1.労働条件格差に対する法規制
短時間労働者(パート)と無期正社員との間での労働条件格差、有期契約労働者と無期正社員との間での労働条件格差に関しては、
「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パート・有期法)
という名前の法律で是正が図られています。
具体的に言うと、同法8条が、
「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下 『職務の内容』という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」
と不合理な待遇の禁止を規定し、同法9条が、
「事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において『職務内容同一短時間・有期雇用労働者』という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において『通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者』という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。」
と差別的取扱いの禁止を規定しています。
しかし、無期・フルタイムの労働者間での労働条件格差に関しては、これを直接規律する法令はありません。ルールの空白地帯となっており、同じく無期・フルタイムで働いている人達について、あるグループは高待遇で、また別のグループは低待遇であるという問題があっても、これを是正することは困難な状態にありました。
このような状況のもと、近時公刊された判例集に、無期労働者間の労働条件格差を違法だと判示した裁判例が掲載されていました。仙台高判令7.9.11労働判例ジャーナル172-1 東北映像事件です。
2.東北映像事件
本件で被告(控訴人兼被控訴人)になったのは、場外勝馬投票券販売所を設置する株式会社です。
原告(控訴人兼被控訴人)になったのは、被告に無期雇用されている嘱託社員(契約社員)です。正社員の区分で無期雇用されている社員との間で労働条件に不合理な差別があると主張し、損害賠償を請求する訴えを提起しました。
原審が原告の請求を一部認容したことに対し、原告、被告の双方が控訴したのが本件です。
裁判所は、一審よりも認容額を減じたものの、次のような一般論を述べたうえ、原告の請求を一部認容しました。
(裁判所の判断)
「非典型労働者には、嘱託、契約社員、期間社員、パート社員、アルバイト等があり、契約や就労の形態において多様であるが、通例、長期的な育成・活用は図られず、賃金等の待遇において正社員等の典型労働者との間で明確な格差を付けられている。期間の定めのある契約によって雇用される者が多く、労働需要が減退した場合には雇止めの対象とされやすいが、期間の定めのない者も含まれる。無期雇用の嘱託、契約社員であっても、給与、手当等の賃金の面で無期雇用の正社員等の典型労働者との間で格差を設けられており、非典型労働者の一形態に位置付けられる。」
「典型労働者との間で労働条件の相違のある非典型労働者の存在は雇用形態の多様化として把握され、格別問題視されていなかったが、2000年代に入ると日本経済の不況と相侯って非典型労働者と典型労働者との間の賃金等の待遇の格差が徐々に社会問題化し、社会的に不公正な格差の是正のための政策的対応が求められるようになったため、次のとおり、非典型労働者の就労状況改善のための立法政策が展開された。」
「まず、平成19年に短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下『短時間労働者法』という。)が改正され、短時間労働者に対する均等・均衡待遇ルールが努力義務として定められ(平成19年法律第72号)、同年成立した労働契約法3条2項に、『労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。』との均衡処遇の訓示規定が設けられた(同年法律第128号)。」
「平成24年8月には、無期・有期契約労働者間の労働条件につき不合理な相違を禁止する規定の新設等を内容とする労働契約法の改正がされた(平成24年法律第56号)。平成25年4月1日に施行された労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)は、有期労働契約を締結している労働者(有期契約労働者)の労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している労働者(無期契約労働者)の労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理なものであってはならない旨規定した。同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容等を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される(最高裁平成28年(受)第2099号、第2100号平成30年6月1日第二小法廷判決、最高裁平成29年(受)第442号平成30年6月1日第二小法廷判決参照)。」
「さらに、平成30年7月6日に公布された『働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律』(平成30年法律第71号。以下『働き方改革関連法』という。)は、短時間労働者法を改正して、短時間労働者に加えて有期雇用労働者を同法の対象とするとともに、法律の名称を『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』(以下『短時間・有期雇用労働法』という。)に変更した。そして、働き方改革関連法は、短時間労働者の待遇について通常の労働者の待遇との相違が不合理であってはならない旨規定していた短時間労働者法8条と労働契約法20条を統合して、短時間・有期雇用労働法8条に不合理な待遇の禁止規定を置き、『事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。』と定めるとともに、同法9条に通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止規定を設け、『事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。』と定めた。働き方改革関連法による短時間労働者法及び労働契約法の改正部分は令和2年4月1日から施行されている(ただし、中小企業に対しては令和3年4月1日から施行。この場合において、労働契約法20条の規定は、なおその効力を有するものとされ、中小企業においても同条の均衡待遇ルールが適用される。平成30年法律第71号改正附則11条1項)。」
「このようにして均等・均衡待遇ルールについて行政による政策的な推進が図られ、立法を経て社会に定着してきた経緯を踏まえるとともに、無期雇用の嘱託、契約社員は正社員との間で賃金等の労働条件の格差を設けられている点では有期雇用労働者と変わりはなく、また、有期雇用労働者といえども雇止めの制限規定(労働契約法19条)によって労働需要が続く限り契約の更新を合理的に期待できる実態があるのであって、無期雇用の嘱託、契約社員との間で雇止めの有無による待遇の相違を強調するのは相当ではないことに鑑みると、働き方改革関連法による短時間労働者法及び労働契約法の均等・均衡ルールに係る改正が短時間・有期雇用労働法8条及び9条に結実し、その改正部分が施行された令和2年4月1日以降は、無期雇用の非典型労働者と典型労働者との間の労働条件においても同ルールが公序として社会内に確立していると認めるのが相当である。したがって、令和2年4月1日以降において無期労働契約の労働者間の労働条件の相違が不合理であってその程度が社会通念上許容されない場合は違法となり、不法行為を構成するというべきである。そして、その判断をするに当たっては、短時間・有期雇用労働法8条及び9条の規定の趣旨が重要な指標になるものと解される。」
「これに対し、令和2年3月31日以前においては、均等・均衡待遇ルールが無期労働契約の労働者間の労働条件の相違をも規律する公序として社会内で確立していたとまでは認められない。また、無期労働契約の労働者間の待遇差について、短時間・有期雇用労働法8条と同旨の規定は存在せず、労働契約法3条2項は上記のとおり訓示規定であるから、特定の労働契約が同条に違反しても契約を無効とする効果や不法行為としての違法性が生じるものではない。したがって、同日以前の無期雇用の非典型労働者と典型労働者との間の労働条件の相違が不法行為を構成する余地はない。本件では、同日以前に原告と正社員である比較対象社員との間で賃金における待遇差があったとしても違法とはいえず、不法行為は成立しない。」
3.当初より無期労働者であった者との格差が違法とされた
無期労働者間の労働条件格差については、これまでも問題になった裁判例は存在しました。大阪地判令2.11.25 労働経済判例速報2439-3 ハマキョウレックス(無期転換)事件は、請求こそ否定したものの、
「無期転換後の原告らと正社員との労働条件の相違も、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲等の就業の実態に応じた均衡が保たれている限り、労契法7条の合理性の要件を満たしているということができる。」
と無期労働者間での格差が労働契約法7条違反を構成する余地を認めました。
無期・フルタイムの労働者間での労働条件格差の問題にどう取り組むか – 弁護士 師子角允彬のブログ
その後、令和7年には、無期-有期の間で不合理とされた労働条件格差について、有期労働契約者が無期転換権を行使した後も違法なままだとした裁判例も出現しました。
有期⇔無期の時に不合理で違法とされた労働条件格差は、無期⇔無期になっても違法とされた例 – 弁護士 師子角允彬のブログ
このように無期労働契約者間の労働条件格差を問題にする素地は少しづつ整いつつありました。本記事では分量の問題から規範部分の引用に留めましたが、ついに無期労働契約者間での労働条件格差を問題にする訴訟において認容例が出たことになります。
裁判所の判断は、法の間隙を埋める画期的なもので、実務上、参考になります。
