1.休職期間満了による自然退職を利用した労働者の排除
休職とは「ある従業員について労務に従事することが不能又は不適当な事由が生じた場合に、使用者がその従業員に対して労働契約関係そのものは維持させながら、労務への従事を免除すること又は禁止すること」をいいます(佐々木宗啓ほか『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕468頁参照)。
私傷病休職の場合、労働者は傷病が治癒すれば復職することができます。
ただ、傷病が治癒したことは、基本的に労働者の側で立証しなければなりません。残念ながら、休職制度を有しながらも、健康を害した労働者に対して暖かい姿勢を持たない会社は一定数あります。そうした会社は、病気になった労働者を排除するため、強引な自然退職を強行することがあります。
強行された自然退職に対しては、治癒を立証することで、その効力を争うことができます。
しかし、問題は治癒が立証できない場合です。この場合、碌に復職審査を行わないなど、自然退職に仮託して意に沿わない労働者を排除する意図が透けて見えたとしても、自然退職の効力を争うことはできないのでしょうか?
近時公刊された判例集に、この問題を考えるにあたり参考になる判断を示した裁判例が掲載されていました。一昨日、昨日と紹介している、京都地判令7.10.2労働判例1349-5 一般財団法人高雄病院事件です。
2.一般財団法人高雄病院事件
本件で被告になったのは、京都市右京区にある病院(被告病院)を運営する一般財団法人です。
原告になったのは、被告病院で医療相談員として勤務していた方です。休職期間満了を理由に退職扱いされたことを受け、その効力を争い、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。
本件の被告は休職規定の適用による自然退職を主張しました。就業規則を変更した後の休職規定(本件規定)によれば、自然退職が成立するという主張です。これに対し、原告は、就業規則の変更は無効であるとして、自然退職の効力を争いました。
この事件の裁判所は、就業規則変更の効力を否定し、旧規定の期間に準拠すれば治癒しているとして、退職扱いの効力を否定しました。
そのうえで、次のとおり述べて、仮に治癒していなかったとしても、退職扱いは無効だと判示しました。
(裁判所の判断)
「仮に、・・・原告が休職期間満了前に治癒していたとは認められないとしても、本件退職扱いは、実質的に普通解雇と異ならず、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとも認められないから、労働契約法16条の類推適用により、解雇権を濫用するものとして無効である。」
「本件退職扱いは、被告において、原告の病状との関係で原告が復職可能かどうかを考慮して行われたものではなく、原告が他の職員や患者等との間でトラブルを生じさせがちであるという理由で行われたものであり・・・、その実質は普通解雇と異ならないものということができる。」
「原告が他の職員や患者等との間でトラブルを生じさせていたことを認めるに足る証拠はないから、本件退職扱いは客観的に合理的な理由を欠く。仮に、その事実が認められるとしても、次の・・・とおり、本件退職扱いは社会通念上相当であるとはいえず、無効である。」
「原告は、上司であるBから4月20日付け通知書が撤回された旨の連絡を受け、その上で5月2日付けお詫び状を受領したのであるから・・・、令和5年5月20日に退職となるのではなく、休職期間や復職に関して被告との間で話合いの場が設けられると信じたものと認められる。実際に、原告は、これを前提に、同月12日頃、同年6月16日に復職するという方針で、休職期間中の被告側の連絡窓口であったBと協議していた。」
「それにもかかわらず、被告は、5月2日付けお詫び状により話合いの場を設ける旨を通知しておきながら、同月中旬頃に、話合いの場を設けるという方針それ自体を急遽変更し、原告から同月20日までに診断書が提出されない限り、退職扱いとする方針とした・・・。被告は、その旨が記載された5月18日付け通知書を送付しているが、発送の日は休職期間が満了し退職扱いとされる期限(同月20日)のわずか二日前であり、実際に原告がこの通知書を受領したのは、当該期限の当日であった。この通知書を送付した被告の行為は、期限が極めて切迫した時期に診断書の提出を求める点で、原告に対し不可能を強いるものというべきであり、原告の復職に向けた準備を妨げる著しく不当なものであるといえる。」
「被告病院において、原告の非違行為の程度を踏まえ、解雇よりも軽度の措置が相当であるか否かが検討されたことはなかった(弁論の全趣旨)。また、解雇を回避するための措置として、産業医の意見を聴くなどして原告が復職可能か確認することや原告に段階的な復職を命じることは可能であったが(新就業規則44条1項)、このような措置を検討したこともなかった・・・。これらの事実に加え、本件退職扱いが上記・・・のとおり、原告に対して、正に不意打ちというべき態様で行われたことからすると、本件退職扱いは、被告が、新就業規則上の休職期間満了による退職に関する規定に形式上該当することを奇貨として、原告を退職させることそれ自体を目的として行われたものと認められる。」
3.治癒していなくても無効になることがある
裁判所の判断で最も注目されるのは、「仮に、・・・原告が休職期間満了前に治癒していたとは認められないとしても」退職扱いは無効だと判示している点です。
従来、自然退職(退職扱い)の効力といえば、治癒をめぐって争われるのが通例でした。しかし、本裁判例の論理に従えば、治癒が認められないケースでも、自然退職の効力を争うことができる場合があることになります。
自然退職に仮託して解雇されていると思われる事案は一定数あり、そうした事案に取組むにあたり、裁判所の判断は、実務上参考になります。
