1.高賃金の労働者に対する解雇
一般論として言うと、賃金の高い労働者は、賃金の低い労働者よりも、解雇の有効性が認められやすい傾向にあります。これは労働契約において提供することが想定されている労務の水準が高いからです。佐々木宗啓ほか編著『労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕396頁にも、
「高度の技術能力を評価され、特定の職位、職務のために即戦力として高水準の給与で中途採用されたが、その期待された技術能力を有しなかったという場合には、労働契約上、労働者には給与に見合った良好な技術能力を示すことが期待されているといえるため、教育・指導が十分であったといえない場合であっても、比較的容易に勤務成績・態度不良に該当し、解雇の相当性が肯定されることになると考えられる。」
と記述されています。
しかし、近時公刊された判例集に、
年俸1292万8000円(月額107万7333円)
と高額の賃金を得ていた労働者に対するコミュニケーションの問題等を理由とした普通解雇について、問題があること自体は認めつつ、具体的な業務への支障や現実的な損害が認められないことを指摘したうえ、その効力を否定した裁判例が掲載されていました。東京地判令6.11.1労働判例1345-44 ギットハブ・ジャパン事件です。
2.ギットハブ・ジャパン事件
本件で被告になったのは、ウェブベースのソフトウェア開発プロジェクト用ホスティングサービスの提供等を目的とする株式会社です。
原告になったのは、令和3年8月3日に被告との間で労働契約(本件労働契約)を締結し、同年9月7日以降、シニアカスタマーサクセスマネージャーとして勤務していた方です。被告から令和5年3月10日付けでコミュニケーション上の問題等を理由として普通解雇されたことを受け、その無効を主張し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。
この事件の特徴は、原告の賃金額の高さにあります。
本件労働契約において、原告の賃金は、
年額1292万8000円(月額107万7333円)
と設定されていました。
これだけ高水準の賃金が設定されていると、解雇も比較的緩やかに認められそうですが、裁判所は、次のとおり述べて、解雇の効力を否定し、地位確認請求を認めました。
(裁判所の判断)
「本件解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないかどうかについて検討する。」
「原告には、CSAに対する配慮不足(解雇事由〔3〕)、他チームの指摘にかかわらず執着・こだわりを示す柔軟性の不足(解雇事由〔7〕、〔9〕)、他チームとの情報共有と顧客へのフォローに関する配慮不足(解雇事由〔10〕)、営業部門を含む他チームとの連携不足(解雇事由〔12〕、〔14〕)、他従業員への配慮不足(解雇事由〔15〕)が認められ、結果として、営業部門との関係を改善することができなかったものということができる。」
「そして、被告は、原告に対し、数度にわたって原告の他部門との連携・協働、コミュニケーションの在り方について助言していたのであって・・・、原告において改善すべき課題であったことも否定することができない。」
「しかしながら、他方、『健康値』等の技術的事項についてCSAに委ねること自体が不適切であったとはいえず(解雇事由〔3〕)、用語・用法の推敲過程も具体的な業務への支障が生じたものとは認め難いし(解雇事由〔7〕、〔9〕)、他部門との連携不足や従業員への配慮不足によって現実的な損害を生じたところもないのであって(解雇事由〔10〕、〔12〕、〔14〕、〔15〕)、その協調性の不足が被告において甘受し難いほどの重大なものであったとはいえない。そして、営業部門との関係改善が果たされなかった原因についても、もっぱら原告に起因するとまではいい難い・・・。」
「そうすると、原告について認めることのできる他部門や他チームに対する配慮不足、柔軟性の不足,連携不足を踏まえても、その内容、頻度、影響に照らすと、被告の就業規則において定める『勤務成績が不良で、改善の見込みに乏しいと認めるとき』又は『会社の秩序を乱し又は協調性を欠き、従業員として不適格であると認めるとき』に直ちに該当する程度とまではいい難く、客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ないし、また、これをもって本件解雇に至ったことが社会通念上相当であると認めることも困難である。」
「以上によると、本件解雇は、被告の有する解雇権を濫用したものとして、無効というべきである(労働契約法16条)。したがって、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める原告の請求・・・は、認容すべきである。」
3.問題行動の結果(支障・損害の不存在)も適切に考慮された
以上のとおり、裁判所は普通解雇の効力を否定しました。
問題があり、助言によって改善の機会も与えられていたとなると、解雇は有効になりそうなものですが、具体的な業務への支障や現実的な損害が認められないことを重視したように思われます。
賃金が高額であるからといって、業務への具体的な支障や現実的な損害が粗く認定されて良いことにはなりません。裁判所の判断は、高賃金労働者に対する解雇の可否を争って行くにあたり、実務上参考になります。
