1.整理解雇法理と職種限定合意
整理解雇とは「企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇」をいいます(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕397頁)。職種の廃止や事業所の閉鎖などに伴う解雇は、その典型です。
整理解雇の可否は、①人員削減の必要性があること、②使用者が解雇回避努力をしたこと、③被解雇者の選定に妥当性があること、④手続の妥当性の四要素を総合することで判断されます(前掲『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』397頁以下参照)。
職種限定合意がある労働者を整理解雇する場合、②の解雇回避努力との関係性をどのように理解するのかが問題になります。
問題の所在は、次のように整理されます。
配転は解雇回避努力の典型的な手段です。企業には整理解雇をするにあたり、余剰人員を配転等で調整できないかを検討することが求められます。
しかし、最二小判令6.4.26労働判例1308-5 社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会事件が職種限定合意のある労働者に対する配転命令権の存在を否定しているため、企業は職種限定契約のある労働者を強制的に配転することができません。それならば、職種限定合意のある労働者を整理解雇するにあたっては、配転の可否を検討しなかったとしても、解雇回避努力を尽くさなかったことにはならないのではないかという疑問が生じます。
この疑問に対しては、幾つかの裁判例が回答を示していますが、配転の打診をすることを必要とする見解が有力であるように思います。
例えば、東京地判令6.9.20労働経済判例速報2579-15 三菱UFJ銀行事件は、
「職種限定合意のある本件において、被告は、原告の個別的同意なしに上記合意に反する配置転換をすることはできないが、原告が解雇によって受ける不利益の程度等からすれば、配置転換を打診するなどの解雇回避努力を行うのが相当であると考えられる。」
と判示しています。
また、津地判令6.12.12労働判例ジャーナル159-42 学校法人享栄学園事件も、
「契約上、原告らの業務内容は『担当科目の講義及びその他関連する業務』に限定されているものの・・・、その範囲を双方の合意により変更することは何ら妨げられず(法3条1項、8条)、被告が変更を命じることもできるのであるから(就業規則8条)、被告が令和3年度以降に新たに採用した任期付き専任教員に交代させた業務は、支援業務も含めていずれも原告が担当することが可能であったといえる。」
(中略)
「被告は、担当コマ数の変更や支援業務の担当希望に関する原告の意向を確認しないまま、単に公募に応募する機会を与えたに過ぎず、解雇回避の努力を尽くしたと評価することはできない。」
と判示しています。
ただ、未解明の問題に、
職種限定合意のある労働者に対して合意による配転の可否を打診するにあたり、元の職種と関連性のある職種を提案すべき義務があるのか?
という疑問があります。職種限定合意の趣旨を尊重する必要があるとすれば、使用者の側には、なるべく元の職種と関連する職種を提案する義務があるとの解釈が導かれても不自然ではないように思われますが、この問題は、どのように理解されるのでしょうか?
近時公刊された判例集に、この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が掲載されていました。京都地判令7.1.27労働経済判例速報2614-3 滋賀県社会福祉協議会(休職満了)事件です。
2.滋賀県社会福祉協議会(休職満了)事件
本件で被告になったのは、滋賀県社会福祉協議会です。
原告になったのは、職種限定合意のもと、被告の用具センター(本件用具センター)の機械技術者として、福祉用具の改造、製作等の業務に従事していた方です。
本件用具センターにおける原告の職務の廃止を念頭に総務課の施設管理担当への配転命令を受けた後、適応障害で休職し、そのまま自然退職扱いされたことを受け、その効力を争い、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。
本件の被告は退職扱いが無効とされた場合を念頭に、予備的に職務の廃止を理由とする整理解雇の主張を行いました。
裁判所は退職扱いの効力を認めているのですが、その過程で次のような判断を示しました。
(裁判所の判断)
「原告は、被告が事前に原告に対して配転希望の打診や聴取を一切せず、原告の専門性を活かすことのできる職務への配転をしなかったことから、本件退職扱いは実質的に解雇権濫用法理の趣旨を逸脱すると主張する」
「しかしながら、使用者は、職種限定合意を締結した労働者が存在するからといって、当該合意の対象である職種及び業務内容を経営上の必要性等から廃止すること自体が制限されることはないと解される。また、使用者は、当該労働者にその職種及び業務内容に従事させるからこそ職種限定合意を締結するのであり、使用者は当該労働者に対して配置転換を命ずる権限を有さず他の職務で従事させることが本来的に想定されていないといえるから、当該職種及び業務内容を廃止する場合には、使用者にとっては、もはや当該労働者の雇用を継続する必要性は乏しくなるという関係にある。それでもなお使用者が雇用を終了させるのではなく、雇用を継続する方法として、当該労働者の同意を得て他の職種及び業務内容への配置転換をしようとする場合、配置転換先の職種及び業務内容については使用者に相当程度の裁量が認められるというべきである。」
「上記・・・のとおり、本件職務を廃止することには合理性があり、被告には原告の雇用を継続する必要性がなく、原告に対する解雇も考えられたところ、被告は原告の雇用を継続しようとして総務課の施設管理担当への配置転換をし、同業務に従事することを提案したものである。職種限定合意があったからといって、元の職種となるべく関連性のある職種を提案すべきであるとの義務を使用者が負っているとはいえず、上記提案が著しく不合理であるとはいえないから、被告が事前に原告に対して配転希望の打診や聴取をしなかったり、原告に提案した職務が原告の専門性を活かすことのできる職務ではなかったりしたとしても、これによって本件退職扱いが実質的に解雇権濫用法理の趣旨を逸脱するとはいえない。」
3.元の職種となるべく関連性のある職務を提案すべきではないのだろうか
上述のとおり、裁判所は、
「職種限定合意があったからといって、元の職種となるべく関連性のある職種を提案すべきであるとの義務を使用者が負っているとはいえず、」
との判断を示しました。
しかし、そのような理解に立つと、従前のキャリアから到底受けれられないような選択肢を提示しただけでも、解雇回避努力が認められた形になってしまいます。これは解雇回避努力の形骸化を招くものであり、職種限定合意のもとで働いている労働者にとって、あまりにも酷ではないかと思います。
本件に続く裁判例が現れるのか、引き続き注視して行く必要があります。
