回数や頻度を的確に認定できなくても、執拗に食事を誘うことが不法行為(セクハラ)に該当するとされた例

1.不法行為の特定

 ハラスメントの被害者から相談を受けていると、

「いつも〇〇と言われていた」

「しつこく〇〇をされた」

といったように、被害の反復継続性、執拗姓を訴える方が少なくありません。

 しかし、この「いつも」や「しつこく」といった修飾語には殆ど意味がありません。ハラスメントの行為者に対して法的責任を追及するにあたっては、対象行為を特定する必要があるからです。

 例えば、

「〇年〇月〇日、〇〇において、〇〇は、〇〇に対し、〇〇をした。」

といったようにです。

 「いつも」「しつこく」といった被害の反復継続性、執拗姓を主張したいのであれば、

「〇年〇月〇日、〇〇において、〇〇は、〇〇に対し、〇〇をした。」

「△年△月△日も、〇〇において、〇〇は、〇〇に対し、〇〇をした。」

「▢年▢月▢日も、〇〇において、〇〇は、〇〇に対し、〇〇をした。」

(以下略)

といったように、同様の行為をたくさん並べて行き、そのうえで、

反復継続してハラスメントを受けていた、

執拗にハラスメントを受けていた、

と総括して行く必要があります。

 具体的に対象行為を特定することができない状態で、

「いつも〇〇と言われていた」

「しつこく〇〇をされた」

と主張したとしても、被告側から

「そんなことはしていない」

と言われると、

「いつも」

「しつこく」

と言える根拠を摘示することができず、そこで話が止まってしまいます。

 しかし、近時公刊された判例集に、回数や頻度を的確に認定する根拠がないにもかかわらず、執拗な飲食の誘いを認定し、不法行為該当性を認めた裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京高判令6.12.11労働判例1351-58 A社ほか(セクハラ)事件です。

2.A社ほか(セクハラ)事件

 本件で被告(被控訴人兼附帯控訴人)になったのは、

写真用、産業用、理化学用フィルターの製造及び販売、映像用レンズの製造及び販売等を業として行う株式会社(被告会社)、

被告会社のコールセンターであるCサービスセンターの部長であった方(被告Y1)

の二名です。

 原告(控訴人兼附帯被控訴人)になったのは、Cサービスセンターのオペレーターとして勤務した後、コールセンターの運営業務に携わるようになった方です。被告Y1からセクシュアルハラスメント(セクハラ)を受けたとして、損害賠償を求める訴えを提起したのが本件です。

 一審は原告の請求を一部認容しましたが、これに対し、原告側が控訴し、被告側が付帯控訴したのが本件です。

 原告は複数の行為をセクハラとして問題にしましたが、その中の一つに、仕事の終了後、飲みに誘い、断られても繰り返し誘っていた行為がありました。

 裁判所は、これに対し、次のとおり述べて、不法行為を構成すると判示しました。

(裁判所の判断)

「控訴人は、平成22年4月から事務職となり、被控訴人Y1と同じ事務室で仕事をするようになった。当初、事務室には、被控訴人Y1、控訴人のほかに、株式会社Eの従業員数名がいたが、同年6月頃、同従業員らは撤退していった。・・・」

「控訴人は、この頃、業務グループのグループリーダーとなったため、被控訴人Y1と控訴人は、直属の上司と部下という関係になった。控訴人は、比較的、物事をはっきりと言う性格であるが、被控訴人Y1は、控訴人の意見や対応の多くが的確であったため、控訴人を頼りにしていた。そして、同僚から見ても、また本件部署を監督する本社の取締役であるJから見ても、被控訴人Y1と控訴人との関係は良好で、仕事上の強い信頼関係があるように見えた。・・・」

「一方で、被控訴人Y1は、控訴人のことを女性としても好意を寄せ、特別な感情を持って見るようになり、平成24年頃以降、控訴人が本件部署で仕事をしているときや他の従業員と話しているときなどに、その容姿や表情などをデジタルカメラ又は携帯電話のカメラ機能で撮影することが繰り返しあった。その頻度は、少なくとも月に1、2回であり、被控訴人Y1は、平成27年2月に本件部署が中野に移転した後も、このような行為を繰り返していた。被控訴人Y1が撮影した写真の枚数は、合計で少なくとも数十枚はあり、被控訴人Y1は、これを単身赴任先の自宅のパソコンに保存して、ときどき見ることがあった。」

「控訴人は、あるとき、シャッター音がして撮影されているのではないかと思い、振り返り、被控訴人Y1に対し『何をしているんですか』と尋ねたことがあったが、被控訴人Y1は『何もしていない』などと言って否定した。そのようなことが複数回あった。・・・」

被控訴人Y1は、控訴人に対し、仕事の終了後、飲みに誘うことがあった。控訴人は、断ることが少なくなかったものの、被控訴人Y1は、断られても、繰り返し誘うことがあった。控訴人は、誘われる都度、断る理由を考えることに苦痛を覚えていた。・・・

「被控訴人Y1は、控訴人の離席時に、控訴人の携帯電話を無断で見ることがあった・・・。」

(中略)

「被控訴人Y1は、控訴人に対する好意等の感情から、平成24年頃以降、社内で、控訴人の容姿や表情をデジタルカメラ又は携帯電話のカメラ機能で撮影することを繰り返し、このような行為を、本件部署が平成27年2月に中野に移った後も繰り返していたこと、その撮影した枚数は、少なくとも数十枚に及び、これを単身赴任先の自宅のパソコンで保存し、見ることもあったことが認められる。」

(中略)

「前記認定事実によれば、被控訴人Y1は、控訴人に対し、仕事の終了後、飲みに誘い、断られても、繰り返し誘うことがあったことが認められる。」

「この点、被控訴人会社の平成27年3月当時の就業規則・・・によれば、『私的な執拗な誘い』を行うことは、セクハラの一種であり、服務心得に違反するものとして定義されていたことが認められる上(58条105)、執拗に食事に誘うことは、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)11条1項における『性的な言動』の解釈としても、許されない行為であると解される。そして、被控訴人Y1による執拗な誘いは、その回数や頻度を的確に認定できるわけではないものの、この誘いは、概ね、上記・・・の写真撮影行為と時期的に重なり合っていると推認されることからすると、上記写真撮影行為と同一の目的から出た性的な言動として、全体として違法性を帯び、不法行為を構成するというべきである。

3.一審ではまともに取り合われていなかった

 一審段階で、原告は、

「被告Y1は、平成22年4月から平成27年2月にかけて、原告に対して頻繁に飲みに行こうと誘った。原告が根負けして飲みに行った際には、被告Y1は原告に対し、タクシーの車内で原告の手や肩などに不必要に触れる行為を繰り返した」

と主張していました。

 被告がこれを否認したところ、一審裁判所は、

「原告は、被告Y1が、①勤務時間中、その必要もないのに繰り返し原告の肩や手を触り、止めて欲しいと言っても止めなかった、②頻繁に飲みに行こうと誘い、帰りのタクシーの中で肩や手を触る行為を繰り返した、③原告の携帯電話や鞄の中を無断で見た、④原告が離席すると原告を探すような行動をした、⑤中野に移転以降、至近距離で話すようになった、⑥平成28年1月15日、女子トイレのドアを開けるなどの不審な行動をしたと主張し、これに沿う供述をする。」

「これに対し、被告Y1は、原告の携帯電話を無断で見たこと以外には原告主張の各行為をしたことを否認しているところ、被告Y1が、平成28年1月18日から約1か月の間、特段女子トイレ付近で不審な行動を取っていなかったことは認定事実・・・のとおりであり、原告の主張を裏付けるに足りる証拠はない。そうすると、被告Y1が原告の携帯電話を無断で見た事実を除き、原告主張の①ないし⑥の各事実があったとは認められない。

と述べ、原告の主張をまともに取り合っていませんでした。

 これは「対象行為を特定する必要がある」とするルールに従ったもので、順当な判断だったといえます。しかし、二審は、

「被控訴人Y1による執拗な誘いは、その回数や頻度を的確に認定できるわけではないものの、この誘いは、概ね、上記・・・の写真撮影行為と時期的に重なり合っていると推認されることからすると、上記写真撮影行為と同一の目的から出た性的な言動として、全体として違法性を帯び、不法行為を構成するというべきである。」

と回数や頻度を的確認定できないことを認めつつ、違法性・不法行為該当性があると判示しました。

 セクハラに関しては、近時、事実認定そのものが随分とラフになってきている印象があります。被害者側から見れば歓迎すべきことですが、行為者側から見るとかなり厳しい扱いであるように見えます。事実認定の一般的なルールがどこまで修正されて行くのか、引き続き同種事案の動向が注目されます。