1.同一労働同一賃金ガイドライン
平成30年厚生労働省告示第430号「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」【改正令和8年4月28日厚生労働省告示第203号】は、賞与の労働条件格差について、次のとおり規定しています。
「賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならない。また、貢献に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた賞与を支給しなければならない。」
(中略)
「賞与については、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的として、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の労働意欲の向上等の様々な性質及び目的が含まれうるものであるが、通常の労働者と同様に短時間・有期雇用労働者にも当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的が妥当するにもかかわらず、短時間・有期雇用労働者に対し、通常の労働者との間の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの相違に応じた均衡のとれた内容の賞与を支給せず、かつ、その見合いとして、労使交渉を経て、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的が妥当しない他の短時間・有期雇用労働者に比べ基本給を高く支給している等の事情もない場合、当該賞与の相違は不合理と認められるものに当たりうることに留意すべきである。」
つまり、賞与であっても、フルタイム・無期雇用労働者と短時間・有期雇用労働者との間に不合理な差異を設ければ違法になりえます(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第8条及び第9条違反)。
しかし、労働者の貢献度の判定には使用者側に大きな裁量が認められています。また、その複合的な性格から単純な比較をしにくいという特性があります。そのため、不合理性を立証することは容易ではありません。
このような状況のもと、近時公刊された判例集に、無期労働者間での労働条件格差ではありますが、賞与格差を不合理で違法だと判示した裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、仙台高判令7.9.11労働判例ジャーナル172-1 東北映像事件です。
2.東北映像事件
本件で被告(控訴人兼被控訴人)になったのは、場外勝馬投票券販売所を設置する株式会社です。
原告(控訴人兼被控訴人)になったのは、被告に無期雇用されている嘱託社員(契約社員)です。正社員の区分で無期雇用されている社員との間で労働条件に不合理な差別があると主張し、損害賠償を請求する訴えを提起しました。
原審が原告の請求を一部認容したことに対し、原告、被告の双方が控訴したのが本件です。本件では、基本給、賞与、家族手当、住宅手当の差異が議論されましたが、裁判所は、次のとおり述べて、賞与の差異を違法だと判示しました。
(裁判所の判断)
「比較対象社員の令和2年4月から令和6年3月までの賞与は、別紙損害額一覧表の『賞与』『比較対象社員夏』及び『比較対象社員冬』各欄に記載のとおりであるのに対し、原告の同じ期間の賞与は、別紙損害額一覧表の『賞与』『原告夏』及び『原告冬』各欄に記載のとおりである。この間の原告の賞与は、比較対象社員の賞与の37.0%ないし43.3%である。」
「一般に、賞与は、支給対象期間の企業の業績等も考慮した上で、対象期間の労務の対価の後払いや功労報奨としての性質を有することに加え、将来に向けての労働意欲の向上、人材育成等の趣旨といった複合的な性質を有するものと解される。」
「被告の正社員に対する賞与は、『(基本給+役付手当)×掛率+精勤(査定)』という計算式(本件賞与計算式)で算定されて支給されること、被告が職務遂行能力を有する有為な人材の確保・定着を図る目的で賞与を支給している旨説明していることに照らせば、被告における賞与についても、上記と同様の性質を有するものと解される。」
「そこで原告の賞与について検討すると、前提事実・・・によれば、原告の職務は、一般の正社員と異なり、P4支所における比較的軽易な事務作業に限られ、配置の変更が制限されており、将来に向けての労働意欲の向上や人材育成は予定されておらず、その枠を超えて人材として活用することができないこと、原告とほぼ職務内容が同一の比較対象社員の賞与が高いのは本来は配置の変更をしながら人材育成をするはずであったものの被告の経営環境の変化によって予定どおりにならなかったという事情があり、比較対象社員については、その正社員という地位に照らし、将来、支所の館長を命じられるなど、職務内容、それに伴う責任の範囲、配置等に変更が生じる可能性があることが認められ、これらの事情からすると、原告と比較対象社員その他の正社員との間で賞与にある程度の相違を設けるのは、将来に向けての労働意欲の向上や人材育成等の賞与を支給する趣旨の一側面からみると適切であるといえる。」
「しかし他方、賞与には、支給対象期間の企業の業績等を踏まえた対象期間の労務の対価の後払いや功労報奨としての性質も有するのであって、無期契約社員にとってもその趣旨が妥当することに照らすと、原告と比較対象社員その他の正社員との間で設けられた賞与の相違は、上記の複合的な性質を踏まえた合理的なものでなければならないといえる。」
「そうすると、上記・・・のとおり原告と比較対象社員との間の基本給に係る待遇の相違(令和2年4月以降の原告の基本給(月額)が比較対象社員の基本給(月額)の79.7%ないし82.4%であること)は原告と比較対象社員その他の正社員の職務の内容、配置の変更の範囲その他の事情が反映されたものであって不合理なものではないところ、本件賞与算定式は基本給が賞与算定のベースにされているからその相違が必然的に反映されることや、上記ウのとおり将来に向けての労働意欲の向上や人材育成等の賞与を支給する趣旨の一側面に照らして原告と比較対象社員その他の正社員との間で賞与にある程度の相違を設けるのは適切であることを踏まえてもなお、令和2年4月以降の比較対象社員の賞与に対する原告の賞与の割合が37.0%ないし43.3%にとどまることは賞与の上記の複合的な性質に照らして合理的とはいえないのであって、原告と比較対象社員との間の賞与に係る待遇の相違のうち、同時期の比較対象社員の賞与の7割を下回る限度で不合理であって社会通念上許容されないといわざるを得ない。したがって、上記の賞与に係る待遇の相違は、その限度で違法であって、原告に対する不法行為が成立するというべきである。」
3.無期労働者間の比較であることから違法になりやすいのかも知れないが・・・
フルタイム・無期雇用労働者と短時間・有期雇用労働者との間には、雇用区分による差異が存在します。そのため「違うものを違うものとして扱う」という原理が働くことになります。これと賞与のもつ使用者の裁量性、複合的性格が相俟って、なかなか違法にはなりません。
他方、無期雇用労働者同士の比較となると、「同じもの(無期雇用労働者)は同じように扱う」という平等原則が働くことになります。このような意味において、ひょっとしたら無期労働者間の方が違法にはなりやすいのかも知れません。
裁判所の判断は、賞与の不合理性を問題にして行く事案に取組むにあたり、実務上参考になります。
