祝(感謝)の電報、「かわいい」「体型良いよね」などの褒め言葉がセクハラとされた例

1.褒め言葉もセクハラになる?

 平成18年10月11日 厚生労働省告示第615号『事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』【最終改正:令和2年1月15日 厚生労働省告示第6号】は、

「職場におけるセクシュアルハラスメント」を、

「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働
者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環
境が害されること」

と定義しています。

 この定義からも分かるとおり、セクハラが成立するのは「ブス」「デブ」などのネガティブな言動だけではありません。「かわいい」「体型良いよね」などといった容姿を褒める言葉であったとしても、それが一般的に就業環境を不快にさせ、能力の発揮に重大な悪影響を生じさせるなど就業上看過できない支障を生じさせるものである場合、セクハラに該当します。これは行政解釈上セクハラになるというだけではなく、民法上の不法行為該当性との関係でもあてはまります。

 近時公刊された判例集にも、感謝を伝える行為、褒め言葉がセクハラにあたるとして、不法行為の成立を肯定した裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令7.10.23労働判例ジャーナル169-42 損害賠償請求(セクハラ)事件です。

2.損害賠償請求(セクハラ)事件

 本件で原告になったのは、昭和57年生まれの女性で、宅配便等の各種輸送に関する事業を営むC株式会社D営業所カスタマーサービス課で勤務していた方です。同じ営業所に所属していた被告から度重なるセクハラを受けたとして、損害賠償を請求する訴えを提起したのが本件です。

 原告の方は会社も共同被告として慰謝料を請求する訴えを提起していましたが、会社との間では和解が成立したため、訴訟の相手方としては被告のみが残りました。

 本件の原告は種々の行為をセクハラだと主張しました

 裁判所は、原告の主張する行為の一部について、次のとおり述べて不法行為該当性を認めました。

(裁判所の判断)

・信書便物(電報便)の送付について

「被告が原告に送付した本件電報便は、その本文の内容は原告に対する感謝の意を述べるものであるものの、〔1〕表紙には『祝』と記載されている、〔2〕宛名には『Aちゃん』という原告の愛称のみが記載されている、〔3〕差出人は『Bとクソ野郎たち』となっており、『B』は被告のことであるとしても、『クソ野郎たち』が誰を指すのかは明らかでないなどの不審な点がある。したがって、本件電報便からはこれがどのような趣旨で送付されたものかが判然とせず、これを受け取った者において本件電報便は冷やかしやからかいの一種ではないかと疑ったとしても無理がないものであったといえる。」

「また、本件電報便の送付は、原告に対して事前に承諾を得ることもなく一方的に行われたものであり、原告にとって予期せぬ出来事であった。また、被告は、あらかじめ原告から教えてもらっていた住所を用いて本件電報便を送付しているが、原告が被告に住所を教えた際に当該住所がこのような業務の範囲を超えた私的な用途に用いられることを予測することも困難であったと考えられる。」

「これらの事情に照らすと、本件電報便を送付した被告の行為は、原告に対して強い不快感を抱かせるものであったといえる。そして、仮に本件電報便が原告に対して感謝の意を伝える趣旨で送付されたものであり、その意味において業務との関連性が認められるとしても、このような強い不快感を抱かせるような方法ないし態様をとる合理的理由は見出し難い。」

・「かわいい」などの発言について

「被告の原告に対する『今のかわいい』という言葉は、背後から近付いてきていた被告に気付いて驚いた原告に対して発せられたものであった。このような上記発言がされた状況等に照らすと、同発言は、驚いた際の原告の様子や言動についての冷やかしやからかいの趣旨であったと認められ、業務上の必要性は見出し難く、また、原告に不快感や羞恥心を与えるものであったといえる。」

(中略)

・下着や体型に関する発言について

「被告の原告に対する『胸元がはだけて下着が見えてしまう』という発言は、〔1〕原告と被告の性別の違い、〔2〕下着が見えるという言葉は女性の性的な姿を想起させるものであること、〔3〕上記発言は原告が前屈みの姿勢となった際のものであり、実際に被告から原告の胸元や下着が見えてしまっていたという意味にも受け取れることからすれば、原告に強い不快感や羞恥心を与えるものであったといえる。そして、仮に上記発言が原告の服装や身だしなみを注意する趣旨で行われたものであったとしても、このような強い不快感や羞恥心を与えるような方法をとる業務上の必要性は見出し難い。」

「また、原告に対する『体型良いよね。』という発言は、原告の体型に関して言及するものであり、業務上の必要性は見出し難い上、原告に不快感や羞恥心を与えるものであったといえる。」

・電話での発言について

「被告の原告に対する『こんな愚痴や話を聞いてくれるのはAちゃんだけだよ。』という発言は、『Aちゃん』という呼称を用いているという点を除けば、原告に不快感や羞恥心を与えるものであったとはいえない。

(中略)

・「Aちゃん」という呼称について

「以上に加え、被告は原告のことを日常的に『Aちゃん』という愛称で呼んでいたことも認められる・・・。『ちゃん』付けという呼称は、一般的には幼少の子どもに対して用いられ、成人に対して用いられるのは交際相手等の親密な関係にある場合が多く、業務上においてこのような呼称を用いる必要性は直ちには見出し難い。そして、被告としては原告に対する親しみを込めて上記の呼称を用いていたとしても、原告と被告の年齢や性別、本件営業所に勤務する従業員同士にすぎないという両者の関係性等に照らすと、原告を『ちゃん』付けで呼ぶことは原告に不快感を与えるものであったといえる。なお、厚生労働省が公表している『心理的負荷による精神障害の認定基準』(令和5年9月1日付け基発0901第2号)においても、『「○○ちゃん」等のセクシュアルハラスメントに当たる発言をされた』ことが心理的負荷を与える出来事の例として挙げられている・・・。」

・総合評価

「以上のとおり、原告の主張する事実のうち、信書便物(電報便)の送付、『かわいい』という発言・・・、下着や体型に関する発言・・・、日常的に『Aちゃん』という呼称を用いていたこと・・・については、業務上の必要性が認められず、原告に不快感や羞恥心を与える不適切な行為であったといえる。そして、このような不適切な行為が令和3年5月頃から同年11月頃までの間に繰り返し行われたものであること、被告が原告の上司に類する立場にあったこと・・・も踏まえれば、これら被告の原告に対する一連の行為は、社会通念上許容される限度を超えた違法なハラスメントとして、不法行為に当たるというべきである。」

(中略)

「被告の原告に対する一連のハラスメント行為の内容や頻度のほか、被告会社から裁判上の和解に基づく解決金が支払われること(・・・。なお、上記解決金には原告に生じた休業損害や治療費等を一部補填するという趣旨に加え、原告が被った精神的苦痛を慰謝するという趣旨も含まれていると見ることができる。)を踏まえれば、現時点において原告の精神的苦痛を慰謝するための金員としては20万円が相当である」

3.好意の発露もセクハラになり得る

 嫌がっていると知りながら身体に触れる、容姿をけなす、特定の性別に対して侮蔑的な言動をとるといった「嫌がらせ」といった語感に近い旧来型のセクハラは、体感的に随分と減少しているように思います。

 代わりに目立ってきているのが、この好意を向けるタイプのセクハラです。

 このタイプのセクハラは、相手が明確な拒絶意思を表明しにくいこともあり、問題が問題として認識されないままエスカレートして行きがちです。そして、ある時、被害者のメンタルが限界を迎え、行為者から見ると、突然爆発したかのような形で問題が顕在化することになります。

 こうした紛争は被害者にとっても行為者にとっても不幸です。

 ネガティブなものはもちろん、ポジティブなものであったとしても、職場での性別を想起させるような言動は控えておくことが肝要です。