更新を期待する場合には、契約更新の基準に関するやりとりをしておくこと

1.雇止めの二段階審査

 労働契約法上、

「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」(契約更新に向けた合理的期待が認められる)場合、

有期労働契約者からの契約更新の申込みに対し、使用者は、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められなければ、申込みを拒絶できず、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したことを擬制される

というルールが採用されています(労働契約法19条2号参照)。

 言い換えると、雇止めの可否は、

① 合理的期待があるのか、

② 客観的合理的理由・社会通念上の相当性があるのか、

という二段階審査を受けることになります。合理的期待が弱い場合には、客観的合理的理由・社会通念上の相当性も弱くて足りるといったように二つの要件を相関的に理解する見解はあります。それでも、①の合理的期待が「ない」場合には、理由の客観的合理性・社会通念上の相当性を問題にすることなく、期間満了により契約は終了することになります。

 そのため、有期労働契約の更新を受けたい労働者としては、第一段階審査を乗り越えることが目下最大の課題となります。

 労働者敗訴事案ではあるものの、この合理的期待を作り出すための工夫として参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。大阪地判令7.8.21労働判例ジャーナル165-48 ヤマト銘板製作所事件です。

2.ヤマト銘板製作所事件

 本件で被告になったのは、金属及びプラスチック製銘板の製造並びに販売を業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告の元代表取締役です。代表取締役を辞任後、被告と有期労働契約を締結して就労していました。

 当初契約は、

令和4年12月1日~令和5年11月30日で、

令和5年12月1日~令和6年2月29日

と3か月間更新された後、被告から更新を拒絶されました。

 これを受けた原告が、雇止め法理の適用を主張し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 当初労働契約には、

契約更新の有無 有

とされ、更新しない場合の基準として、

「この契約による雇用期間中、乙が次の事項の一に該当する場合

〔1〕通常必要とされる職務遂行能力を下回ると認められる場合

〔2〕協調性に欠け、職場の和を乱すと認められる場合

〔3〕勤怠が悪い場合

〔4〕その他、この契約の『解雇に関する事項』に該当した場合」

という記載がありました。

 このような事実関係のもと、裁判所は、次のとおり述べて、合理的期待を否定し、原告の請求を棄却しました。

(裁判所の判断)

・判断枠組み

「労働者において有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるかは、雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間の管理の状況、雇用の継続を期待させる使用者の言動の有無、他の労働者の更新状況等を総合的に考慮して判断するのが相当である。」

・検討

「上記認定事実によれば、本件労働契約は、原告が被告代表者に経営上のノウハウを教えるために1年間の有期契約として締結されたのであり、少なくとも長期間継続することが予定されていたものとはいえない。」

「本件各労働契約書には『契約更新の有無:有』との記載があり、『更新しない場合の基準』が定められているものの、上記認定のとおり、本件各労働契約書は原告の代表取締役在任中から被告にあった労働契約書のひな型を使用して作成されたもので、上記記載は本件労働契約書2における追加部分を除き、ひな型の内容がそのまま残っていたにすぎない上、本件労働契約の締結時及び更新時のいずれにおいても、原告と被告代表者との間で本件各労働契約書の『更新しない場合の基準』の記載を含め、契約更新の基準に関するやりとりが一切されていなかったのであるから、本件各労働契約書に『更新しない場合の基準』が定められていることをもって、本件労働契約が原則として更新されることを予定したものであったということはできないし、原告において本件労働契約が原則として更新されるものと期待することが合理的であるともいえない。」

「次に、本件労働契約の更新の回数は1回しかなく、雇用の通算期間は1年3か月にとどまり、長期間とはいえない。また、本件労働契約の更新時に契約期間が3か月間に短縮されており、契約期間が更新時の状況に応じて管理されている。」

「他方、被告代表者が原告に対して雇用の継続を期待させる言動をした事実を認める足りる証拠はない。また、他の労働者の更新状況について、原告の叔母と被告との間の有期労働契約が継続しているとしても、原告が相談役として被告代表者に経営上のノウハウを教えるために本件労働契約が締結されたという契約目的の相違等に照らすと、当該事実をもって、原告において契約の更新を期待することが合理的であるとはいえない。」

「以上の事情を総合的に考慮すると、本件労働契約の期間満了時、原告において本件労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるとは認められない。」

「したがって、本件労働契約に労契法19条は適用されない。」

3.契約更新の基準に関するやりとりをしたうえで契約に入ること

 傍線部のとおり、本件では契約に入った時に更新の基準に関するやりとりをしていなかったことが響いているように思います。

 契約書に更新の可能性が「有」と書かれていれば、本件で油断してしまったのはある程度仕方のないことだと思います(むしろ、契約書の記載事項を無視してる裁判所の判断には疑問を覚えます)。

 しかし、契約の更新を求めて行こうと思っていたのであれば、更新条件について契約締結時に(メールや録音など記録に残る形で)詰めておいた方が良かったとは言えるように思います。

 合理的期待を否定されにくい契約を締結するにあたり、裁判所の判断は実務上参考になります。