1.休職制度
業務外の怪我や病気で働けなくなっても、休職制度のある会社では、休職期間中に傷病が治癒すれば、解雇を免れることができます。
他方、休職制度のない会社の場合、解雇されても、原則として異議を唱えることはできません。実際、休職制度のない会社では、怪我や病気で働けなくなった労働者を解雇しています。
休職制度を設けることは義務ではありません。私傷病で働けなくなった場合、基準線に置かれるのは飽くまでも解雇です。「傷病休職制度は,解雇又は退職を猶予して労働者の回復を待つ制度であり,その目的は一般に解雇猶予」であると理解されています(佐々木宗啓ほか『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕469頁参照)。
私傷病休職は「本来解雇になるところを猶予する」という恩恵的な制度として位置付けられます。
それでは、就業規則を変更することにより、休職に至るまでの欠勤期間や、休職期間を短縮することはどのように理解されるのでしょうか?
就業規則を変更して労働条件を不利益変更するためには「合理的なものである」必要があります(労働契約法10条)。元々が恩恵的な仕組みであることから、合理性は緩やかに認められることになるのでしょうか?
近時公刊された判例集に、休職に至るまでの欠勤期間や休職期間を短縮する就業規則の変更の効力が争われた裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、京都地判令7.10.2労働判例1349-5 一般財団法人高雄病院事件です。
2.一般財団法人高雄病院事件
本件で被告になったのは、京都市右京区にある病院(被告病院)を運営する一般財団法人です。
原告になったのは、被告病院で医療相談員として勤務していた方です。休職期間満了を理由に退職扱いされたことを受け、その効力を争い、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。
本件の被告は休職規定の適用による自然退職を主張しました。就業規則を変更した後の休職規定(本件規定)によれば、自然退職が成立するという主張です。これに対し、原告は、就業規則の変更は無効であるとして、自然退職の効力を争いました。
問題になった就業規則の変更は、
休職に入るまでの期間を1年半から3か月に、
休職期間を1年から「3か月を限度として病院が指定した期間」に
変更するものでした。
裁判所は、次のとおり述べて、この就業規則の変更の効力を否定しました。
(裁判所の判断)
「本件規定への変更が労働契約法10条本文により有効といえるか、以下検討する。」
「本件規定は、業務外の疾病による休職に至るまでの欠勤期間を、1年半から年次有給休暇の日数を含め3か月に短縮するとともに、業務外の疾病による休職期間を、1年から最長3か月に短縮した上で、被告病院の判断によりさらに短縮することも可能とするものである(休職期間の下限は規定されていない。)・・・。すなわち、旧就業規則では、業務外の疾病による欠勤及び休職の期間が、合計2年6か月(欠勤期間1年半及び休職期間1年)に至らなければ退職扱いとされなかったところ、新就業規則では、最短3か月余で退職扱いとすることが可能となる(欠勤期間は3か月、休職期間は下限の期間が定められていないことによる。)。」
「本件規定は、被告病院の職員にとって不利益に変更された規定であると認められる上、業務外の疾病により退職扱いとなるまでの期間を約10の1に短縮するものであるから、その不利益の程度は大きい。」
「旧就業規則では、欠勤及び休職期間として2年半が経過しなければ退職扱いとすることができず、被告としては、代替する人員を確保することもままならないため、長期間にわたって欠勤又は休職する職員の業務を他の職員が負担する必要がある。このような負担を軽減するために、旧就業規則を変更する必要性があったということは認められる。」
「しかしながら、そもそも旧就業規則を改定するに至ったのは労働基準監督署から同規則の内容と実態が合致していないことを理由に是正勧告を受けたからであって、休職期間が長期間に及ぶために被告病院において経営上の負担が生じていたからではなかった・・・。また、被告病院において、その経営が芳しくない面はあるものの、それは休職する職員の数やその休職期間の長さが大きな原因ではない上・・・、休職期間中の職員は無給であり(旧就業規則32条、新就業規則42条)、欠勤及び休職期間が長期間に及ぶことにより実際にどの程度の経営上の負担が生じていたのかということは、証拠上明らかでない。そうすると、旧就業規則を変更する必要性が一定程度認められるとしても、本件規定へと変更する必要性及び相当性、すなわち業務外の疾病により退職扱いとなるまでの期間を約10の1にまで短縮しなければならないほどの必要性及び相当性は認められない。」
「したがって、本件規定は、労働契約法10条本文に定める要件を欠いており、原告にその効力を及ぼすことができないというべきである。」
3.特に緩やかに理解されている様子は見当たらない
休職規定は任意的・恩恵的な面があるため、その不利益変更がどのように審査されるのかが気になっていたのですが、少なくとも本件に関しては、特に緩やかに審査されている形跡は見られません。
休職制度は必要的な仕組みではありません。休職制度があることによる人材の誘引力よりも、怪我や病気で働けなくなった労働者を整理できることに価値を見出し、休職制度を見直そうとする会社は一定数あります。裁判所の判断は、休職規定の不利益変更を無効としたものとして、類似事案に取組むにあたり、実務上参考になります。
