通勤手当、扶養手当、住居手当に係る労働条件の相違が不合理とされた例

1.労働条件の相違

 短時間労働者(パート)と無期正社員との間での労働条件格差、有期契約労働者と無期正社員との間での労働条件格差に関しては、

「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パート・有期法)

という名前の法律で是正が図られています。

 具体的に言うと、同法8条が、

事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下 『職務の内容』という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

と不合理な待遇の禁止を規定し、同法9条が、

事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において『職務内容同一短時間・有期雇用労働者』という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において『通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者』という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

と差別的取扱いの禁止を規定しています。

 このルールの前身になったのが旧労働契約法20条ですが、近時公刊された判例集に、通勤手当、扶養手当、住居手当に係る労働条件の相違が不合理とされた裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、鹿児島地判令8.3.31労働判例ジャーナル172-20 一般財団法人奄美市開発公社事件です。

2.一般財団法人奄美市開発公社事件

 本件で被告となったのは、奄美市から出資を受け、公共的事業の用に供する土地の取得・管理や、公共施設の管理・運営等に関する事業を行うこをと目的とする一般財団法人です。

 原告になったのは、被告で有期契約職員として働いていた方です。無期転換権を行使した後、固有職員(無期契約職員)との労働条件格差が違法であると主張し、損害賠償を請求する訴えを提起したのが本件です。

 原告は、賞与だけではなく、通勤手当、扶養手当、住居手当に係る労働条件の相違の合理性も問題にしました。

 裁判所は、通勤手当、扶養手当、住居手当のそれぞれについて、次のとおり述べて、労働条件の相違の合理性を否定しました。

(裁判所の判断)

・通勤手当について

「被告における通勤手当は、通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるものであるといえるところ・・・、労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではない。また、職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは、通勤に要する費用の多寡とは直接関連するものではない。」

「被告は、固有職員は、勤務場所の変更が想定されているのに対し、契約職員は、これが想定されていないことを指摘しているが,前記のとおり、固有職員の配置転換は頻回に行われていたとはいえない上、被告における勤務場所は、奄美市内に限定されていたことを踏まえると、勤務場所の変更の有無が、通勤手当の支給額に相違を設けることが不合理であるとの評価を妨げる事情であるということはできない。」

「そうすると、固有職員と契約職員の間で通勤手当の金額が異なるという労働条件の相違は、旧労働契約法20条にいう不合理なものに当たると評価できる。」

・扶養手当について

「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、被告において、固有職員に対して扶養手当が支給されていたのは、固有職員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと認められる。このような目的に照らせば、契約職員についても、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するというべきである。そして、被告においては、契約職員は、契約期間が1年以内とされているが、原告を含むほとんどの契約職員は、有期労働契約の更新を繰り返して勤務していたのであるから、契約職員も相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。

「これに対し、被告には、被告が奄美市から施設の指定管理を受けられなかった場合には、当該施設の契約職員を解雇せざるを得ないという特殊性があり、契約職員は長期雇用が期待されていないと主張する。しかしながら、前記認定事実のとおり平成○○年4月以降、被告が奄美市からの指定管理を受けられなかったのは1度のみであり、そのほかは現在まで継続して指定管理を受けていることが認められる。このような事実関係からすると、上記特殊性を踏まえても、契約職員においても、相応に継続的な勤務が見込まれているという判断は左右されない。」

「そうすると、固有職員と契約職員の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の差異があること等を考慮しても、両者の間に扶養手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価できる。

・住居手当について

「被告における住居手当は、一律に1500円とされていたことからすると、職員の住宅に要する費用の補助という性質に加え、定額の支払によって職員の福利厚生を図り、継続的な雇用を確保するという目的で支給されていたと考えられる。このような目的に照らせば、固有職員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、住居手当を支給することとした趣旨は妥当するというべきである。そして、前記のとおり、契約職員も相応に継続的な勤務が見込まれていたといえる。また、固有職員は転居を伴う配置転換は予定されていないから、就業規則上の配置転換が予定されていることをもって、固有職員に対してのみ住居手当を支給することが不合理であるとの評価は妨げられない。」

よって、固有職員と契約職員の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の差異があること等を考慮しても、両者の間に住居手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価できる。

3.通勤の要否、継続的な勤務が見込まれていたか

 通勤手当との関係では、通勤の要否が期間の定めの有無とは無関係であることが指摘されました。

 扶養手当、住居手当との関係では、継続的な勤務が見込まれているとして、無期雇用契約者との間での差異を不合理だと判示しました。

 裁判所の判断は、労働条件格差の不合理性を主張・立証するにあたっての着想を提供するものとして、実務上参考になります。