1.シフト決定権者によるハラスメント
シフト決定権者が持つ権限は絶大です。
シフト制の労働者に対し、シフトに入れないという対応をとれば、解雇権濫用法理(労働契約法16条)の規制を免れつつ、事実上、解雇したのと同じような状態を作り出すことができるからです。
これに対抗するにあたっては、最低シフト数合意、固定シフト合意、最低時間数合意、シフト決定権限の濫用など様々な法律構成があります。
しかし、これらの技巧的な法律構成を駆使して行くためには、基本的に法専門家(弁護士)への依頼が必要です。シフト制の労働者の賃金は比較的低額であることが多く、法的措置をとるには経済合理性の壁が立ちはだかります。
このような状況があるため、シフト決定権限を背景としたハラスメントは、是正されないまま温存されやすい傾向があります。
ただ、それでも一定のレベルを超えると、損得ではなく尊厳の問題になるからか、訴訟事件化することがあります。昨日ご紹介した、東京地判令7.10.30労働判例ジャーナル169-32 ティーエッセンス事件も、そうした事案の一つです。
2.ティーエッセンス事件
本件で被告になったのは、おにぎり等の提供を行う飲食店を経営していた株式会社です。
原告になったのは、被告に雇用されて、シフト制のサービススタッフとして働いていた方です。シフトから排除されて労務提供の受領を拒絶されているとして未払賃金を請求するともに、パワハラを理由とする慰謝料等を請求する訴えを提起したのが本件です。
原告が主張したハラスメントは複数ありますが、その中の一つに、発熱した場合にも強い解熱鎮痛剤を飲んで勤務するように求められたことがありました。具体的な原告の主張は、次のとおりです。
(原告の主張)
「Eは、本件面談において、原告に対し、本件欠勤等についての注意指導として体調管理を求めるにとどまらず、業務上の疾病によりシフト勤務から外されたGを引き合いに出しながら、発熱の場合も強い解熱鎮痛剤を飲んで無理するなどして勤務を頑張るべきことを求め、これをしなかった場合にはシフト勤務から外れてもらう旨などの発言をした。Eの本件面談時の発言は、原告に労務の提供に当たって不合理に強度の苦痛を強いてこれに従わなければ生活の糧を失うと委縮させるものであり、明らかに業務上正常な注意を大きく逸脱したパワーハラスメントとして不法行為に当たる。」
これに対し、裁判所は、次のとおり述べてハラスメントの成立を認めました。
(裁判所の判断)
「E(店長 括弧内筆者)は、前記・・・に続けて『ちなみにその、解熱鎮痛剤とか飲んでるの。』と原告に問い掛け、原告が飲んでいる旨回答すると、『効いてないんじゃないの?』『ちなみに何飲んでるの?』と聞き、原告が『カロナール。』と答えると、『カロナールなんて全然効かないからね。妊婦で飲めるんだよ。』と発言したほか、『いや、カロナールは解熱鎮痛剤なんだけど、カロナールって薬の中で1番弱いやつだから、それを飲んでますって言われても、いや、そりゃ飲んでるって、正直言わないよね。それ治す気あんの。って思っちゃう。カロナール飲んでる時点で。』などと発言した上で、『店はとりあえず来ないとダメ』と発言した・・・。」
「そして、Eは『ずっとやってるスタッフがある日体調崩しました。そうだよね、君はもう全然今まで休んだこともないもんね。いや、大変なんだね。じゃあ休んでくださいってなるよ。ガンガン、ガンガン。もう、あー熱がある。だるい。ってみんなだるいよ。それを押し切って、カロナール、カロナールじゃない解熱鎮痛剤とか飲んでくるんだもん。みんなそういうもんなの。仕事ってだるいなつって休むっていう風になってるから、今それだったらもうその、ここのポジション任せられない。9時-17時ポジションを。だってみんなめっちゃ大変だもん。これ、別に俺がどうのこうのじゃなくて、みんなの声を代弁してきてるから。』などと発言した後、『だから、今後どうするかちょっと考えてもらっていい?』と原告に問い掛けた。これに原告が『続けます。』と答えると、Eは『うん。続けますって言っても、そのシフトそんなに重要なとこで入れないからね。』『いや、だからその時のもう予定次第だよね。他のもシフト作って見ればわかると思うけど、他の人の予定があって、結局この人来る、この人来る、この人来るっていう状態で埋めてくから。それは理解できるよね。』などと発言した・・・。」
(中略)
「Eは、令和6年6月4日の本件面談において、原告に対し、本件欠勤等につき、欠勤と早退が多いことを注意指導し、体調が悪くなる前に自己管理をしてほしい旨を述べた際、原告が自己管理をしている旨述べているにもかかわらずこれを疑問視する発言をし、そのために原告が『してて、これです。それ以上のことは私できないです。』と発言すると、『だとしたらシフトにそんなもん入れられないね。』と言い放ち、その後も、一時的な体調不良で本件欠勤等をした原告とは異なり物理的にシフト勤務日に出社できなくなったGを引き合いに出して、シフト勤務日に出社しない従業員にシフト勤務日の指定はしない旨の発言をしたり、原告の上記発言を執ように捉えて、原告に今後の改善がないものと断定してシフト勤務日を指定できない旨の発言をしたり、カロナールを服用している時点で体調不良を治す気がないように見えるなどと述べて強力な解熱鎮痛剤を服用してでも出社するようでなければ重要な時間帯のシフト勤務日の指定はできない旨の発言をしたりするなどし、本件面談の最後には、人手が足りなくても原告にシフト勤務日を指定するのではなくて他の人を入れるなどと発言するなどしたものであって、これらのEの言動は、シフト決定権限を有する本件店舗の店長という優越的な地位を背景に行われた、正当な業務上の注意指導を逸脱した違法なパワーハラスメント行為といえる。」
3.異様な言動
事件にならないと高を括っているのか、シフト決定権限を背景としたハラスメント事件では、驚くような言動を確認できることがあります。本件もそうした事件の一つであり、体調不良の従業員に対して強力な解熱鎮痛剤を服用してでも出社するように迫るという異様な言動が確認されました。
声をあげにくい労働者に対して行われているハラスメントの実体を知る資料として、本件は実務上参考になります。
