勤務期間・勤続期間に応じて高くなるように設定されている退職手当が賃金の後払い的性格を併有している根拠とされた例

1.退職金不支給・減額条項の限定解釈

 懲戒解雇など一定の事由がある場合に、就業規則等で退職金を不支給・減額支給とする条項が置かれることがあります。これを退職金不支給・減額条項といいます。

 この退職金不支給・減額条項に基づいて、退職金を不支給・減額支給することができるのかという論点があります。

 この問題について、佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕は、

「退職金は・・・賃金の後払いとしての性格とともに功労報償という性格を併せもっているのが通常であり、その功労報償的性格からして、勤務中の功労が抹消、減殺されるような場合には、退職金を不支給・減額支給とすることも許されると解されている。」(同文献588-589頁)

「もっとも、退職金が賃金の後払い的性格を有しており、労基法上の賃金に該当すると解されることからすれば、退職金を不支給又は減額支給とすることができるのは、労働者の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限られると解するのが一般的である・・・。」(同文献589頁)

と記述しています。

 要するに、退職金の不支給が許容されるのか否かは、

① 退職金の法的性質の検討、

② (賃金の後払い的性格を有していると認められる場合には)勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があったかどうかの検討、

といったように段階を分けた検討が行われることになります。功労褒賞よりも賃金の方が取上げられにくいため、労働者側としては退職金の法的な性質としては、賃金の後払い的な要素が含まれていることを論証できるに越したことはありません。

 それでは、賃金の後払い的性格とは、どのような仕組みから認定されるのでしょうか?

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令7.5.23労働判例ジャーナル165-42 日本郵便事件です。

2.日本郵便事件

 本件で被告になったのは、郵便局を設置し、郵便の業務等を営む株式会社です。

 原告になったのは、被告が設置する郵便局の集配課に勤務していた方です。自己が配達すべきタウンプラス合計132個を配達区域内にあるアパートの空室の郵便受箱に隠匿したことを理由に懲戒解雇され、退職手当も不支給とされました。これに対し、

懲戒解雇は行き過ぎで無効である、

それまでの勤続の功労を抹消するほどの著しい配信行為とはいえない、

などと主張して、退職手当の支払を求める訴えを提起したのが本件です。

 裁判所は、結論として懲戒解雇も退職手当不支給も有効だと述べましたが、退職手当の法的性質について、次のような判断を示しました。

(裁判所の判断)

「被告における退職手当の性格について検討すると、前記前提事実・・・のとおり、退職手当の額は、『退職日退職手当ポイント』に『退職事由別・勤続期間別支給乗率』と『ポイント単価』を乗じて算出されるところ、『退職日退職手当ポイント』を構成する一つの要素である『役割等級ポイント』は、従業員の役割等に応じてポイントが付与され、査定昇給が行われた場合には査定区分に応じた加減がされることになっていること、『退職事由別・勤続期間別支給乗率』は、自己都合退職と定年等による退職を区別し、前者よりも後者の支給率が高くなっていること(退職手当規程別表第1。乙8)などからすれば、被告における退職手当は功労報償的な性格を有しているものといえる。他方で、前記前提事実・・・のとおり、『退職日退職手当ポイント』を構成する他方の要素である『勤続ポイント』は、基本的に勤務期間等に応じて付与されるものであり、『退職事由別・勤続期間別支給乗率』も退職事由ごとに定められた支給率は勤続期間に応じて高くなるように設定されていることなどからすれば、賃金の後払いの性格も併せて有していると評価できる。

「以上のように、被告における退職手当が功労報償的な性格と賃金の後払いとしての性格の双方を有していることに照らせば、前記・・・で認定判断したように本件懲戒解雇が有効と解される場合であっても、退職手当を不支給又は減額支給とすることができるのは、労働者の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限られると解するのが相当であり、被告の就業規則及び退職手当規程の退職手当不支給ないし減額支給の規定も、前記のような趣旨を定める限りで有効と解されるものというべきである。」

「そこで、原告において、従前の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほど著しく信義に反する行為があったといえるかについて検討する。」

3.勤務期間・勤続期間に応じて高くなるように設定されていること

 勤務期間・勤続期間に応じて退職金額が高くなるように設定されていることは、長期間勤務した労働者に対する褒賞という見方もできるように思います。

 しかし、裁判所は、こうした考え方は採用せず、本件のような仕組みを賃金の後払い性格を有している根拠として指摘しました。本裁判例は類似の考え方のもとで設定されている退職金について、賃金の後払い的な性格を有していると主張する根拠となるもので、実務上参考になります。