飲み・食事に執拗に誘うことが「性的な言動」として違法性を帯びるとされた例

1.セクシュアルハラスメント

 平成18年10月1日 厚生労働省告示第615号「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」【最終改正 令和2年1月15日 厚生労働省告示第6号】は、

「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働
者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環
境が害されること」

を

「職場におけるセクシュアルハラスメント」

として定義しています。

職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605548.pdf

 指針上、

「『性的な言動』とは、性的な内容の発言及び性的な行動を指し、この『性的な内容
の発言』には、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布する
こと等が、『性的な行動』には、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触るこ
と、わいせつな図画を配布すること等が、それぞれ含まれる。」

と規定されています。

 昔からセクハラのグレーゾーンの一つとされてきた言動の一つに、

飲み・食事に誘う、

というものがあります。

 確かに、一緒に飲食することは、恋愛関係ほか性的な関係の端緒になりやすい行為ではあります。

 しかし、恋愛関係や性的な関係を意識しない相手とも飲食くらいするのであって、

飲み・食事に誘うこと=性的な言動

とするのは常識的とは言えません。

 それでは、飲みや食事に誘うことは、セクハラには成り得ないのでしょうか?

 近時公刊された判例集に、この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京高判令6.12.11労働判例1351-58 A社ほか(セクハラ)事件です。

2.A社ほか(セクハラ)事件

 本件で被告(被控訴人兼附帯控訴人)になったのは、

写真用、産業用、理化学用フィルターの製造及び販売、映像用レンズの製造及び販売等を業として行う株式会社(被告会社)、

被告会社のコールセンターであるCサービスセンターの部長であった方(被告Y1)

の二名です。

 原告(控訴人兼附帯被控訴人)になったのは、Cサービスセンターのオペレーターとして勤務した後、コールセンターの運営業務に携わるようになった方です。被告Y1からセクシュアルハラスメント(セクハラ)を受けたとして、損害賠償を求める訴えを提起したのが本件です。

 一審は原告の請求を一部認容しましたが、これに対し、原告側が控訴し、被告側が付帯控訴したのが本件です。

 原告は複数の行為をセクハラとして問題にしましたが、その中の一つに、仕事の終了後、飲みに誘い、断られても繰り返し誘っていた行為がありました。

 裁判所は、これに対し、次のとおり述べて、不法行為を構成すると判示しました。

(裁判所の判断)

「控訴人は、平成22年4月から事務職となり、被控訴人Y1と同じ事務室で仕事をするようになった。当初、事務室には、被控訴人Y1、控訴人のほかに、株式会社Eの従業員数名がいたが、同年6月頃、同従業員らは撤退していった。・・・」

「控訴人は、この頃、業務グループのグループリーダーとなったため、被控訴人Y1と控訴人は、直属の上司と部下という関係になった。控訴人は、比較的、物事をはっきりと言う性格であるが、被控訴人Y1は、控訴人の意見や対応の多くが的確であったため、控訴人を頼りにしていた。そして、同僚から見ても、また本件部署を監督する本社の取締役であるJから見ても、被控訴人Y1と控訴人との関係は良好で、仕事上の強い信頼関係があるように見えた。・・・」

「一方で、被控訴人Y1は、控訴人のことを女性としても好意を寄せ、特別な感情を持って見るようになり、平成24年頃以降、控訴人が本件部署で仕事をしているときや他の従業員と話しているときなどに、その容姿や表情などをデジタルカメラ又は携帯電話のカメラ機能で撮影することが繰り返しあった。その頻度は、少なくとも月に1、2回であり、被控訴人Y1は、平成27年2月に本件部署が中野に移転した後も、このような行為を繰り返していた。被控訴人Y1が撮影した写真の枚数は、合計で少なくとも数十枚はあり、被控訴人Y1は、これを単身赴任先の自宅のパソコンに保存して、ときどき見ることがあった。」

「控訴人は、あるとき、シャッター音がして撮影されているのではないかと思い、振り返り、被控訴人Y1に対し『何をしているんですか』と尋ねたことがあったが、被控訴人Y1は『何もしていない』などと言って否定した。そのようなことが複数回あった。・・・」

「被控訴人Y1は、控訴人に対し、仕事の終了後、飲みに誘うことがあった。控訴人は、断ることが少なくなかったものの、被控訴人Y1は、断られても、繰り返し誘うことがあった。控訴人は、誘われる都度、断る理由を考えることに苦痛を覚えていた。・・・」

「被控訴人Y1は、控訴人の離席時に、控訴人の携帯電話を無断で見ることがあった・・・。」

(中略)

「被控訴人Y1は、控訴人に対する好意等の感情から、平成24年頃以降、社内で、控訴人の容姿や表情をデジタルカメラ又は携帯電話のカメラ機能で撮影することを繰り返し、このような行為を、本件部署が平成27年2月に中野に移った後も繰り返していたこと、その撮影した枚数は、少なくとも数十枚に及び、これを単身赴任先の自宅のパソコンで保存し、見ることもあったことが認められる。」

(中略)

「前記認定事実によれば、被控訴人Y1は、控訴人に対し、仕事の終了後、飲みに誘い、断られても、繰り返し誘うことがあったことが認められる。」

「この点、被控訴人会社の平成27年3月当時の就業規則・・・によれば、『私的な執拗な誘い』を行うことは、セクハラの一種であり、服務心得に違反するものとして定義されていたことが認められる上(58条105)、執拗に食事に誘うことは、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)11条1項における『性的な言動』の解釈としても、許されない行為であると解される。そして、被控訴人Y1による執拗な誘いは、その回数や頻度を的確に認定できるわけではないものの、この誘いは、概ね、上記・・・の写真撮影行為と時期的に重なり合っていると推認されることからすると、上記写真撮影行為と同一の目的から出た性的な言動として、全体として違法性を帯び、不法行為を構成するというべきである。」

3.性的な目的が加われば、性中立的な行為でも「性的な言動」になる

 冒頭で述べたとおり、飲み・食事に誘うことそれ自体は、単なる上司部下の関係、親しい友人の関係でもあり得る性中立的な行為です。

 しかし、行為の客観的性質としては性中立的な行為であっても、性的な目的・感情が加われば、性的な意味合いを帯びることは十分に有り得ます。裁判所は、

写真撮影に好意(性的な意味合い)があった、

そうであれば、同時期に行われた飲食への誘いにも性的な目的があったはずである、

として、断られても繰り返し飲みに誘ったことを不法行為に該当すると判示しました。

 裁判所の判断は、グレーゾーンの判断に一例を加えたものとして、実務上参考になります。