危険・緊張を伴う現場での「お前この仕事向いていないな。」「お前センスないな。どこ見てんだよ。成長してねーな」との発言がパワハラとされた例

1.昔からある典型的なフレーズ

 部下に厳しくあたる時の言葉には、幾つかの決まり文句があります。「この仕事向いてないな。」「センスないな。」「成長してないな。」といった言葉などが該当します。こうした言葉は、業種・業界を問わず、「指導」という名目で、現在でもしばしば使われています。

 しかし、「向いてない」「センスない」「成長していない」などと言われたところで、言われた側としては、どうしようもありません。自分には適性がないから成長できないと諦めに入ってしまい、精神を病んだり、転職を模索したりするだけです。このような言葉を投げかけるくらいであれば、どうしたら適性を発揮できるのか、どうしたらセンスを磨けるのか、どうしたら成長できるのかを伝えた方が余程生産的だと思います。

 こうした言葉は必要でも相当でもなく、パワーハラスメントに該当する可能性が十分にあると思っていたところ、近時公刊された判例集に、これらの言葉をハラスメントに該当すると判示した裁判例が掲載されていました。東京地判令7.6.11労働経済判例速報2601-26 一般財団法人航空保安協会事件です。

2.一般社団法人航空保安協会事件

 本件で被告になったのは、航空保安施設の維持管理、空港における消防警備等の事業を行う一般財団法人です。

 原告になったのは、被告で消防業務等に従事していた方です。部下に対するハラスメントを理由に主任から降格されたうえ、停職15日の懲戒処分を告知されたことを受け、各処分の無効の確認を求めるとともに損害賠償を請求する訴えを提起したのが本件です。

 本件で問題になったのは、次の三つの行為です。

「E(以下『E』という。)が業務中に失敗するたびに、『お前この仕事向いてないな。』など,繰り返し発言した。」(本件対象行為〔1〕)

「令和4年11月9日、Eの運転操作状況について、『お前センスないな。どこ見てんだよ。成長してねーな。』などと、理由もなく車両の拡声器を使い、外の人に聞こえるように発言した。」(本件対象行為〔2〕)

「令和4年11月30日、消防西庁舎での夜勤時に、他の職員がいる前でEへ失敗したリストをホワイトボードに書くよう強要した。」(本件対象行為〔3〕)

 本件の被告は、ハラスメント防止規程の中に、

「パワー・ハラスメント(以下『パワハラ』という。)とは、原則として職場における地位や権限を背景にして、相手の人格や尊厳を侵害する言動であって、これにより、その人や周囲の人に身体的・精神的苦痛を与え、その就業環境を悪化させるものをいう。」

「職員は、次に掲げるようなパワハラ行為を行ってはならない。」

「他の職員がいる前で、責め続けること」(4条3号)

「人格や尊厳を否定するような発言を繰り返すこと」(4条5号)

といった定めを置いており、本件対象行為①~③はこれに触れるとして懲戒処分を行いました。

 裁判所は、本件対象行為〔1〕~〔3〕の事実を認めたうえ、次のとおり述べて、15日間の停職を内容とする懲戒処分は適法有効だと判示しました。

(裁判所の判断)

「本件対象行為1については、M及びLが自ら見聞きした事実として一致して回答しており、Eが本件文書において、原告から『(令和4年9月頃に)道路交通法も守れないし、この仕事向いてないから辞めろよ。』と言われた旨記載していることとも整合することからすれば、かかる事実があったものと認めるのが相当である。そしてその態様は、指導の範疇を越え、Eの人格自体を否定する趣旨であると認められ、ハラスメント防止規程4条5号に該当する。」

「本件対象行為2については、M、P及びHが、車両にEと同乗した原告が拡声器を使って注意を行っていたことを見聞きしたと述べ、Mは、『お前センスないな。どこ見てんだよ。成長してねーな。』との発言を聞いたことは間違いない旨、Pは、言葉自体は覚えていないが、感情的な注意の仕方であったと記憶している旨を回答している。さらに、原告自身も『センスないな。』と発言したことは認めていることからすると、Mが聞いたとする上記発言が実際にあったと認めるのが相当である。そしてその態様は、車両に同乗しており口頭で指導すれば足りる状況であったにもかかわらず、あえて車両の拡声器を使い、外の人に聞こえるように発言したというものであるから、ハラスメント防止規程4条3号及び5号に該当する。」

「本件対象行為3については、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、原告は、令和4年11月30日、H及びもう1名の職員がいる前で、Eに対して、失敗したことを『失敗リスト』と称してホワイトボードに列挙させたものであり、列挙させるだけで適切な教育的指導等があったとはうかがわれず、Eにとって『強要された』と感じさせるものであったといえるから、かかる事実があったと認めることができ、ハラスメント防止規程4条3号に該当する(なお、Lが、聴取り調査において、本件対象行為〔3〕を実際に見たと述べているところ・・・、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、Lは、本件対象行為〔3〕そのものを見たのではなく、原告が撮影し送信した写真・・・を見た上での受け止めを述べたか、又は令和4年11月30日とは別日の出来事を述べたものと考えられる。)。」

「したがって、本件対象行為はいずれもハラスメント防止規程4条及び就業規則4条に反する行為であり、原告について就業規則45条5号の懲戒処分事由があると認められる。」

「原告は、令和元年12月、当時の部下職員であったFに対するパワハラ行為により前回懲戒処分を受け、被告に対して謝罪するとともに再発防止を誓う始末書を提出したものであるにもかかわらず、それから3年間も経たないのにEに対して本件対象行為を行ったものである。」

「前記認定事実、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、原告のEに対するパワハラ行為は、部下職員に対する指導の範囲を超えた感情的言動かつ人格攻撃というべき相当に悪質なものであり、Fに対するパワハラ行為と同様の態様であったこと、FとEは、いずれも原告からパワハラ行為を受けたことが要因の一つとなって退職に至ったことが認められる。」

「そして、空港の安全に関わる重要な業務を担う被告において、その職務の特殊性や常に危険及び緊張を伴う現場であること等から人材不足が常態化しており、貴重な人材を失う事態を極力避けなければならないという状況にある中で、2度にわたり原告のパワハラ行為を要因として職員が退職に至ったことは、看過することができない重大な事態であったといえる。」

「本件懲戒処分は、前回懲戒処分より2段階重く、また解雇の次に重い処分である一方で、3月以内の期間とされる中で15日間の停職処分と定めたものであるところ、本件懲戒処分に係る原告の行為の性質及び態様その他上記の諸事情を踏まえると、『客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合』(労働契約法15条)には当たらないというべきである。」

「したがって、本件懲戒処分は、権利の濫用に当たらず、有効である。また、不法行為にも当たらない。」

3.危険・緊張を伴う職場としての特性が処分を重くする方向で考慮された

 言動がハラスメントとされたことのほか、本件で興味深く思ったのは、危険や緊張を伴う現場仕事であることが、処分量定を重くする方向で考慮されていることです。

 従来、警察、消防、医療等の現場では、危険・緊張を伴う業務であることを理由に、きつい言葉のハラスメントが否定されやすい傾向がありました。多少の厳しさや粗っぽさは仕方ないだろうという理屈です。

 例えば、千葉地判令5.2.22労働判例1295-24 医療法人社団誠馨会事件は、手術中の医師の「バカ、お前」「何やってんだよ」「おい!」「貸せよ」などという言動について、

「上記発言は、その内容や発言がされた状況からみて、原告の執刀により患者の身体を損傷させる可能性があったためこれを止める趣旨であるか、又は原告が手術を進めることができないことを受けたものと認められ、手術中という緊張感のある状況での発言であることに鑑みると、社会通念上許容される指導の範囲を逸脱した違法な発言であるとは認められない。」

などと判示し、言動は適法だと判示しています。

医師のパワハラ-研修医を「バカ」と叱責することが適法(違法とはいえない)とされた例 – 弁護士 師子角允彬のブログ

 しかし、本件の裁判所は、

危険・緊張を伴う現場であることから人材不足が常態化していた、

貴重な人材を失う事態を極力避けなければならない状況のもと、職員が退職するに至ったことは看過できない、

などと述べて、危険・緊張を伴う現場仕事に関係していたことを、重い処分量定を正当化する事情として評価しました。

 裁判所の判示からは、人材不足という観点からも、ハラスメントが許されない時代になっていることが窺われます。時代の移り変わりを象徴する事件として参考になります。