違法解雇が慰謝料の対象となる場合-留学生に対する内定辞退扱い(採用内定取消し)で生活状況を著しく不安定な状態にした場合

1.解雇の不法行為該当性

 労働契約法上、解雇が違法・無効とされる場合でも、それが不法行為法上も違法と言えるとは限りません。

 また、不法行為法上も違法だとされても、解雇を有効だと誤認したことに過失がなければ、不法行為に基づく損害賠償責任は否定されます。解雇の有効・無効を正確に見通すことは専門家でも難しく、過失を問うことは必ずしも容易ではありません。

 不法行為法上も違法であり、かつ、使用者側に過失があるケースでも、バックペイの支払を受けられれば精神的苦痛は慰謝されるとして、「損害」の発生が認められず、慰謝料請求が棄却されることもあります。

 全てのハードルをクリアできる事案はそれほど多いわけではなく、解雇が違法・無効であったとしても、損害賠償(慰謝料)の支払までが認められるケースは例外的です。

 このような状況のもと、近時公刊された判例集に、違法な採用内定取消しでバックペイに加え、慰謝料請求まで認められた裁判例が掲載されていました。東京高判令6.5.23 東京地判令5.12.18労働判例1350-65 FIRST DEVELOP事件です。

2.FIRST DEVELOP事件

 本件で被告(控訴人)になったのは、IT関連システム開発等を目的とする株式会社です。

 原告(被控訴人)になったのは、平成6年生まれの中国籍の男性であり、

平成26年に来日し、

平成30年4月に大学に入学し、

令和4年1月17日に被告から内定を出され、

令和4年3月に大学を卒業した方です。

 令和4年3月28日になって被告から「内定辞退受け入れ通知」を送られたことを受け、このような扱いは違法無効だと主張し、地位確認やバックペイ、慰謝料等の支払を求める訴えを提起したのが本件です。

 裁判所は、

「本件内定辞退扱いは、被告代表者が原告の研修内容等に不満を持ち、原告からの内定辞退の申出がないにもかかわらず、原告が採用内定を辞退したものと被告が取り扱ったものと認めるのが相当である。」

(中略)

「本件内定辞退扱いは、被告による労働契約の一方的な解約の意思表示(採用内定の取消し)であるところ、客観的合理的理由を欠き、権利濫用に当たり無効である。」

と述べたうえ、次のとおり判示して慰謝料請求を認めました。

(裁判所の判断)

「本件内定辞退扱いは無効であるところ、前記認定事実によると、原告は、被告の指示に従い入社前に事前研修を受けたが、その内容・進捗状況等について、被告から原告が不足する部分について具体的な指摘はなかったこと、採用内定辞退の申出をしていないにもかかわらず、被告から一方的に原告が辞退したという扱いをされたこと、本件内定辞退扱いの数日後には説明もなく出社を命じられるなどしたことなどが認められる。また、被告に対し、原告から、被告の対応について説明を求めても、原告からの連絡に応答しないなど原告からの連絡自体を拒絶されていたこと・・・、原告は、被告に入社できなかったことにより、就労可能な在留資格を維持するため、3か月以内に新しい仕事を見つけられなければ帰国せざるを得ない状況に置かれたこと・・・、このような状況に原告が精神的に追い詰められたこと・・・なども認められる。上記事実関係の下では、本件内定辞退扱いは、留学生であった原告の生活状況を著しく不安定な状態に陥れるものであり、著しく相当性を欠くといえ、原告に対する不法行為を構成するというべきである。」

「そして、上記事情を総合的に考慮すれば、原告には、財産的損害を回復してもなお償えない精神的損害が存在すると認めるに足りる特段の事情があるというべきであり、その慰謝料は30万円と認めるのが相当である。」

 本件は被告側から控訴がありましたが、上記の判断は、控訴審でも維持されています。

3.留学生の生活状況を著しく不安定にさせた場合

 出入国管理法22条の4第1項は、

「法務大臣は、別表第一又は別表第二の上欄の在留資格をもつて本邦に在留する外国人・・・について、次の各号に掲げる事実のいずれかが判明したときは、法務省令で定める手続により、当該外国人が現に有する在留資格を取り消すことができる。」

としたうえ、第6号で、

「別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者が、当該在留資格に応じ同表の下欄に掲げる活動を継続して三月・・・以上行わないで在留していること(当該活動を行わないで在留していることにつき正当な理由がある場合を除く。)。」

と規定しています。

 別表第1は、上欄で、

法律・会計業務 外国法事務弁護士、外国公認会計士その他法律

といったように在留資格を、

 下欄で、

「外国法事務弁護士、外国公認会計士その他法律上資格を有する者が行うこととされている法律又は会計に係る業務に従事する活動」

といったように活動内容を規定しています。

 そのため、解雇等によって失業した就労資格のある外国人は、3か月以内に新しい仕事を見つけなければ在留資格を取消されるかも知れなくなるという強いプレッシャーを受けることになります。本件では、被告側の対応に問題が大きかったことのほか、このような出入国管理法上の仕組みが考慮されたように思います。

 FIRST DEVELOP事件の地裁判決は、以前にも下記の記事で紹介したことがあります。

解雇撤回をめぐる攻防-内定辞退扱い後の出勤命令と賃金請求 – 弁護士 師子角允彬のブログ

内定辞退受入通知とは何か? – 弁護士 師子角允彬のブログ

 高裁判決と共に別の判例集にも掲載されていた関係で、改めて読み直したところ、解雇(内定取消)の不法行為該当性の部分でも特徴的な判断がなされていることに気付きました。

 裁判所の判断は、違法解雇で慰謝料が認められる事件類型を考えて行くにあたり、実務上参考になります。