又は育休をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない旨を定めている。」
「そして、法28条に基づき定められた告示である『子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針』(平成21年厚生労働省告示第509号。以下『指針』という。)第2の11(1)は、『不利益な取扱い』について、『労働者が育児休業、介護休業又は子の看護休暇の申出又は取得をしたこととの間に因果関係がある行為』をいうものとしている。また、『不利益な取扱い』の具体的内容について、指針第2の11(2)は、降格させることや不利益な配置の変更を行うことを例示している。」
「上記規定の文言や趣旨等に鑑みると、法10条の規定は強行規定と解するのが相当であり、育児休業の申出又は取得を理由として不利益な取扱いをすることは、同条に反するものとして違法であり、無効であるというべきである(最高裁平成26年10月23日第1小法廷判決 民集68巻8号1270頁(以下、『平成26年最判』という。)法廷意見及び補足意見参照)。」
「本件においては、前記第2の1(3)のとおり、育休を契機として降格処分がなされている。この点、被告は、本件措置が降格に当たることを争うかのような主張をするが、原告の役職と職位は、いずれも、本件育休後に、客観的に下位のものに変更されており、降格に当たることは明白である。」
「一般に、降格は、労働者に不利な影響をもたらす処遇であり、法10条の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば、育休の申出又は取得を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同条の禁止する取扱いに当たるものと解される。」
「もっとも、育休からの復帰後の配置等が、円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性に基づく場合であって、その必要性の内容や程度が、法10条の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同条の禁止する不利益な取扱いに当たらないものと解する余地がある(平成26年最判法廷意見及び補足意見参照)。」
「そして、上記特段の事情の存否に係る判断においては、当該労働者の配置後の業務の性質や内容、配置後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況、当該労働者の知識や経験等が勘案されるべきであり、その判断においては、法21条及び22条が,事業主の努力義務として,育休後の配置等その他の労働条件についてあらかじめ定めておき,労働者に周知させておくべきこと,また,育休後の就業が円滑に行われるよう,当該労働者が雇用される事業所の労働者の配置その他の雇用管理等に関し必要な措置を講ずべきことを定め,さらに指針(第2の7)において,育休後には原則として原職又は原職相当職に復帰させることが多く行われていることを前提として他の労働者の配置その他の雇用管理が行われるように配慮すべきことが求められているなど,これら一連の法令等の規定の趣旨及び目的を十分に踏まえた観点からの検討が行われるべきである(平成26年最判補足意見参照)。」
「なお、被告は、平成26年最判と本件とでは、前提となる事実関係や利益状況が異なっており、その趣旨は本件に妥当しないと主張する。」
「しかし、平成26年最判の事案では、軽易作業への転換請求(労働基準法65条)に基づく不利益扱いの是非(雇用の分野における男女の均等な機械及び待遇の確保等に関する法律9条3項及び同施行規則2条の2違反の有無)について争われているところ、本件では、育休から復帰する際の降格が問題とされるため、軽易作業への転換が問題となる局面ではなく、単に育児休業を取得したことを理由とする降格の有無として検討すれば足りる。むしろ、軽易作業への転換は、労働者に利益のあるものであり、労働者からの要望に基づくものであるため、これに伴う不利益の許否につき問題となるところ、育休復帰時の降格については、これに基づく労働者の利益は基本的には存在しないので、その判断は厳格になされることになるのであり、平成26年最判の趣旨が妥当しない(被告の裁量がより緩やかに認められる)との被告の主張は採用できない。」
3.育児休業の場面でも広島中央保健生協(C生協病院)事件最高裁判決は妥当する
以上のとおり、裁判所は、育児休業からの復帰にあたっての不利益取扱い(降格)の場面にも広島県中央保健生協事件最高裁判決の判示が妥当することを認めました。
利益状況が類似することから妥当するとは思っていましたが、本件の被告のように妥当しないと主張する見解を提唱する人もいるため、
原則違法、
特段の事情が存在する場合にのみ例外的に適法になる、
という判断枠組みが示されたことには相応の意義があります。
裁判所の判断は、育児休業等を理由とする不利益取扱いに対処して行くにあたり、実務上参考になります。
