1.新人に対するセクハラ
昨年(令和7年)6月11日、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」が公布されました。
この改正法は、
「求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して事業主が講ずべき措置等」
いわゆる就活セクハラへの対応を義務付けるもので、学生などの就活生を保護する役割が期待されています。
この就活生と並んでセクハラ被害に遭いやすいカテゴリーに新人従業員があります。
新人従業員は社会人としての経験や業務知識が古参の従業員よりも少なく、職場において脆弱な立場になりがちで、しばしばハラスメントのターゲットにされています。
近時公刊された判例集にも、新人に対するセクハラで会社の安全配慮義務が認められた裁判例が掲載されていました。名古屋高判令7.9.10労働判例ジャーナル167-34 ヤマト運輸事件です。
2.ヤマト運輸事件
本件で被告(被控訴人)になったのは、宅配事業を行う株式会社です。
原告(控訴人)になったのは、平成30年11月1日に被告との間で労働契約を締結し、アンカーキャスト(午後の配達業務を担う役割)として勤務していた方です。
被告の男性従業員からセクハラ行為等を受けたとして、損害賠償を請求する訴えを提起しました。原審は既に加害者から支払を受けている損害賠償金の額を超えるような損害は発生していないとして、原告の請求を棄却しました。これに対し、原告側が控訴したのが本件です。
本件の裁判所は、次のとおり述べて、原審を破棄し、被告に対して追加での慰謝料の支払いを命じました。
(裁判所の判断)
・本件セクハラ行為について
「Cは、控訴人に対し、次のセクハラ行為に及んだことが認められる。
ア Cは、平成30年12月14日、業務中、控訴人の臀部を指でつついた。
イ Cは、平成30年12月14日から平成31年1月17日までの間に、控訴人と共に業務に従事していた際、控訴人に対し『人目につかないところに行ってイチャイチャしよう』、『荷台で誰にも邪魔されず暖め合おう』、『Aさんのカラダを想像したら元気になっちゃう』などと言ったり、繰り返し控訴人の胸や臀部、脇腹等を触ったりつついたり揉んだりしたほか、トラックの荷台に連れて行こうとした。これらの中には、平成31年1月17日の横乗りの際にされたものが多く含まれている。」
「なお、控訴人が、平成30年12月14日にCからセクハラ行為を受け、平成31年1月16日にDに対してCからのセクハラ行為について相談していることからすれば、この間、Cによる控訴人へのセクハラ行為は継続していたとみるのが自然である。」
「Cは、平成31年1月19日、業務中、控訴人が乗っている車両のドアを開け、『いいお尻してるね』、『胸はどんな形なの』などと言って、控訴人に抱き付き、胸を触った。」
(中略)
・本件セクハラ行為に係る安全配慮義務違反について
「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、
〔1〕控訴人が被控訴人に入社するより前に、Cは、担当区域の集荷先であるHの女性店員にセクハラ行為を行い、店長から被控訴人に抗議があったため、営業所長(当時の呼称はセンター長)であるDがCと共に謝罪に赴いたことがあったが、その後Cに対しセクハラ行為に関する教育や指導が行われたことはなかったこと、
〔2〕Cは、被控訴人の複数の女性従業員に対し、日常的に身体的接触をしていたこと、
〔3〕上記のようなCによる社内及び社外の女性に関する問題については、被控訴人の他の従業員にも知られていたこと、
〔4〕被控訴人には、車両を運転する新人従業員の横に先輩従業員を座らせて研修を行う横乗りという運用が行われており、男女が車両内で長時間二人きりになる機会があったことが認められる。」
「上記事実によれば、Cは社内外の女性に対しセクハラ行為や身体的接触行為を繰り返していたものであり、被控訴人はそのことを知り少なくとも容易に知り得たのであるから、被控訴人は、Cに対して、セクハラ行為があってはならない旨を明確に示して特に教育を行い、Cのセクハラ行為に関する認識が改善したことが分かるまでは、できる限りCが横乗りなどにより女性従業員と業務上二人きりになる機会がないようにするなどして、被控訴人の女性従業員がCからセクハラ行為を受けることを防止すべき注意義務を負っていたというべきである。そうであるのに、被控訴人は、Cの集荷先女性従業員に対するセクハラ行為という被控訴人の対外的信用を失墜させかねない重大な事実が明らかとなった後ですら、Cに対し、個別にセクハラ行為について教育ないし指導をせず、Cのセクハラ行為に関する認識の改善を確認することもないまま、漫然とCに控訴人と横乗りをさせるなどして、Cと控訴人が業務上二人きりになる機会を伴う新人育成のための運用を続けていた。そして、その結果、Cは、上記機会に乗じて、控訴人に対し、種々の本件セクハラ行為を行ったものである。以上によれば、被控訴人には本件セクハラ行為について安全配慮義務違反があったというべきである。」
「なお、被控訴人は、平成30年6月にハラスメント防止規程・・・を作成し、社内イントラネットで開くことができる状態にし、また、平成30年10月以降、ハラスメントについて理解を得るための解説や相談窓口等を記載したハンドブック・・・を全従業員に対して順次配布するなどセクハラを含むハラスメントに対する一般的な取組みは実施していたものである。しかし、ハラスメント防止規定について、その後に入社した労働者や集荷・配送業務等を行う現場従業員を含む全労働者に現実に読了してもらうためにどのような方策がとられたのかは明らかでない。ハンドブックについても、本件センターにおいて、現場従業員に対してこれを用いた教育や啓もう活動等が行われていたことはうかがわれない。そして、被控訴人においては、J主管支店に勤務する営業所長全員を出席者とする業務改善会議において、セクハラに関する資料を配布して会議をしたが、現場従業員に対する研修等については各営業所長に委ねており、Cの勤務していた本件センターにおいて研修が行われたことはなかったというのである。・・・」
「そうすると、少なくとも横乗りという、深刻なセクハラが起きるおそれを否定できない新人育成方法を採用していた被控訴人において、被控訴人が実施していた上記取組が十分なものであったかは疑わしい上、Cによる社内外の女性に対する問題行動が発生した後は、本件センターにおけるセクハラ対策は、もはや上記一般的な取組では足りないというべきであるから、被控訴人において上記取組が行われていたことは、前記判断を左右するものではない。」
3.セクハラ行為者を異性を二人きりにするのはダメ
裁判所は、大意、
セクハラを繰り返していると分かっていただろう、
そんな人間を新人研修で異性の新人と二人きりにしたらダメだ
と判示しました。
法律の世界では「前もやったのだから、今回もやったに決まっている。」「前もやったのだから、またやるに決まっている。」といった考え方に対しては慎重な姿勢をとるのが一般です。これは間違いを生みやすいからです。
しかし、本件の裁判所は、
前にもやってきたのだから、放っておいたらまたやると分かっていただろう、
といったように、前に似たようなことをやったという人的な特性に着目して対策を打っておくべきだったという判断を示しました。この裁判所の判断は、安全配慮義務の内容を考えて行くにあたり、実務上参考になります。
