1.勤務成績不良を理由とする解雇
大抵の会社において、勤務成績不良は解雇事由とされています。
例えば、厚生労働省が作成、公表しているモデル就業規則は、
「勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき」
を解雇事由として掲げています。
労働契約の締結時に、想定されている勤務成績が合意されている場合、勤務成績不良を理由とする解雇の可否は、比較的簡単に議論できます。合意されている勤務成績を基準に据えたうえ、そこから見て「著しく不良」と評価できるのかを考えて行くことになります。
しかし、労働契約締結時に想定する勤務成績が明確に合意されていない場合、どの程度成績が悪いと解雇されてしまうのかを判断することは容易ではありません。
このような状況のもと、雇われ店長に対する勤務成績不良を理由とする解雇の可否を判断するにあたり、損益分岐点を基準とした裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令7.8.8労働経済判例速報2607-18 ワンダーストリーム事件です。
2.ワンダーストーム事件
本件で被告になったのは、債務保証業務、各種食料品・飲料水の製造及び販売等を業とする株式会社です。バー(本件店舗)の経営も行っていました。
原告になったのは、被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、本件店舗のゼネラルマネージャー(店長)として勤務していた方です。被告から解雇されたことを受け、その無効を主張して地位確認等を求めると共に、未払時間外勤務手当等(いわゆる残業代)の支払を求める訴えを提起したのが本件です。
本件の被告は解雇理由の一つとして、原告の勤務成績不良を主張しました。
しかし、裁判所は、次のとおり述べて、勤務成績不良を否定しました。結論として、解雇の効力も否定しています。
(裁判所の判断)
「被告は、原告が本件店舗につき毎月800万円を超える売上げを上げなかったことが就業規則44条1項2号の普通解雇事由を構成するとし、その前提として、原告と被告との間で、原告が毎月800万円を超える売上げを上げることが前提となっていた旨主張し、被告代表者もその旨供述するところ、確かに、被告代表者は、令和4年12月15日における原告とのやり取りにおいても、原告が採用面接において800万円の売上げを上げると発言した旨述べている・・・。」
「しかしながら、被告代表者により遮られているものの、原告は、採用面接の際の上記発言の内容やその趣旨が異なる旨説明を試みようとしていること・・・、被告代表者自身、本件解雇後の原告とのやり取りにおいて、採用面接時に原告から売上げが750万円以上見込めるとの発言があった旨通知しており・・・、800万円とは異なる金額を示していることに加え、被告代表者にも報告されていた定例のミーティングでの議事録には、650万円が達成すべき売上げである旨記載されており・・・、これについて被告代表者から何らか指摘がされたともうかがわれないこと・・・からすれば、上記被告代表者の供述を採用することができず、他に被告と原告との間で原告が毎月800万円を超える売上げを上げることが前提となっていたことを認めるに足りる的確な証拠もない。」
「また、本件店舗における損益分岐点は450万円から500万円であるところ、原告が本件店舗で店長として勤務を開始した令和4年4月から令和5年5月のうち、売上げが450万円を超えていない月は4か月にとどまっている・・・。」
「そうであるとすれば、原告が毎月800万円を超える売上げを上げることができていなかったとして、それが『勤務成績又は業務効率が著しく不良で、向上の見込がなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき。』(就業規則44条1項2号)との普通解雇事由に該当するということはできない。」
(中略)
「したがって、原告には就業規則44条1項2号の普通解雇事由があるということはできず、本件解雇は、そもそも客観的に合理的な理由を欠き、無効である。」
3.損益分岐点が基準とされた
以上のとおり、裁判所は損益分岐点を下回っている月が少数に留まっていることを理由に「勤務成績・・・が著しく不良」であるとの解雇事由にはあたらないという判断を下しました。
利益に直結する部門で働いている労働者の勤務成績不良を理由とする解雇の可否を判断するにあたり、裁判所の判断は、実務上参考になります。
