育児休業を取得した店長を副店長として復帰させ、相当期間経過後も店長に就かせなかったことが違法とされた例

1.原職のポストに空きがない

 育児介護休業法10条は、

事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第九条の五第二項の規定による申出若しくは同条第四項の同意をしなかったことその他の同条第二項から第五項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

と規定しています。

 この規定があるため、事業主は育児休業した労働者に対して不利益取扱いをすることができません。

 何が不利益な取扱いに該当するかについては、

平成21年12月28日 厚生労働省告示第509号『子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活』【最終改正:令和6年9月11日】

が解釈の指針を定めています。

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001403435.pdf

 これによると、

降格や

不利益な配置の変更

は典型的な例とされています。

 また、同指針は、事業主に対し、

「育児休業及び介護休業後においては、原則として原職又は原職相当職に復帰させ
るよう配慮すること。」

を求めています。

 こうしたルールから、育児休業取得者は、基本的には原職復帰させるべきものと理解されています。

 しかし、事業主から原職復帰させてもらえない例は少なくありません。

 これに不服を述べた時に事業主側からしばしば出される反論の一つに、

原職に相当するポストは既に埋まっていて空きがない、

というものがあります。

 確かに、育休取得者に対する差別を意図していなかったとしても、代役を立てたり組織再編したりして、原職に相当するポストに空きがなくなってしまうことはないわけではありません。しかし、これが無条件に許容されるとなると、育休取得を理由とする不利益取扱いの禁止は画餅に帰してしまいます。幾ら事業主側が原職相当のポストに空きがないと言ったところで、原職相当のポストに復帰させないことが違法とされることは当然あり得ます。近時公刊された判例集に掲載されていた、津地判令8.3.27るお堂判例ジャーナル172-24 クロップス事件も、そうした裁判例の一つです。

2.クロップス事件

 本件で被告になったのは、通信機器販売や電気通信サービスの加入手続に関する代理店業務等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告に雇用され、店長として勤務していた方です。育児休業を取得した後、副店長職で復帰させられたうえ、長期間経過しても店長に任命されなかったこと(本件措置)などを問題視して、減額分の賃金の支払や慰謝料の支払を求める訴えを提起したのが本件です。

 被告は、

「育休取得者の休職期間中に、その役職を代替する従業員がいなければ円滑な業務遂行はできないが、休職から復帰したからといって代替従業員を簡単に異動させられるはずがなく、休職する社員が相当期間、原職に復帰できないことは当然に予想され、甘受すべきである。」

と述べて原告の主張を争いました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、本件措置を違法だと判示しました。

(裁判所の判断)

「原告は、本件育休からの復帰時に、店長から副店長に降格となったところ、これは、育休を契機とした不利益な取扱いにあたるため、例外的に法10条に反しないといえるための上記特段の事情が認められるかが問題となる。」

「まず、降格後の原告の業務の性質や内容は、現場店舗の管理業務という点では基本的に同質とも思われるものの、立場が異なることによる責任や権限の差異があるほか、店舗スタッフの評価等の人事管理業務の有無の点において顕著に異なるものとみられる。」

「次に、職場の組織、業務態勢及び人員配置の状況についてみると、店長は、その性質上、各店舗に1名を配置することが必要・十分であるところ、被告としては、育休からの復帰者の異動可能店舗に制約があること、その時点の職場の組織・業務態勢及び人員配置の状況との関係で、原告を、育休からの復帰直後に店長とすることが事実上困難な場合があることは認められ、実際、原告の復帰時点においてもそうであったと認められる。しかし、復帰後3か月を経過しても、なお原告を店長職ないしは店長相当職に戻す対応ができないほどの業務運営上の支障が継続していたかは疑問であり、仮に、真にそれが継続していたのであれば、3か月で調整手当の支給を止めることの合理性に疑問がある。」

「なお、被告は、復帰時に原職相当ポストに空きがない場合、ブランク期間後の行動評価においてA評価をとらない限り、原則として店長に復帰することはないが、逆に、改めて人事評価でAを連続2回取得する必要はなく、常に店長候補者として人事配置がされている旨主張する。しかし、上記運用が、原職復帰に対する事実上の制約となることは明らかであり、直近で、SM1級でA評価を連続2回取得した者と同一条件下での競争となること自体、育休を取得していないSM2級の者との間で不利益な扱いとなることは言うまでもない(育休を取得していなければ、店長は、降格要件に該当しない限り、店長としての異動となり、副店長クラスで連続2回A評価を取得した者があっても、店長ポストに空きがないとの理由で昇格はできないはずである。なお、被告における直近の異動事例においては、上記とは異なるものがあるようであるが、これが被告の規定に沿った運用といえるかは疑問である。)。」

 

※ 被告における現場職群には、S1、S2、SM1、SM2の職位等級があり、S1からSM2に向けて高位となる

 

「そもそも、被告においては、降格は、行動評価が半期連続2回D評価であった場合になされるものであり、育休復帰時に降格することは、それ自体、被告の規定にも反する。」

「さらに、原告は、就職から1年5か月で副店長代行となり、その後5か月で副店長となり、その後1年で店長代行となり、その後6か月で店長となった後、複数の店舗の店長を歴任したものであって、店長としての知識及び経験もある上、その経歴からすれば、被告としても、原告の将来に期待してきたことがうかがわれる。また、直近の行動評価もB評価が続いていた上、本件育休から復帰した直後の評価シートにおけるコメントを踏まえても、被告が主張する店長として不適格な事情も認められない。」

「被告は、直近の行動評価において、原告には、店長として不適格な事情が複数みられた旨を主張するが、その主張する事実は立証されておらず、当該事実に係る指摘や指導があったことは、評価シートにも何らの記載もない。なお、仮に被告の主張する事情が認定されたとしても、これをもって本件措置をとったことが、正当化されるものではないが、そもそも、被告は、原告の行動評価を正当な根拠なく認定し、これを原告に伝えることもせず、事実上の偏見をもって原告を処遇したことが強く疑われるのであり、評価の前提となる事実の信用性及び評価自体の公正性にも極めて大きな疑問がある

「加えて、被告としては、法21条、22条の規定の趣旨・目的を十分に踏まえた職場体制整備を事前にすべきであったところ、被告は、原告の職場復帰の時期をあらかじめ把握していながら、復帰後の配置ないし労働条件について、事前に検討していた様子はなく、原告への周知もしていない。これらの事情によれば、被告が、育休後の就業が円滑に行われるよう、雇用管理等に関し必要な措置を講じていたとはいえない。」

以上のとおり、原告の本件育休復帰後の配置における業務の性質や内容、配置後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況、原告の知識や経験等を勘案した上、被告における態勢の不備を前提とすると、本件措置が、店長併存を避けるための職務遂行上やむを得ない措置として、必要なものであったとはいえない。

また、本件措置により原告の受けた不利な影響の内容や程度は、店長職の地位と手当等の喪失という重大なものである上、本件措置は、調整手当受給期間経過後も店長職への自動的な復帰を予定していない降格であり、本件措置後の被告の対応に鑑みれば、原告の将来的な原職復帰の客観的可能性も低いものと見ざるを得ず、不利な影響の程度も大きい。

(中略)

以上の事情によれば、本件措置が、法10条の趣旨に実質的に反しないものと認められる特段の事情の存在は認められない。

したがって、被告が、原告に対する調整手当の支給を打ち切った上、遅くとも令和6年9月1日に、原告をc店店長としなかったことは、法10条に反するものと言わざるを得ない。

3.ポストに空きがなくても違法になることはある

 原職に相当するポストがないと言われてしまうと、諦めてしまったり、他所への転職を考えたりする人は少なくありません。

 しかし、法の趣旨に反する意図が看取される場合には、当然、違法となります。

 裁判所の判断は、育児休業を取得した方に対する当て擦り等が疑われる事案に対処して行くにあたり、実務上参考になります。