1.主観的要件(故意)は必要なのか?
公務員との関係で定められている懲戒処分の指針では、犯罪とされている行為と似たような文言を見ることがあります。
例えば、国家公務員の懲戒処分の標準例を定める、人事院事務総長発 平成12年3月31日職職-68『懲戒処分の指針について』(最終改正:令和2年4月1日職審―131)は、
「酒気帯び運転をした職員は、免職、停職又は減給とする」
と規定しています。
酒気帯び運転は、道路交通法上、
「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。」(道路交通法65条1項)、
「次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
(略)
三 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等(自転車以外の軽車両を除く。次号において同じ。)を運転した者で、その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの」(道路交通法117条の2の2第1項)、
犯罪とされています。
刑法上、
「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」
とされています(刑法38条1項)。つまり、犯罪が成立するといえるためには故意(罪を犯す意思)が必要となるのが原則で、過失で処罰されるのは例外として過失犯処罰規定が定められている場合(法律に特別の規定がある場合)に限られます。
過失犯処罰規定がないことから、酒気帯び運転の罪が成立するためには「故意」が認められる必要があります。
それでは、この犯罪としての「酒気帯び運転」と懲戒事由としての「酒気帯び運転」とは同様の意味に理解されるのでしょうか? それとも、犯罪は犯罪、懲戒事由は懲戒事由といったように、それぞれ独自の意義で理解されるのでしょうか?
近時公刊された判例集に、この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が掲載されていました。岡山地判令8.2.25労働判例ジャーナル171-26 懲戒免職処分等取消請求事件です。
2.懲戒免職処分等取消請求事件
本件で原告になったのは、消防署の消防副士長として勤務していた地方公務員の方です。
酒気帯び運転を行ったこと等を理由に懲戒免職処分とされたことを受け、その取消等を求めて出訴した事件です。
本件の原告は、
「酒気帯び運転罪は故意犯であり、運転者が酒気を帯びていることを認識・認容していなければ罪に問うことはできない」
として、故意がないことを理由に、問題とされた運転行為は「酒気帯び運転」には該当しないと主張しました。
このような主張を踏まえ、裁判所は、次のとおり述べて、故意の欠如を理由に、問題とされた行為が「高梁市職員の懲戒処分の基準に関する規程」(本件規程)上の「酒気帯び運転」に該当することを否定し、懲戒処分の取消請求を認めました。
(裁判所の判断)
「本件規程は、交通事故・交通法規違反を懲戒処分の対象となる非違行為として定め、その処分は、交通法規違反処分基準によるものとし(別表(第2条関係)・別紙)、同基準上、飲酒運転・酒気帯びが非違行為として定められ、本件運用規程により酒気帯びとは、道路交通法令と同様に、アルコール濃度呼気1リットル中0.15ミリグラム以上の場合をいうものとされている・・・。」
「本件規程の上記定めによれば、本件規程は、交通法規に違反する行為をもって懲戒処分の対象としたものと解されるが、ここで、酒気帯び運転について規定する交通法規である道路交通法65条1項及びこれに違反したときの罰則を定める同法117条の2の2第3号は、酒気を帯びて車両等を運転し,その運転者が身体に政令で定める程度(血液1ミリリットルにつき0.3ミリグラム又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム)以上にアルコールを保有する状態にあったという客観的構成要件のほか、主観的構成要件として、運転時に酒気を帯び、かつ、身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態であることについての認識・認容(故意)があることを必要とするものである。そして、地方公務員法の解釈上、一般に、懲戒処分については、職員を道義的に非難する性質のものであるために、職員の主観的要件が充たされることを要すると解されることに加え、本件規程は、飲酒運転につき、極めて重い種類の懲戒処分を定めており、酒気帯び運転については、無損害(無事故)であっても停職又は減給、物損であれば免職又は停職としていることとの均衡上も、交通法規違反の類型に応じた主観的要件を充足する場合に、懲戒処分の対象となる非違行為に該当することを定めたものと解するべきである。したがって、本件運転行為が本件規程上の『酒気帯び』に該当するためには、原告に酒気帯び運転の故意があったと認められることが必要であると解される。」
(中略)
「以上によれば、本件運転行為につき、原告に酒気帯び運転の故意があったとは認められず、原告が交通法規違反(酒気帯び運転)を犯したものではないから、本件規程上の『酒気帯び』運転をしたものとも認められない。したがって、原告は、本件規程が定める非違行為(酒気帯び)を行ったものではなく、本件処分は、懲戒事由がないにもかかわらず、原告を免職に処したものとして、争点・・・について検討するまでもなく、違法であって取消しを免れない。」
3.同じ意味で理解された
公務員の懲戒事由には、
「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」(国家公務員法82条1項3号)、
「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」(地方公務員法29条1項3号)
という包括規定が設けられています。
このような規定があるため、公務員は、公務の内外や犯罪の成否を問わず、ありとあらゆる問題行動が懲戒対象行為として捕捉されるようになっています。
故意だろうが過失だろうが、酒気帯び運転が社会的にネガティブに捉えられる行為であることに変わりはなく、懲戒事由としての「酒気帯び運転」には故意がある場合に限られないという解釈は採りえないわけではありません。
しかし、本件の裁判所は、そうした考え方は採用しませんでした。
裁判所の判断は、「本件規程」という自治体の懲戒処分の指針の構造を前提とした判断であり、必ずしも一般化できるわけではありません。それでも、際限なく広くなりがちな懲戒事由に制限を加えた解釈をしたことは注目に値します。裁判所の判断は、類似事件に取り組むにあたり、実務上参考になります。
