外国人の外国人に対する外国語での呼びかけが侮辱なのか冗談なのかは、日本の裁判所でどのように判断されるのか?

1.外国人間での侮辱行為

 外国人労働者の増加に伴って、外国人上司が外国人部下に対して外国語で侮辱的な言葉を浴びせるといった事件が見られるようになっています。

 日本で行われた侮辱行為は、当然のことながら、日本の不法行為法のもとで違法性が判断されることになります(法の適用に関する通則法17条)。しかし、侮辱行為が外国語で行われている場合には、それが本気なのか冗談なのかが問題になることがあります。

 日本語にも、同じ言葉でありながら、対話者の立場、状況、脈絡によって意味が違ってくる言葉があります。例えば、職場で多人数が出席している会議の場で上司が部下に対して「アホ」と怒鳴るのと、漫才師がネタの最中に相方に対して「アホ」と突っ込みを入れるのとでは、同じ言葉でも聞いている人の印象は全く異なるはずです。

 日本人間のトラブルに日本人弁護士が介入する場合、ある呼びかけが侮蔑的なものなのか、冗談であるのかは、基本的に的確に捉えることができます。日本の裁判所に説明をするにあたっても、特に言語文化的な苦労を感じることはありません。

 しかし、外国人同士で外国の侮蔑表現が使われている場合、事柄は一気に複雑になります。当該国の文化的背景を持たない日本人である弁護士や裁判官には、使われている言葉の辞書的な意味は分かっても、細かなニュアンスが理解できないからです。

 そのため、日本にいる外国人同士の事件で、辞書的な意味における暴言が用いられている場合でも、「あれは冗談だった」と言われた場合に、

それが侮辱行為なのか、それとも冗談なのか、

侮辱行為だとして、それをどのように立証するのか、

はしばしば実務家を悩ませています。

 近時公刊された判例集にも、この問題を扱った裁判例が掲載されていました。一昨日、昨日とご紹介している、大阪地判令8.2.24労働判例ジャーナル171-56 High place事件です。

2.High place事件

 本件で被告になったのは、

インターネットによる通信販売業等を事業内容とする株式会社(被告会社)、

被告会社の代表取締役社長(被告B)

の2名です。

 原告になったのは、 被告Bから雇用された後、被告会社から雇用された方です。

 被告会社に対して割増賃金ほか未払賃金等を請求するとともに、被告Bによる侮辱行為や被告会社による賃金減額・遅配・社会保険未加入等を理由として損害賠償を請求する訴えを提起したのが本件です。

 本件の事案としての特徴の一つに、原告も被告Bも韓国人であったことがあります。

 原告は侮辱行為の一つとして、

「被告Bは、令和2年12月18日、原告に対し、カカオトーク(韓国で広く用いられているSNS)で『ポンコツ』という意味の韓国語である『★★(ビョンシン)』(漢字表記は『病身』)とのメッセージを送信し、原告を侮辱した(・・・原告と被告B間のやり取りは、韓国語で行われている・・・)。」

というものがありました。

 これに対し、被告らは、

「原告に対し、原告の主張するメッセージを送信したことは認める。★★(ビョンシン)は、韓国人同士のやり取りであれば、友人同士のやり取りとして散見されるものであり、不法行為には当たらない。」

と応じました。

 このような状況のもと、裁判所は、次のとおり述べて、被告Bの行為に違法性を認めました。

(裁判所の判断)

「被告Bは、令和2年12月18日、原告に対し、カカオトークで『★★(ビョンシン)』何しているのとのメッセージを送信し、原告は、これに対し、携帯していましたと返信した・・・。」

「・・・翻訳は、韓国語会話が可能な原告の妻が、Google翻訳、LINE翻訳、Papago等の翻訳ツールを用いて、原告に韓国語で確認を取りながら行った。同資料では、上記『★★(ビョンシン)』は『ポンコツ』と訳出されている。」

「被告代理人は、原告代理人に対する回答書面・・・において、・・・翻訳には問題があると指摘し、被告会社の社員(来日9年で日本語能力検定1級を保有)が翻訳をした結果を添付した。同添付資料では、上記『★★(ビョンシン)』は『アホ!』と意訳されている。・・・」

「翻訳アプリDeepLを用いて被告Bのメッセージを翻訳すると『★★(ビョンシン)』は、『バカヤロー』と訳出される・・・。」

「ソウルで育ち、来日した韓国人が、個人で作成した韓国語学習ホームページには『韓国ではみなさんの想像以上に、日常的にかつフランクに悪口が使われてる』、『悪口が意味するニュアンスなどが日本と韓国では異なる』、『悪口を使うのは絶対にいいことだとは言えませんが、韓国では日常生活の中で習慣的に悪口を使っている』との記載があるほか、『★★(ビョンシン)』は『★★(バボ)』よりも悪口の程度が酷い、韓国の辞書では『病気がある方・障害者を見下げる表現』と書かれていて、単なる悪口ではなく弱者や障害者を蔑視・差別する意味も含まれているので、絶対に軽い気持ちで使わない方がいい悪口である旨の記載がある。なお、同ホームページでは『★★』は、韓国語の辞書では『知能が不足な人・判断ができない人を悪く称する言葉』と書かれているが、自分自身を謙譲する表現としても使われている、『★★』は日本語では『バカ』で意味も使い方もほぼ同じではあるが、韓国ではそこまで強い悪口ではないと記載されている。」

「G(株式会社F及びD社の社長)は、ビョンシンを『身体が動けないくらいの、人間じゃないみたいな感じ』の韓国の悪口と説明している・・・。」

「H(被告Bの友人)は、ビョンシンは、日本語には直訳できない悪口である、友達同士で普通に言うこともあるが、受け手側によって重く受け止められることもある、けんかの際の罵倒語としても用いられると説明している・・・。」

(中略)

「上記認定事実・・・によれば、『★★(ビョンシン)』は、韓国では障害者に対する差別的・侮辱的な意味が本来的な語義であり、喧嘩の際の罵倒語としても用いられるものであるが、その関係性いかんによっては、冗談として用いられることもあると認めるのが相当である。」

原告は、3~4歳程度年上である被告Bに対する呼びかけ語として、韓国社会で一般に社長に対して用いられる『★★★(社長様)』ではなく『★(ヒョン)』を用いており、年上の男性に対する親しみを込めた表現で呼び掛ける関係性にあったとはいえる。もっとも、・・・『★★(ビョンシン)』のメッセージ送信がされた令和2年12月時点では、原告と被告Bが知り合ってから半年程度しか経っておらず、『★★(ビョンシン)』と呼び掛けて何ら問題がない関係であったとは認めるに足りない(実際、『★★(ビョンシン)』という用語を使って問題がなかったのであれば、被告Bがその後の会話等でも『★★(ビョンシン)』を使っても不思議ではないが、そのような様子は窺われない。)。

これらの事情に鑑みると、被告Bの原告に対する『★★(ビョンシン)』を用いたメッセージ送信は、原告に対する侮辱として不法行為を構成するものというべきである。

3.知り合ってからの年月、用語の使われている頻度等で判断された

 言語的、文化的な背景が分からないと、ある外国語が侮蔑の趣旨で使われているのか冗談の趣旨で使われているのかを正確に判断することは容易ではありません。原告、被告のそれぞれが人証を立てて、「侮辱である」「冗談である」と言い合っている場合の判断は混迷を極めます。

 このような状況のもと、本件の裁判所は、知り合ってからの年月や、用語の使われている頻度に着目して侮辱かどうかを判断する手法を採用しました。

 裁判所の判断は、外国語での侮辱の成否が問題になる事案に取組むにあたり、実務上参考になります。