1.無期雇用労働者と有期雇用労働者との間での賞与格差
以前、
無期労働者間での賞与格差が違法とされた例 – 弁護士 師子角允彬のブログ
を紹介しました。
これは同一労働同一賃金(同一価値労働同一賃金)の考え方を体現した、
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第8条及び第9条
の考え方を、無期労働者間の労働条件格差の合理性審査に及ぼし、賞与格差に違法性を認めた裁判例として注目を集めました。
この裁判例が注目を集めたのは、
明文に欠ける無期労働者間の労働条件格差が問題とされたことに加え、
格差が違法となりにくい賞与で違法性が認められたこと、
に理由があります。
賞与格差に違法性が認められにくいのは、
複合的な性質があって差異の不合理性を論証しにくいこと、
貢献度の判定に対する使用者の裁量が大きいこと、
に原因があります。
この複合的な性質の一つに、有為人材確保論という論理があります。
これは有意な人材に定着してもらうためには、無期雇用として雇用を安定させたうえ、手厚い処遇をする必要があるという論理です。
有為な人材である無期労働者には定着してもらわなければならない、
ゆえに、有期労働者よりも手厚く処遇する賃金設計をする必要がある、
といった使われ方をします。
一見もっともらしく聞こえますが、このような論理がまかり通るのであれば、およそあらゆる労働条件格差は正当化されてしまいます。
近時公刊された判例集に、このマジックワード的な論理が排斥され、賞与の労働条件格差が違法だとされた裁判例が掲載されていました。鹿児島地判令8.3.31労働判例ジャーナル172-20 一般財団法人奄美市開発公社事件です。
2.一般財団法人奄美市開発公社事件
本件で被告となったのは、奄美市から出資を受け、公共的事業の用に供する土地の取得・管理や、公共施設の管理・運営等に関する事業を行うこをと目的とする一般財団法人です。
原告になったのは、被告で有期契約職員として働いていた方です。無期転換権を行使した後、固有職員(無期契約職員)との労働条件格差が違法であると主張し、損害賠償を請求する訴えを提起したのが本件です。
原告が問題視した労働条件の一つに賞与格差がありました。
裁判所は、無期転換後の労働条件の相違が違法になることを否定しつつ、次のとおり述べて、賞与の差異を違法だと判示しました。
(裁判所の判断)
「被告における固有職員に対する賞与は、給与及び扶養手当の月額の合計額(基礎額)に、あらかじめ定められた一定の支給割合を乗じて支給されるものであり、被告の支給実績をみると、基本的に被告の業務に連動するものではないことからすると、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる。」
「上記の点に加え、被告は、賞与について、固有職員としての職務の遂行をし得る人材の確保やその定着を図る目的を有していたと主張するので、以下検討する。」
「前記認定事実のとおり、被告が、令和○年3月31日まで、固有職員に対して賞与を支給する一方で、契約職員に対して賞与を支給していなかったのは、被告の固有職員と契約職員の待遇を奄美市の常勤職員と非常勤職員(臨時的任用職員等)の待遇に準じたものとしていたことによる。したがって、被告が固有職員に対し、賞与を支給していた目的を検討するに当たっては、被告が参考にしていた奄美市の給与体系における賞与の位置づけを検討する必要がある。」
「そして、奄美市において、常勤職員に対し、賞与を支給する一方で、非常勤職員(臨時的任用職員等)に対して、賞与を支給していなかったのは、前記認定事実のとおり、旧地方自治法が、常勤職員に対しては、賞与を支給することができると規定していたが、非常勤職員に対しては、賞与を支給することはできないと規定していたことに起因している(同法203条の2、204条、204条の2)。旧地方自治法がこのような規定をしていた背景には、非常勤職員には、労働者性が低い勤務形態が想定される者が多数存在しているため、生活保障的な要素を含む給料及び手当ではなく、職務に対する純粋な反対給付としての報酬がなじむとの考えがあったと考えられるが、前記のとおり、当該規定については、労働者性が高い非常勤職員に賞与を支給できないという課題が指摘されるようになり、平成○○年の地方自治法改正(令和○年4月1日施行)及び令和○年の地方自治法改正(令和○年4月1日施行)等により、非常勤職員(会計年度任用職員)に対しても、期末手当及び勤勉手当を支給することが可能となったところ、奄美市は、上記各改正を受けて、非常勤職員に対しても、期末手当及び勤勉手当を支給するようになった。このような地方自治法の改正経緯や奄美市における賞与の支給経過に照らすと、奄美市が、常勤職員に対してのみ賞与を支給するという給与体系を設計していたのは、法律上の制約等に基づくものであり、常勤職員と非常勤職員の職責の違いを踏まえたものではないから、その目的が、常勤職員としての職務を遂行しうる有為な人材を確保しようとするものであったとはいえない。」
「これに対し、被告は、旧労働契約法20条が施行された平成○○年4月1日から原告が無期転換する平成○○年3月31日までの間、固有職員と契約職員の賞与制度の在り方に関し、同条の趣旨等を踏まえた検討を加えておらず(証人P2 22、23頁)、奄美市が非常勤職員に対して期末手当を支給するようになったことを後追いする形で令和○年4月から契約職員に対しても期末手当を支給するようになった。」
「また、被告の固有職員については、公募はされておらず、直近の被告の採用は、既存職員の高齢化等を理由に補充の必要が生じたため、契約職員から個別に登用したというもので、それ以前は、20年以上新規採用がなかったこと、奄美市からの派遣職員が事務局長等の要職に就く関係から、固有職員であっても配置転換の範囲は限定的であり、実際の異動の回数も多くはなかったことを踏まえると、被告において、固有職員に対し、人材の育成や活用を目的とした人事異動がされていたとは認められない。」
「以上の事実関係を踏まえると、被告は、固有職員としての職務を遂行できる有為な人材の維持確保の要請を踏まえて賞与制度を設計していたとは認められない。そうすると、被告の固有職員の基本給が、勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえることや、固有職員の方が、契約職員よりもその業務の内容に係る責任の度合いが高いことなどを考慮しても、被告における賞与の目的が、固有職員としての職務の遂行をし得る人材を確保し、その定着を図るものであったとみることはできない。」
「上記の賞与の趣旨等を踏まえて、賞与に関する労働条件の相違が不合理であると評価できるかを検討する。」
「前記のとおり、契約職員については、相応に継続的な勤務が想定されていたこと、契約職員と固有職員の職務の内容は共通する部分が少なくないこと、被告の主な業務内容は、奄美市から指定管理を受けた施設の管理であるところ、管理施設を適切に管理していくためには、契約職員が担っていた現場における施設の管理業務や自主事業の企画等は重要であるといえること、被告の職員数は、契約職員が全体の約6割を占めるのに対し、固有職員は約1割程度にとどまっており、被告が行う業務のうち、契約職員が行う業務が占める割合が大きいといえることを踏まえると、被告における賞与の趣旨である労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等は、契約職員にも当てはまると認められる。そうすると、固有職員にのみ賞与を支給することについては、不合理であると評価されうる。」
「他方で、被告における固有職員と契約職員の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲は、前記・・・に記載のとおりであり、一定の差異があることは否定できないものである。しかしながら、被告が、固有職員としての職務の遂行をし得る人材を確保し、その定着を図る目的で、固有職員に対して、賞与を支給していたとみることはできないこと、賞与の算定基礎となる基本給は、固有職員よりも契約職員の方が低く設定される場合が多いこと(原告の平成○○年度から平成○○年度までの基本給の月額は、平成○○年度を除き、16万5900円であったが、これは、固有職員の1級12号、2級2号に相当するものであり、昇給も予定されていなかった。これに対し、固有職員は、最大で4級30号の32万1400円までの昇給が想定されていた〔甲2、6の1、乙2〕。)に照らすと、固有職員と契約職員の職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の差異があることは、上記のとおり、賞与の支給の趣旨が当てはまる契約職員に対し、一律に賞与を支給しないことが不合理であるという評価を妨げない。」
「そうすると、被告において、平成○○年4月から平成○○年3月までの間、固有職員に対して賞与を支給し、契約職員に対して賞与を支給していなかったことは、不合理であると評価できる。」
3.有為人材確保論の否定、賞与格差の合理性否定
本件で目を引かれるのは、有為人材確保論が否定されているところです。
裁判所は、20年以上に渡って新規採用がなかったことなどを理由に、有為人材確保論を否定しました。それっぽく聞こえることからか、有為人材確保論が採用され、済し崩し的に労働条件格差の合理性が認められてしまう裁判例は少なくありません。しかし、本件の裁判所は有為人材排除論を否定しました。本件は有為人材排除論を否定するうえでの視座を提供するものとして実務上参考になります。
また、賞与格差の合理性が否定されている点も注目されます。冒頭で述べたとおり、賞与が合理性を否定される(格差違法と判断される)ことは稀です。賞与格差の合理性を否定した貴重な先例としても、裁判所の判断には意義があります。
一段落してきた感はあったのですが、最近、同一労働同一賃金(同一価値労働同一賃金)との関係での重要な裁判例が目立ちます。引き続き、裁判例の動向が注目されます。
