1.ライン等のメッセージによる叱責
ライン等のメッセージアプリを業務に用いている会社は少なくありません。
こうしたアプリを通じたメッセージは手軽に送れるせいか、メールよりも感情的な言葉が吐露されがちな傾向にあります。指が滑ったとしても、このような言葉は機械的に記録されます。そして、記録されたメッセージの送受信履歴は、ハラスメントの証拠として活用されることがあります。
近時公刊された判例集にも、勤務態度に関して高圧的、侮辱的、挑発的なメッセージを送信したことを不法行為に該当すると判示した裁判例が掲載されていました。という共地判令7.8.28労働判例ジャーナル167-36 エアクラフトセールズ&リース事件です。
2.エアクラフトセールズ&リース事件
本件で被告になったのは、中古航空機の販売、リース等を業とする株式会社です。
原告になったのは、回転翼航空機の事業用操縦士の資格を有している被告の元従業員の方です。未払分の賃金や立替金、代表者や上司Cから違法なパワーハラスメントを受けたことを理由とする慰謝料等を請求する訴えを提起したのが本件です。
本件でパワーハラスメントとされたのは、代表者やCからが送信したメッセージです。裁判所では、次のようなメッセージが送信されたと認定されています。
(裁判所が認定した前提事実)
被告代表者は、原告が被告で勤務していた期間中、被告の他の従業員もメンバーとなっているグループLINE上で、原告に対し、次のとおりメッセージを送信した。
(ア)令和5年7月12日(甲7の1)
「ペナルティ1万円ね」
「給与から2万ひきます」、「引かれた分、歩合や契約取ってきて稼いで下さい」、「もう、社会人なんだから僕に世話焼かせないで」、「給与無くなってしまうよ」
「ミスしたら体か売り上げて返すのが筋」
(イ)同月14日(甲7の2)
「意味わからん」「文字読めてる?」
「ちゃんと仕事出来るようになるまで東京都の最低賃金で働いてもらおう」
(ウ)同年8月17日(甲7の4)
「東京都の最低賃金で9月から俺のドライバーやって下さい。」、「嘘ついて仕事する人に出せる給料はありません。」
(エ)同年12月23日(甲7の5)
「今後、A君に頭を使って考える事を託さないようにしましょう。A君には無理です。」、「教えても期待してもこれ以上は無駄と判断せざるを得ないです。」
被告の従業員であり原告の上長であったCは、原告が被告で勤務していた期間中、原告に対し、次のとおりメッセージを送信した。
(ア)令和5年10月3日(甲7の11)
「遅いんだよ、返事が!」
「相変わらず、つ・か・え・な・い↓ガッカリだよ」
(イ)同月10日(甲7の9及び12)
「返事してくれない??」
「お前俺を舐めてない?」
「返事しろよ■(判決注:怒りマーク。以下において同じ。)」
(ウ)同月17日(甲7の10)
「本当に意味ない!何の為にお前に聞かせてるのか?良く考えろよ■」
「使えないヤツで終わるぞ!!」
「相手の思うがまま、話にならないよ↓」、「ガキの使いじゃないをだからさ!ちゃんとお仕事しようよ、お願いだから」
(エ)同月24日(甲7の8)
「11月の合宿明けの火水の休みなんかダメに決まってるだろうが!良く考えろよ■」
「そこまで迷惑かけて休んでおいて、ふざけるな■と言いたいんだよ!わかれよ」
「また無視ですか?いい加減にしてくれないかな???」
(オ)同年12月10日(甲7の7)
「イエス、ノーの返事位しろよ■」
「お前が聞き出せないから、こうなってしまってるんだから!」
「もういい、お前がそうゆう態度取るなら、俺も一切お前のお願いは聞かないから!わかったな!!」
(カ)同月24日(甲7の6)
「辞めるのなら最後位ちゃんと働けよ」
「そうゆう事やってるから成長ないんだよ!」
「お前しつこいんだよ」
「ガキみたいな事止めてくれません?言いたい事あるなら、直接言ってこいや!」
(引用ここまで)
これらのメッセージの送信行為について、裁判所は、次のとおり述べて、不法行為該当性を認めました。
(裁判所の判断)
「被告代表者及びCは、原告が被告において勤務していた期間中、原告に対し、その勤務態度等に関するメッセージを繰り返し送信している。これらのメッセージには、高圧的、侮辱的又は挑発的な文言を用いる、賃金の減額を示唆する、原告の業務遂行能力を全面的に否定するなどの不適切、不相当な態様で原告に対する不満感を露骨に表現したものが含まれており、また、被告代表者の送信したメッセージについては、被告の他の従業員が閲覧することができる状況でもあった。そうすると、これらのメッセージを送信した行為は、職務上の指導として社会通念上許容される範囲を逸脱し、原告に過度の心理的負荷を蓄積させてその人格的利益を侵害するものとして、原告に対する不法行為に当たるというべきである。」
「したがって、被告はこれによって原告に生じた損害を賠償する責任を負う(会社法350条、民法715条)。」
(中略)
「以上のとおり、原告が違法なパワハラであると主張する行為のうち被告代表者及びCによるメッセージの送信については不法行為に当たるといえるところ、そのメッセージの内容や頻度等を踏まえると、これによって原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては50万円が相当であると認められる。」
3.比較的高額の慰謝料が認定されている
このブログでも何度か言及してきたとおり、ハラスメントの慰謝料の相場水準は極めて低調です。そうした相場水準を踏まえた評価にはなりますが、本件では50万円と比較的高額の慰謝料が認定されました。問題発言が各数個程度ということを考えると、裁判所の認容額は注目に値します。
ハラスメントは客観証拠に乏しいものを事件化するのは非常に大変なのですが、客観証拠が存在する範囲でのみ問題にしてゆくのは、それほど手間がかかるわけではありません。単体で事件化するほどではないにせよ、確たる証拠が残っている場合、解雇や残業代などメインテーマに付随する問題として事件化を検討してみても良いのではないかと思います。
