就学期間が退職金算定における勤続年数に含まれるとされた例

1.労働契約締結後の就学期間

 労働契約の締結後、使用者から就学を命じられることがあります。例えば、病院が採用した職員に対し、看護学校への通学を指示するといったようにです。

 この勤務期間中の就学には、二面性があります。

 一つは業務命令としての面です。就学するようにとの指示には、業務と密接に関連するものがあります。会社の都合で興味もないのに仕事に関連する事項を無理に勉強させられたといった場面は、その典型です。

 もう一つは、自己の能力開発という側面です。国家資格の取得に結びつくような知識・技能は、ポータブルスキルとして労働者に紐づき、転職にも結び付けることができます。

 それでは、この就学期間を欠勤期間と同様に扱い、退職金額を計算するにあたっての勤続年数から除外することは許されるのでしょうか?

 近時公刊された判例集に、この問題を考えるうえで参考になる裁判例が掲載されていました。大阪地判令7.9.26労働判例ジャーナル166-32医療法人社団以和会事件です。

2.医療法人社団以和会事件

 この事件で被告になったのは、C病院(本件病院)を運営する医療法人です。

 原告になったのは、被告との間で雇用契約を締結し、本件病院において看護師等として勤務していた方です。被告を退職した後、退職金の支払を求める訴えを提起したのが本件です。

 被告には、

「病院が業務上必要と認めた場合には、看護等の専門学校に通学させる。」

「本制度により入学した職員が在学期間中の奨学金等については、病院と職員は個別の奨学金契約を結ぶものとする。」

と書かれた就業規則がありました。このようなルールのもと、原告は奨学金の貸付けを受け、看護専門学校の准看護科や看護科に通学していました。

 通学期間が合計5年と長期に及んだこともあり、被告は、

「原告の専門学校への通学は、原告の希望によるものであり、本件就業規則に基づくものではないから、上記通学期間である5年間は、本件給与規程24条(1)ただし書の自己の事由による欠勤期間に該当する。」

「よって、原告の退職金算定における勤続年数は、上記通学期間である5年間を除く6年1月である。」

と主張しました。これは「自己の事由による欠勤期間」に該当する期間を勤続年数から除外することを定めた給与規程に基づく主張です。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、就学期間を含めた期間が勤続年数にあたると判示しました。

(裁判所の判断)

「本件給与規程24条(1)は、勤続期間満3年以上の退職者に対して退職金を支給する旨定めた上で、ただし書において、勤続年数から除外すべき期間として、自己の事由による欠勤と休職期間を挙げている。」

「この点、被告は、看護専門学校の通学期間について、自己の事由による欠勤期間であると主張する。」

「しかし、原告の看護専門学校への通学は、被告との間で奨学金契約を締結していること・・・などに照らし、本件就業規則の『第11節 教育』の4条に基づくものであると認められるところ、同条によれば、病院が業務上必要と認めた場合に看護等の専門学校に通学させることになっているのであるから、自己の事由による欠勤に該当するとは認められない。」

「これに対し、被告は、原告の看護専門学校への通学について、本件就業規則に基づくものではないと主張するが、不自然・不合理であり、採用できない。」

「また、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、原告は、看護専門学校に通学していた期間中も、授業後の時間帯や授業がない日に本件病院で就労していたことが認められるから、この点においても、上記自己の事由による欠勤に該当すると認められない。」

「以上によれば、原告の退職金の算定における勤続年数は、11年1月である。」

3.業務関連性や就業規則、退職金規程の文言にもよるだろうが・・・

 就学内容の業務関連性の高低や、就業規則・退職金規程の文言にもよるのでしょうが、本件の裁判所は就学期間は自己の事由による欠勤期間には該当せず、勤続期間に参入されると判示しました。

 あまり目にしたことのない論点ですが、今後、人材不足が進み、就学期以前に労働者が囲い込まれるようになると、こうした争いは増えて行くのかも知れません。