「そんなん(時短勤務)をとって大丈夫か?」ほか、子どもから病気をうつされたことを理由とする休暇取得への否定的言動がマタハラとされた例

1.マタニティ・ハラスメント

 妊娠、出産等に関するハラスメントを「マタニティ・ハラスメント」といいます。

 法的に禁止されているマタニティ・ハラスメントには、

「制度等の利用への嫌がらせ型」という類型と

「状態への嫌がらせ型」という類型とがあります。

 「制度等の利用への嫌がらせ型」とは、

「その雇用する女性労働者の労働基準法・・・第65条第1項の規定による休業その他の妊娠又は出産に関する制度又は措置の利用に関する言動により就業環境が害されるもの」

を言い、

「制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの」

が典型とされています(平成28年厚生労働省告示第312号『事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針【令和2年6月1日適用】参照)。

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605635.pdf

 要するに、労働基準法65条1項所定の産前産後休業を取得することや、育児介護休業法上の育児休業の取得や時短勤務の利用を阻害するような言動をとってはダメだということです。

 それでは、制度の利用を阻害するような言動とは、具体的にどのようなものを指すのでしょうか? 近時公刊された判例集に、「制度等の利用への嫌がらせ型」と思われるマタニティ・ハラスメントを認めた裁判例が掲載されていました。大阪地判令8.2.18労働判例ジャーナル171-28 羽曳野市事件です。

2.羽曳野市事件

 本件で被告になったのは、地方公共団体(羽曳野市)です。

 原告になったのは、被告の職員に採用され、賛辞、課長、副理事を経て、市民人権部副理事兼人権推進課課長に任命されていた方です。

 職員Aに対するハラスメント行為を理由として、停職3か月の懲戒処分や、主任への降任を内容とする分限処分をされたことを受け、これら各処分の取消を求めて出訴したのが本件です。

 本件で問題となったハラスメント行為は多岐に及びますが、その中の一つに、

「原告は、子の発熱がうつったことを理由とするAの休暇取得に対し、Aに『最近の親は弱い、子の病気が親にうつるのは、自分が子育てした経験ではありえないこと』と皮肉めいたことを言い、育児に伴う時短勤務についても、『時短ばかりして大丈夫なん』など非難めいた発言をして、Aの育児に関する制度取得を牽制した」

との行為がありました。

 これについて、裁判所は、次のとおり述べて、マタニティ・ハラスメントだと判示しました。なお、結論として、本件では原告の請求は棄却されています。

(裁判所の判断)

「原告は、令和3年11月26日の事情聴取の際、Aが時短勤務をしていることについて『そんなんとってて大丈夫か?』という発言をしたことや、子供から病気をうつされたことを理由に休暇を取得しようとするAに対し、インフルエンザの娘を看病していたが、自身にうつることはなかったと発言したことを認めている・・・。このことに加え、原告は、同月17日の事情聴取において、『こっちはケガしたのに忙しいからずっと出てる。医者から言われた療養すらできていないのにあっちは時短とかとって平気で休んでる。仕事のイロハも分かってないような連中には何のお咎めもないのか』などと述べていたこと・・・などからすれば、原告が、Aに対し、育児を理由とする時短勤務や休暇取得について、否定的な発言をしたと推認することができる。」

「Aが育児に関連して休暇や時短勤務制度を利用していることについての否定的発言は、上記各制度を含めたAの権利行使を非難するものであって、Aにおいて、休暇取得や時短勤務の継続を理由として、人事評価その他において不利益な取扱いを受けるとの懸念を生じさせるものといえ、Aの職場環境を悪化させるものであることから、マタニティ・ハラスメントに該当するというべきである。」

3.心配を装った婉曲表現でもダメ、子の看護休暇ではなくてもダメ

 権利行使をすると直接的な非難をすることは憚られるのか、「大丈夫か?」などと婉曲的な非難をしてくる人がいます。ストレートな表現ではないことから、こうした婉曲表現はハラスメントの成否が問題になり得ます。

 また、子の看護のための休暇は育児介護休業法に根拠がありますが(育児介護休業法16条の2)、親が病気になった時の休暇の仕組みは法律に書かれているわけではありません。そのため、子の病気が親に感染し、親が休暇をとった場合に、これを当て擦ることが「制度等への嫌がらせ」に該当するかも問題になります。

 本件の裁判所は、いずれもマタニティ・ハラスメントに該当すると判示しました。

 懲戒処分等の効力を議論する中で判断されたことではありますが、マタニティ・ハラスメントを構成する言動の一例として、実務上参考になります。