1.組織的な違法行為
多くの会社は法を守ろうという意識のもとで経済活動を行っています。結果的に法が遵守されていないことはありますが、積極的に法を破ってやろうという意図のもとで組織的に違法な行為に及ぶということは、それほど多くはありません。
しかし、「多くはない」とはいえ、違法行為を目的としているとしかいいようのない会社も存在しないわけではありません。
それでは、こうした会社に誤って就職してしまった方が、普通の会社に再就職するために必要な期間に相当する逸失利益の賠償を請求することはできないのでしょうか?
近時公刊された判例集に、これを認めた裁判例が掲載されていました。東京高判令7.2.6労働判例1353-111 SES会社経営者ら事件です。
以前、
従業員の経歴等を詐称してITエンジニアを派遣していた会社が、従業員に不法行為責任を負うとされた例 – 弁護士 師子角允彬のブログ
ブラック企業に捕まえられてしまった人は、損害賠償を請求できるか? – 弁護士 師子角允彬のブログ
という記事を書きましたが、この中で紹介した事件の控訴審が本件です。
2.SES会社経営者ら事件
本件で被告(控訴人兼附帯被控訴人)になったのは、
株式会社フロンティア及び株式会社サクセスの前代表取締役、
TeckLove株式会社の代表取締役
の二名です。
TeckLove、フロンティア、サクセスは、いずれもSES(システムエンジニアリングサービス)事業として、システム開発、保守、運用事業の委託を受ける事業を行い、従業員を委託を受けた企業等に常駐させていました。
原告(被控訴人兼附帯控訴人)になったのは、
TeckLoveの求人に応募して採用内定を受け、プログラミングスクール(スクール)の受講を受けた後、フロンティアとの間で雇用契約を締結していた方(原告A)、
フロンティアの求人に応募して採用内定を受け、スクールを受講した後、フロンティアとの間で雇用契約を締結していた方(原告B)、
ITソリューションズ(設立準備中に設立中止)の求人に応募して採用内定を受け、サクセスとの間で雇用契約を締結した方(原告C)、
の三名です。退職後、
経歴を詐称したスキルシートの作成や取引先との面接を強要され、
その結果、
取引先において能力を超過する業務を担当することとなり、
業務を遂行することができず退職に追い込まれて精神的苦痛を受けた
などと主張し、損害の賠償を求める訴えを提起したのが本件です。
一審判決は不法行為の成立を認め、一定の限度で原告らの請求を認容しました。
しかし、詐欺行為を事業内容とする会社での勤務を継続することは正当な利益になるものとは考え難いとして、退職後の逸失利益の請求が損害になることは否定しました。
こうした判決に被告らが控訴し、原告らが付帯控訴したのが本件です。
控訴審は、被告らの控訴を棄却する一方、次のとおり述べて、退職後の逸失利益の請求を認めました。
(裁判所の判断)
「被控訴人Aは、控訴人らの指示の下、hで違法な業務に従事し、控訴人らによる一連の不法行為によって再就職するための転職活動を余儀なくされ、他の企業において就労する機会を逸失したものと認められる。そして、一般に転職に要すると見込まれる期間に加え、被控訴人Aのhにおける就労期間が極めて短期間であったことを踏まえると、上記転職活動には少なくとも5か月程度を要するというべきである(5か月を超える期間の逸失利益の主張は採用できない。)。また、被控訴人Aは、当時大学の新卒であり、hにおける月額30万円の賃金は、5年程度の経験を有するシステムエンジニアとしての給与であるところ、被控訴人Aはシステムエンジニアとしての職務経験を全く有しないことを踏まえると、被控訴人Aの再就職に要する期間の逸失利益の単価は月額25万円と認めるのが相当である。」
「なお、被控訴人Aは、hを退職してから6か月の間、hにおける勤務を継続し、月額30万円の賃金を得ることができたとも主張するが、hにおける業務が違法な詐欺行為を実質的な内容とするものであることからすれば、同社での勤務の継続を前提とした逸失利益を想定することはできないから、同主張は採用できない。」
「したがって、この間の逸失利益は125万円(=25万円×5)となる。」
(中略)
「被控訴人Bは、控訴人らの指示の下、hで違法な業務に従事し、控訴人らによる一連の不法行為によって再就職するための転職活動を余儀なくされ、他の企業において就労する機会を逸失したものと認められる。そして、前記認定のとおり、被控訴人Bはhの退職日から約3か月後である令和4年1月14日には再就職しているところ、退職日の翌日(令和3年10月11日)から上記再就職日の前日(令和4年1月13日)までの3か月余り(95日間)については、再就職のために要する期間として相当というべきであり、同期間の逸失利益が認められる(現実に転職に要した上記期間を超える期間の逸失利益の主張は採用できない。)。また、被控訴人Bは前職において会社員として稼働し、月30万円程度の給与を得ていたこと・・・を踏まえると、被控訴人Bが再就職に要する期間の逸失利益の単価は月額30万円と認めるのが相当である。」
「なお、被控訴人Bは、hを退職してから6か月の間、hにおける勤務を継続し、月額30万円の賃金を得ることができたとも主張するが、hにおける業務が違法な詐欺行為を実質的な内容とするものであることからすれば、同社での勤務の継続を前提とした逸失利益を想定することはできないから、同主張は採用できない。」
「したがって、この間の逸失利益は95万円(=30万円×3+30万円×5/30)となる。」
(中略)
「被控訴人Cは、控訴人らの指示の下、jで違法な業務に従事し、控訴人らによる一連の不法行為によって再就職するための転職活動を余儀なくされ、他の企業において就労する機会を逸失したものと認められる。そして、一般に転職に要すると見込まれる期間に加え、被控訴人Cのjにおける就労期間が極めて短期間であったことを踏まえると、上記転職活動には少なくとも5か月程度を要するというべきである(5か月を超える期間の逸失利益の主張は採用できない。)。また、被控訴人Cは前職において不動産の営業職として稼働し、月60万円程度の給与を得ていたこと・・・を踏まえると、被控訴人Cが再就職に要する期間中の逸失利益の単価は、少なくとも被控訴人Cの主張する月額30万円と認めるのが相当である。」
「なお、被控訴人Cは、jを退職してから6か月の間、jにおける勤務を継続し、月額30万円の賃金を得ることができたとも主張するが、jにおける業務が違法な詐欺行為を実質的な内容とするものであることからすれば、同社での勤務の継続を前提とした逸失利益を想定することはできないから、同主張は採用できない。」
「したがって、この間の逸失利益は150万円(=30万円×5)となる。」
3.再就職に必要な合理的期間の賠償請求が認められた
問題のある企業でも、辞めて転職することは簡単ではありません。問題に気付いてすぐに辞めようにも、短期職歴が足枷となってしまいます。
裁判所の判断は、違法行為をしている会社からの離脱を促進する意味を持つものであり、実務上参考になります。
