1.代表者の承認を得ることなく部下が勝手に行った解雇
多くの会社では解雇の可否は慎重な検討を経て決定されます。解雇の意思表示も、代表権者か、あるいは、代表権者から権限を付与された高位の役職者から行われます。私自身の実務経験の範囲では、現場責任者や中間管理職に独断で労働者を解雇する権限が与えられている例は見たことがありません。
解雇権限を持たない現場責任者等が勝手に会社を代理して解雇通知を出したとしても、権限がない以上、そのような解雇が効力を持つことはありません。
それでは、こうした解雇通知が、無効であることを超え、不法行為として損害賠償請求の対象になることはないのでしょうか?
近時公刊された判例集に、この問題を考えるにあたり参考になる判断を示した裁判例が掲載されていました。東京地判令7.10.16労働判例ジャーナル169-48 UNLIMITED ENTERTAINMENT事件です。
2.UNLIMITED ENTERTAINMENT事件
本件で被告になったのは、
カフェなどの飲食店の経営等を目的に掲げる株式会社(被告会社)
被告会社が経営するコンセプトカフェ(コンカフェ、本件店舗)の店長(被告C)
の二名です。
原告になったのは、店長Cのもとでコンセプトカフェのキャストとして働いていた方です。被告会社から雇止めを受け、その無効を主張し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。
本件事案の特徴の一つに、被告Cが原告に対して独断で解雇予告通知を送付していたことがあります。
原告は被告との間で期間1か月の有期労働契約を締結していました。令和2年10月25日から7回に渡り契約が更新されていたところ、被告Cは、
令和3年5月5日、
原告の同居人であったEに対し、
原告を令和3年6月5日付けで解雇する
ことを記載した解雇予告通知のPDFデータを送付しました。
ところが、これは被告Cが被告会社に無断で行ったものでした。
被告会社はこの解雇(本件解雇)が無効であることを争わず、令和3年6月24日をもって期間満了により労働契約が終了したと主張しました。
本件の原告は、この店長による解雇予告通知の送付行為や、それに引き続くグループラインからの大会措置を不法行為だと主張したうえで損害賠償請求も併合していました。
裁判所は雇止めの効力を否定し、地位確認請求を認めるとともに、次のとおり述べて、損害賠償請求も肯定しました。
(裁判所の判断)
「被告Cは、被告会社に無断で、本件解雇予告通知・・・を送付し、これにより本件労働契約に基づく原告の労務の提供を根拠なく拒否したものである。また、被告Cは、上記解雇予告通知の送付後に、本件店舗の公式ツイッターの相互フォローを外し、原告からの改善の求めにも応じずに、さらには原告をLINEから退会させるなどして、原告を被告会社から排除する行為に及んだものである。これらの被告Cの行為は違法であって、原告に対する一連の不法行為を構成するものといえ、これにより原告が被った精神的苦痛を慰藉する慰謝料としては20万円をもって相当と認める。また、原告が本件訴訟を追行するために訴訟代理人弁護士を委任したことは記録上明らかであるから、その弁護士費用相当の損害として2万円を認める。」
「そして、被告Cの上記各行為は、被告Cが被告会社の従業員として行った行為であるから、被告会社は民法715条に基づく使用者責任を負う(なお、遅延損害金の始期は、最後の不法行為の日として原告が被告Cからの解雇予告通知・・・を知った日である令和3年5月30日とするのが相当である。)。」
3.解雇権限のない上司からクビだと言われたら・・・
数としてそれほど多く見るわけではありませんが、解雇権限のない上司が激高して部下に対しクビだと怒鳴っているようなケースがあります。
解雇権限がなく無効であるから損害が発生しないというものでもなく、こうした言動は不法行為として捕捉にして行くことも考えられます。本件が職場から現に排除されたという事実関係を前提にしていることは留意する必要がありますが、裁判所の判断は、クビにする権限もないのにクビだと騒ぎ立ててくる上司の言動を問題にして行くにあたり、実務上参考になります。
