管理監督者に相応しい権限-職務内容の点である部門全体の統括的な立場にあるか否かという観点からの検討を行えば足りるとの見解が否定された例

1.管理監督者性

 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。

 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監督者への該当性は、しばしば裁判で熾烈に争われます。

 管理監督者とは、

「労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」

の意と解されています。そして、裁判例の多くは、①事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有していること(経営者との一体性)、②自己の労働時間についての裁量を有していること(労働時間の裁量)、③管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を得ていること(賃金等の待遇)といった要素を満たす者を労基法上の管理監督者と認めています(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ」〔青林書院、改訂版、令3〕249-250参照)。

 この①の権限について、近時、労務管理上の権限に言及することなく、

「『経営者と一体的な立場』にあるというのは、担当する組織部分について、経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場にあることを意味するにとどまる。そうすると、当該労働者がその職務内容の点で、少なくともある部門全体の統括的な立場にあるか否かという観点からの検討を行えば足りるというべきである。」

と述べたうえ、管理監督者性を否定した裁判例が言い渡され、注目を浴びていました(静岡地判令6.10.31労働経済判例速報2573-3日本硝子産業事件)。

 その後の経過が気になっていたところ、上述の判示は控訴審(東京高判令7.7.2労働判例ジャーナル165-26日本硝子産業事件)で破棄されたようです

2.日本硝子産業事件

 本件はいわゆる残業代事件です。

 被告(被控訴人)になったのは、アンプル・バイアルの製造、品質管理、受託業務等を業とする会社です。

 原告(控訴人)になったのは、被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、執行役員医薬品担当部長として勤務していた方です。

 本件の原審は、原告の管理監督者性について、次のような判断を示したうえ、これを肯定しました。

(裁判所の判断)

「労働基準法41条2号の趣旨は、管理監督者が労働者に対して「監督若しくは管理の地位にある者」であり、経営者と一体的な立場にある者であるから、労働時間等に関する規定の適用を除外されても、労働基準法1条、37条1項の趣旨に反しないということにあると解される。」

「そうすると、管理監督者に当たるか否かは、その職務の名称にとらわれず、(a)職務内容、権限及び責任の重要性に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、(b)その勤務実態に照らし、法定労働時間の枠を超えて勤務する必要があり、その勤務実態が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か等、(c)給与(基本給、役付手当等)又は賃金の全体において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断する必要があるというべきである。」

「なお、前記(a)に関して『経営者と一体的な立場』 にあるというのは、担当する組織部分について、経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場にあることを意味するにとどまる。そうすると、当該労働者がその職務内容の点で、少なくともある部門全体の統括的な立場にあるか否かという観点からの検討を行えば足りるというべきである。」
(中略)

「職務内容、権限及び責任の重要性に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか」

「被告の職制規程・・・によれば、執行役員は、社長若しくは社長から委任された職務を担当する取締役又は常務執行役員の命を受け、所管する部若しくは工場又は室の業務執行方針を樹立し、所属管理者等を指揮して所管業務を執行すると定められている。そうすると、被告の職制では、執行役員は、所管する部若しくは工場又は室の長であることが認められる。」

「また、被告の人員一覧・・・によれば、従業員合計111名のうち、取締役と執行役員は合計9名しかいなかったことが認められる。」

「そして、前記第・・・記載のとおり、原告は、被告に入社した当初から執行役員に就任しており、品質保証室長や品質保証グループ等の所属管理者よりも上位にあったこと、医薬品担当部門の長の地位にあったことが認められる。また、令和3年5月29日以降は、品質保証部長代理の地位にあり、同部長と同等の権限を有していたこと、正医薬品製造管理者として、医薬品製造事業を統括する地位にあったことも認められる。」

「これらのことからすると、原告は、被告の品質保証部門において、全体の統括的な立場にあったものということができる。」

 しかし、控訴審裁判所は、次のとおり述べて、原告(控訴人)の管理監督者性を否定しました。

(裁判所の判断)

「被控訴人は、原審及び当審において、控訴人が品質保証部門又は品質保証部の最高責任者(長)であったと主張し、認定事実aのとおり、職制規程上、控訴人は、品質保証部門又は品質保証部の長として、業務管理上及び労務管理上の権限を有するはずの者として位置づけられていると考えられ、認定事実b及びcのとおり、業務管理の面では、品質保証部門又は品質保証部に所属する部下に対し、業務管理上の権限を行使して、業務を遂行していることが認められる。」

「しかし、控訴人の業務の遂行状況の実態を見ると、まず、控訴人が品質保証部門又は品質保証部に所属する従業員・・・に対し、労務管理上の何らかの権限を行使して労務管理に平素から当たっていたことを窺わせる状況は認められず、かえって、被控訴人の主張の状況と証拠・・・によれば、控訴人は、品質保証部門又は品質保証部において労務管理上の重要な役割を与えられておらず、その権限を有していなかったと推認せざるを得ないところであり、このような状況が入社から間もない間の過渡的なものであったことを認めるに足りる証拠もない。また、職制上とGMP組織上の控訴人の各職位に基づく権限を見ても、控訴人は、品質保証部門においては、職制上同位の職位のDが存在し、GMP組織上の職位はなく・・・、また、体制の見直し後の品質保証部においては、GMP組織上医薬品製造管理者(正)の職位にあった・・・が、Dは、医薬品製造管理者(副)、品質管理責任者の職位にあったばかりか、職制上上位の品質保証部長の職位にあったこと・・・が認められる。さらに、被控訴人が主張するC工場△号棟建築についての控訴人の役割・・・や、品質会議及び管理者会議への出席は、控訴人の一般的な管理職としての業務管理上の権限を基礎づけるにとどまり、控訴人が品質保証部門又は品質保証部の最高責任者(長)であったことを基礎づけるに足りるものではない。」

「そうすると、控訴人が品質保証部門又は品質保証部の最高責任者(長)であったと認めることはできず、被控訴人の上記主張は採用することができない。」

(中略)

「以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人は、経営者と一体的な立場にある者に当たると認めることはできず、労働基準法41条2号の管理監督者に当たるということはできない。」

3.正常な判断枠組みに是正された

 以上のとおり、高裁は通説的な見解に従い、労務管理上の権限(重要な役割)があるかという観点から管理監督者性の判断を進めました。

 独特の判断が広がることなく高裁で無事是正されたことは良かったと思います。