1.外国人労働者の増加
外国人労働者の数は年々増加の一途を辿っています。
令和7年1月31日の厚生労働省の報道発表資料によると、外国人労働者の総数は、
2008年(平成20年)には約48万6000人であったところ、
2024年(令和6年)には約230万3000人にまで増加しています。
「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001389442.pdf
当たり前ですが、数が増えるとトラブルも増えます。日本人労働者と外国人労働者との諍いは、労働事件を取り扱う弁護士にとって避けては通れないほど大きな問題になっています。
近時公刊された判例集にも、労災絡みで日本人労働者の外国人労働者に対する言動が問題視された裁判例が掲載されていました。東京地判令7.5.12労働経済判例速報2599-14 国・亀戸労基署長事件です。
2.国・亀戸労基署長事件
本件は労災の不支給処分(休業補償給付を支給しない旨の処分)の取消訴訟です。
原告になったのは、在日朝鮮人の両親から生まれた韓国籍の男性です。株式会社に雇用されてコンクリートミキサー車の運転手として運搬業務に従事していたところ、口論になった際に同僚から「国に帰れ」などの発言を受けました。その後、身体表現性障害(本件疾病)を発症し、休業補償給付の請求を行ったところ、処分行政庁から不支給処分とされたことを受け、審査請求⇒再審査請求⇒取消訴訟と手続を進めて行ったのが本件です。
裁判所も結論としては業務起因性を否定し、原告の請求を棄却してはいるのですが、次のとおり述べて、「国に帰れ」等の発言が差別的言動・人格や人間性を否定するような言動であることを認めました。
(裁判所の判断)
「本件会社においては、終業時刻である午後4時よりも早く運搬業務が終了した場合であっても、業務用車両を洗車するなどの仕事をし、終業時刻前には帰宅しないこととされていた・・・。」
「原告は、当日の運搬業務終了後の午後3時40分頃、私用の電話に出るため、本件会社の社屋を出て、午後4時頃まで自家用車内で通話をした・・・。」
「fは、原告が午後4時よりも前に自家用車内にいたことから、原告の所属する班を担当するi係長(以下『i』という。)にその旨を報告した・・・。報告を受けたiは、私用の電話を終えた原告に対し電話をかけ、そのまま帰宅せず、事務所に寄ってから帰るよう伝えた・・・。」
「原告は、fが過去に原告の行動を本件会社に報告したことがあったことから、今回もfがiに報告したものと考え、事務所に向かう途中で、帰宅途中のfと同僚のj(以下『j』という。)を呼び止めた。原告は、fに対し、なんでもかんでも報告するんじゃない、自分の都合よく報告するのはやめてくれなどとiへの報告について抗議し、原告、f及びjの間で口論に発展した・・・。」
「口論において、それぞれ興奮して口調が荒くなってくる中、fは、原告に対し、『国に帰れ』と発言した(以下『本件発言1』という。)・・・。」
「原告は、fに対し、本件発言1について謝罪するよう求めたところ、fは、原告に対し、『すいませんでしたー』と述べた。なお、このとき、fはマスクをしていた。」
「原告は、fに対し、マスクをとって再度謝罪するよう求め、口論を止めに来たk係長(以下『k』という。)もfに対し、もっと丁寧に謝れなどと言ったところ、fは、マスクをとって、顔と顎を突き出すようにしながら『すいませーん』(以下、これら謝罪発言を『本件発言2』といい、本件発言1と併せて『本件発言』という。)と述べた・・・。」
(中略)
「本件発言1は、原告の国籍等とは無関係な仕事上のトラブルを原因とする口論の際にされた発言であり、本邦の域外にある国の出身又は本邦外に国籍を有する者に対し、そのことを理由として、地域社会から排除することを意味するものであって、これが差別的言動に当たり、『人格や人間性を否定するような言動』であることは明らかである。」
「他方で、本件会社において本件発言1以前に原告に対する差別的言動があったとは認められないこと、前記認定事実・・・のとおり、本件発言1は、fが原告と口論となり、互いに興奮し口調が荒くなっていた際の発言であること、前記認定事実・・・のとおり、kがfに対しもっと丁寧に謝るよう述べてfに謝罪させるなど、本件発言1に同調、賛同する者がいたとは認められず、むしろ本件会社の上長において、本件発言1について即座に謝罪させており、本件会社において、本件発言1のような差別的言動が容認されるものではないことが明らかにされていること、その後も同様の発言が繰り返されたとは認められないことなどからすれば、本件発言1が執拗な態様であったとはいえない。」
「これを現行認定基準に即してみると、別表の項目23『同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた』に当たるところ、上記行為を反復・継続するなどして執拗に受けたと認められないから、その心理的負荷の強度は『中』と認めるのが相当である。」
3.国籍と無関係な仕事上のトラブルに国籍を持ち出すのは不適切であろう
裁判所が指摘しているとおり、国籍と無関係な仕事上のトラブルについて国籍を持ち出して揶揄するのは不適切だと思います。
この種の言動は近時目立つようになっており、同種事案に取り組むにあたり、裁判所の判断は実務上参考になります。
