1.分限制度
一般に分限とは「公務能率を維持するための官職との関係において生ずる公務員の身分上の変動で職員に不利益を及ぼすもの」をいいます(森園幸男ほか編著『逐条国家公務員法』〔学陽書房、全訂版、平27〕645頁参照)。
分限処分の適否の判断基準として、最二小判昭48.9.14労働判例186-45広島県教委事件は、
「地方公務員法二八条所定の分限制度は、公務の能率の維持およびその適正な運営の確保の目的から同条に定めるような処分権限を任命権者に認めるとともに、他方、公務員の身分保障の見地からその処分権限を発動しうる場合を限定したものである。分限制度の右のような趣旨・目的に照らし、かつ、同条に掲げる処分事由が被処分者の行動、態度、性格、状態等に関する一定の評価を内容として定められていることを考慮するときは、同条に基づく分限処分については、任命権者にある程度の裁量権は認められるけれども、もとよりその純然たる自由裁量に委ねられているものではなく、分限制度の上記目的と関係のない目的や動機に基づいて分限処分をすることが許されないのはもちろん、処分事由の有無の判断についても恣意にわたることを許されず、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断するとか、また、その判断が合理性をもつ判断として許容される限度を超えた不当なものであるときは、裁量権の行使を誤つた違法のものであることを免れないというべきである。」
と判示しています。
この
考慮すべき事項を考慮しないことを「考慮不尽」と、
考慮すべきでない事項を考慮することを「他事考慮」と
いいます。
考慮不尽や他事考慮については、理論上、その可能性が指摘されてはいるものの、何がこれにあたるのかは判然としません。なぜ、そのように言えるかというと、処分行政庁はあらゆることを考慮できるようになっているからです。
例えば、上記広島県教委事件は、上記の判示に続け、職務適格性との関係で次のとおり続けています。
「適格性の有無は、当該職員の外部にあらわれた行動、態度に徴してこれを判断するほかはない。その場合、個々の行為、態度につき、その性質、態様、背景、状況等の諸般の事情に照らして評価すべきことはもちろん、それら一連の行動、態度については相互に有機的に関連づけてこれを評価すべく、さらに当該職員の経歴や性格、社会環境等の一般的要素をも考慮する必要があり、これら諸般の要素を総合的に検討したうえ、当該職に要求される一般的な適格性の要件との関連においてこれを判断しなければならないのである。」
諸般の事情を評価して一般的要素をも考慮し総合的な検討を行うとなると、最早、
「あらゆることを好きなウェイトで考慮して良い」
といった意味合いになってくるからです。
このようなルールのもとでは、あらゆることを考慮して良いので「他事考慮」が生じることはないし、特定の要素を捨象して他の要素を重視するといった総合的検討が許されているので「考慮不尽」が生じることもありません。
そのため、考慮不尽や他事考慮が認められる事案は珍しいのですが、近時公刊された判例集に「考慮不尽」が認められた裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、大阪高判令7.10.8労働判例1353-91 大阪府・府警察本部長(休職期間満了)事件です。
2.大阪府・府警察本部長(休職期間満了)事件
本件で原告(控訴人)になったのは、大阪府警察職員に任命され、警部補の地位にあった方です。交通事故による受傷を機に休職し、復職を求めたにもかかわらず分限免職処分とされたことを受け、処分の取消を求める訴えを提起したのが本件です。
一審は原告の請求を棄却しました。
しかし、原告側の控訴を受けた二審は、次のとおり述べて、一審判決を破棄し、分限免職処分を取消しました。
(裁判所の判断)
「本件処分は、医師2名の意見を聴いた上、法28条1項2号に基づき、平成30年6月22日にされたものであり、同日時点で、控訴人は、その身体症状に照らし、復職は不可能であった・・・。」
「また、本件処分に先立ち、処分行政庁は、控訴人に対し、平成27年6月22日付けで休職期間を同年9月17日までとする分限休職処分をし、その後、4回にわたり分限休職処分(更新処分)をし、4回目の平成28年12月14日付け分限休職処分における休職期間は平成29年6月13日とされていた。そして、処分行政庁は、同年5月18日の本件通勤試行後、控訴人に対し、4回にわたり分限休職処分(更新処分)をしたところ、4回目の平成30年6月14日付け分限休職処分における休職期間の末日は同月21日とされていた。・・・」
「以上からすると、本件処分がされた同月22日当時、控訴人は、外形的には、分限免職事由である『心身の故障のため、職場の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合』に当たるとみることができる。」
「しかしながら、上記・・・で説示したとおり、控訴人は、平成29年5月18日の本件通勤試行の時点では、被控訴人において控訴人の状態に合わせて職場の環境調整を行い、親指に刺激のある作業を避け、自動車通勤に配慮することにより同年6月14日から職場復帰は可能であった。」
「ところが、上記・・・で説示したとおり、j署長が妥当性及び相当性を欠いた電車での通勤試行を指示したこと並びにe課長代理がラッシュ時を避けて任意の日と時間帯で良いことを告げることなくj署長の上記指示を控訴人に連絡したことにより,控訴人は、本件通勤試行を行った結果、既存の障害(頚髄中心性損傷)が急性増悪し、そのことが原因となり、休職期間を同年6月13日までとする分限休職処分の後、『心身の故障のため、長期の休養を要する場合』(法28条2項1号)に当たるとして分限休職処分(更新処分)が行われ、最終的に本件処分に至ったものということができる。」
「そうであるとすれば、本件処分は、本件通勤試行の時点で、条件付きではあるものの復職が可能な状態であった控訴人に対し、j署長らによる妥当性及び相当性を欠いた電車での通勤試行の指示等によって本件通勤試行が行われた結果、復職が可能な程度にまで回復していた控訴人の症状が急性増悪し、そのことが原因で控訴人に対する分限休職処分が更新されていたという事情を適切に考慮することなく、法28条1項2号所定の事由があると判断して行われたものであり、考慮すべき事項を考慮せずに判断し、また、その判断が合理性を持つ判断として許容される限度を超えた不当なものであるから、本件処分は、裁量権の行使を誤った違法のものと認められる。 」
3.自身で心身を故障させておいて心身に故障があるは通用しない
以上のとおり、裁判所は考慮不尽を理由に分限免職処分の取消を認めました。
これは、復職可能になった職員に対し、不適切な指示を行い、再び復職不可能な状態に追い込んだことを考慮せず処分を行うことを違法であるとしたものです。
信義則でも同様の結論は導けそうな事案ではありますが、裁判所の判断は、休職していた公務員の復職の可否をめぐる事件に取り組むにあたり、実務上、参考になります。
