1.過去の処分歴/非違行為
人事院事務総長発 平成12年3月31日職職-68『懲戒処分の指針』は、国家公務員に対する懲戒処分の量定を考えるにあたっての基本事項として、次のとおり規定しています。
「個別の事案の内容によっては、標準例に掲げる処分の種類以外とすることもあり得るところである。例えば、標準例に掲げる処分の種類より重いものとすることが考えられる場合として、
① 非違行為の動機若しくは態様が極めて悪質であるとき又は非違行為の結果が極めて重大であるとき
② 非違行為を行った職員が管理又は監督の地位にあるなどその職責が特に高いとき
③ 非違行為の公務内外に及ぼす影響が特に大きいとき
④ 過去に類似の非違行為を行ったことを理由として懲戒処分を受けたことがあるとき
⑤ 処分の対象となり得る複数の異なる非違行為を行っていたとき
がある。」
ただ、過去に類似の非違行為を行っていれば、無限に処分量定を加重していけるかというと、そういうものでもありません。制裁の本質は応報であり、やったことに対する均衡という観点から一定の枠があります。それは幾ら前科を重ねたとしても、100円の日用品の窃盗で10年間も拘禁される例がないことを考えると分かりやすいのではないかと思います。
この理屈は懲戒処分との関係でも当てはまります。例えば、国家斉唱に対する不規律行為等を繰り返した教員に対し、処分量定が徐々に過重されて行った事案について、最一小判平24.1.16集民239-253は、
「不起立行為等に対する懲戒において戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについては,本件事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が必要となるものといえる。そして,減給処分は,処分それ自体によって教職員の法的地位に一定の期間における本給の一部の不支給という直接の給与上の不利益が及び,将来の昇給等にも相応の影響が及ぶ上,本件通達を踏まえて毎年度2回以上の卒業式や入学式等の式典のたびに懲戒処分が累積して加重されると短期間で反復継続的に不利益が拡大していくこと等を勘案すると,上記のような考慮の下で不起立行為等に対する懲戒において戒告を超えて減給の処分を選択することが許容されるのは,過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為等の前後における態度等(以下,併せて『過去の処分歴等』という。)に鑑み,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合であることを要すると解すべきである。したがって,不起立行為等に対する懲戒において減給処分を選択することについて,上記の相当性を基礎付ける具体的な事情が認められるためには,例えば過去の1回の卒業式等における不起立行為等による懲戒処分の処分歴がある場合に,これのみをもって直ちにその相当性を基礎付けるには足りず,上記の場合に比べて過去の処分歴に係る非違行為がその内容や頻度等において規律や秩序を害する程度の相応に大きいものであるなど,過去の処分歴等が減給処分による不利益の内容との権衡を勘案してもなお規律や秩序の保持等の必要性の高さを十分に基礎付けるものであることを要するというべきである。」
と判示しています。
同じく国旗国歌事案ではあるものの、近時公刊された判例集にも、この最高裁判決を引用して減給処分の取消をした裁判例が掲載されていました。東京地裁令7.7.31労働判例ジャーナル166-48 東京都・東京都教委事件です。
2.東京都・東京都教委事件
本件で原告になったのは、東京都立高等学校、東京都立特別支援学校の教員の方複数名です。国歌斉唱の際に国旗に向かって起立斉唱する旨の職務命令に従わなかったことを理由に減給・戒告処分とされたことを受け、その取消を求めて訴えを提起したのが本件です。
この事件での判示で目を引くのは、減給処分に係る判示です。
裁判所は、次のとおり述べて、減給処分は違法だと判示しました。
(裁判所の判断)
「不起立行為に対する懲戒において戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについては、本件事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が必要となる。そして、減給処分は、処分それ自体によって教職員の法的地位に一定の期間における本給の一部の不支給という直接の給与上の不利益が及び、将来の昇給等にも相応の影響が及ぶ上、本件通達を踏まえて毎年度2回以上の卒業式や入学式等の式典のたびに懲戒処分が累積して加重されると短期間で反復継続的に不利益が拡大していくこと等を勘案すると、上記のような考慮の下で不起立行為に対する懲戒において戒告を超えて減給の処分を選択することが許容されるのは、過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為の前後における態度等(以下、併せて『過去の処分歴等』という。)に鑑み、学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情(以下単に『相当性を基礎付ける具体的な事情』という。)が認められる場合であることを要すると解すべきである。したがって、不起立行為に対する懲戒において減給処分を選択することについて、相当性を基礎付ける具体的な事情が認められるためには、例えば過去の1回の卒業式における不起立行為等による懲戒処分の処分歴がある場合に、これのみをもって直ちにその相当性を基礎付けるには足りず、上記の場合に比べて過去の処分歴に係る非違行為がその内容や頻度等において規律や秩序を害する程度の相応に大きいものであるなど、過去の処分歴等が減給処分による不利益の内容との権衡を勘案してもなお規律や秩序の保持等の必要性の高さを十分に基礎付けるものであることを要するというべきである。(以上につき、平成24年最高裁判決参照)」
(中略)
「原告らの請求は、原告1が本件懲戒処分1〔3〕(減給処分)の取消しを、原告2が本件懲戒処分2〔1〕、本件懲戒処分2〔2〕、本件懲戒処分2〔3〕、本件懲戒処分2〔4〕及び本件懲戒処分2〔5〕(各減給処分)の各取消しをそれぞれ求める部分には理由があるから、これらをいずれも認容し、原告1及び原告2のその余の請求及びその余の原告らの請求は理由がないから、これらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。」
3.最高裁判決の趣旨がきちんと踏襲された
基本的に下級審裁判所は最高裁判例には従います。
ただ、最高裁判例の中には、現場によって異様に射程が狭く理解されているものも散見されます(個人的見解になりますが、例えば、最三小判平2.6.5労働判例564-7 神戸弘陵学園事件は、有力な学者が批判的な見解をとっていることもあり、裁判所が異様に射程を狭く理解しているように思います)。
平成24年最高裁判決もどうなるかと思っていたのですが、少なくともこの事件を担当した裁判体は、最高裁の判示を踏襲した判断をしました。
国旗国歌訴訟というかなり特殊な訴訟での判断ではありますが、冒頭で述べたとおり、裁判所の判断は、処分歴を理由として処分を不当なまでに過重された事案に応用できる可能性があり、実務上参考になります。
