1.障害をクローズにして就労している労働者
障害を持っている方は、その全員が障害をオープンにして働いているわけではありません。当然のことながら、障害をクローズにしたまま、健常者と同じ枠組みで就労している方もいます。
障害をクローズにして働いているのは、知られたくないからです。個人情報保護法2条3項が、
「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報」
を要配慮個人情報と定義していることからも分かるとおり、障害に関する情報はプライバシーの最たるものです。
それでは、障害をクローズにして働いている労働者が障害を持っていることを職場で暴露する行為は、法的にどのように評価されるのでしょうか?
近時公刊された判例集に、この問題を考えるうえで参考になる裁判例が掲載されていました。横浜地判令8.1.29労働判例ジャーナル170-26 JIRITAMA事件です。
2.JIRITAMA事件
本件で被告になったのは、障害福祉サービスを主たる事業とし、平素、利用者である障害者への居宅介護や重度訪問介護のサービスその他介護施設へのヘルパーの派遣等を行っている有限会社です。
原告になったのは、発達障害の一つである自閉スペクトラム症を有し、精神障害者保険福祉手帳(3級)の交付を受けている方です。被告と無期雇用契約を締結して、平成30年5月以降、障害をクローズにして就労していたところ、
被告代表者がAら複数の被告従業員に発達障害者であることを正当な理由なく暴露したと主張して損害賠償を請求するとともに、
発達障害者に対する不当な偏見を根拠として原告を解雇したうえ、解雇撤回後も就労を不当に妨害していると主張して賃金を請求する
などした事件です。
本件の被告は、
「被告代表者が、Aらに対し、原告が発達障害者であることを伝えたのは、被告において、管理職など一定の役割を担う者に共有し、原告を解雇するかを協議の上、意思決定すること(本件解雇)が必要であったからである」
などと主張し、暴露行為の違法性を争いました。
しかし、裁判所は、次のとおり述べて、被告代表者による暴露行為の違法性を認めました。
(裁判所の判断)
「原告が、令和3年8月15日、被告代表者と面談し、派遣時間を伸ばすよう求めたところ、被告代表者は、原告について『体力的なものでやっぱり不安がありますね。』『うちで活動していってもらうには、やはりその特定の人(注・フォークとテポーター)だけに入っていって、いただくということは、基本的に考えてないんです。』と答えた。」
「これに対して、原告は『体力的に、160時間、他の人みたいにということも、やっぱりクリアするのは難しい。』『それはやっぱり私が健常者ではない、障害者であるということともかかわってきます。』と答え、被告代表者から『何の障害者。』と聞かれ、『広汎性発達障害っていうやつですね。』と答えた。」
「被告代表者は、令和3年8月16日、Aらに対し、上記・・・の面談の際、原告が『実は私は広汎性発達障害を持っているので、これまで徐々にどれぐらいできるか様子を見たりして来ていました。』と発言したことなどを伝えた上で、『虚偽の申告をされていたことが明確になったので、即刻解雇をと思いますが、3ヵ月の猶予を設けて(時間数は減っていく可能性あり)辞めて頂くか、受入れてもらえない場合は、今月か来月から、シフトを組まないことを考えています。』などと伝えた。」
「被告は、令和3年8月23日、原告に対し、就業規則18条22号(登録ホームヘルパーは、日常業務を遂行するについて、虚偽の報告又は申告をしてはならない)違反を理由として、同年9月30日限り、原告を解雇する旨を通知した(本件解雇)。」
(中略)
「被告代表者が、Aらに対し、原告が発達障害者であると伝えたこと・・・は争いがない。」
「被告は、その理由について、被告において原告を解雇すること(本件解雇)を決定する意思表示の過程として、被告のサービス提供責任者であって、かつ、原告に関わる者に対して伝える必要があったからであって、違法ということはできないと主張するが、被告代表者は、Aらに原告の障害を伝えるメールにおいて、『即時解雇をと思います』とも記載し、Aは、解雇は代表者が決めることであって、メールを受信した他の職員との間においても原告の解雇に関し協議をしたことはなかったと供述していることからすると・・・、Aらへの開示は、意思決定の過程とする趣旨でされたのではないことが明らかであって、また、原告を解雇することを被告のサービス提供責任者に伝える必要があったとしても、その理由として原告が発達障害者であると伝える必要があったとはおよそ考え難く(現に、同じく被告のサービス提供責任者の一人であったBは、原告が辞めるということは被告から聞かされたものの、その理由などは知らされていない。乙82)、被告の上記主張は採用できない。」
「被告代表者が、正当な理由がないのに、原告が発達障害者であることを暴露した行為は、原告の人格権を侵害する違法なものであり、被告は、会社法350条により損害賠償責任を負う。このことは、原告が匿名で本件解雇の経緯や本件訴訟の経過を、SNSを通じて公表しているとしても、原告は自己の情報をコントロールする一環として開示したものに過ぎず、原告の同意なく暴露した被告代表者の行為の違法性を左右しない。」
「被告代表者の上記行為によって原告について生じた損害(慰謝料)は30万円をもって相当と認める。」
3.発達障害を打ち明けられても、正当な理由なく言い触らすのはダメ
令和2年厚生労働省告示第5号『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』は、
「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。」
を「個の侵害」に該当するパワーハラスメントの一例としています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584512.pdf
発達障害という言葉が広く周知されることになって、特性への配慮を求めやすい素地が出来てきたことは良いことです。ただ、その反面、揶揄や悪口として使われたり、差別の原因になったりする例も増えているように思われます。
裁判所の判断は、打ち明けられたからといって、正当な理由なくセンシティブな情報を職場で流布してはならないことを明らかにしたものとして、実務上参考になります。
