定年後再雇用された労働者には、解雇事由又は退職事由に該当しない限り、定年後再雇用の上限まで契約更新の合理的期待が認められるとされた例

1.定年後再雇用された労働者と合理的期待

 高年齢者雇用安定法に基づく定年後の継続雇用制度(高年齢者雇用安定法9条1項2号)は、有期労働契約を繰り返して行く形になっている例が多く見られます。

 この有期労働契約も、有期労働契約である以上、雇止め法理(労働契約法19条)の適用を受けることになります。言い換えると、契約更新に合理的期待が認められる場合、客観的合理的理由、社会通念上の相当性がなければ、使用者は契約更新を拒絶することができません。一般論として、定年後再雇用契約を結んだ労働者は、高年齢者雇用安定法9条が義務としている65歳に達するまでは、契約更新に合理的期待があるとされています。

 本日、考えてみたいのは、この合理的期待がどのような場合に消失するのかです。

 雇止め法理は、

① 合理的期待が認められるのか、

② 客観的合理的理由、社会通念上の相当性が認められるのか

という二段階審査の形をとっています。合理的期待の程度の強弱を議論した後、客観的合理的理由、社会通念上の程度を問うといったように、二つの要件を相関的に理解する見解や裁判例もありますが、それでも、合理的期待が存在しない場合には、第二段階目の審査に行くことなく、期間満了とともに当然に雇用が終了します。この場合、終了事由の合理性や相当性は問われません。

 このような構造を有しているため、有期の労働者を職場から排除するにあたり、使用者は、先ず、合理的期待を消しにかかってきます。軽微な非違行為を殊更に取り上げ、契約の不更新を予告するといった手法が典型です。

 しかし、解雇するに足りない事由を利用して、これを不更新予告と組み合わせることにより契約終了時の契約更新に向けた期待を消滅させるという手法には、解雇権濫用法理や雇止め法理の潜脱ではないかという疑問がありました。

 近時公刊された判例集に、こうした使用者側の手法の適否を考えるにあたり参考になる裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令7.5.30労働経済判例速報2598-41 森ビルゴルフリゾート事件です。

2.森ビルゴルフリゾート事件

 本件で被告になったのは、ゴルフ場の経営等を行う株式会社です。

 原告になったのは、ティーチングプロA級の資格保持者であり、被告との間で雇用契約を締結していた方です。

 本件の原告は60歳定年(令和5年1月13日)を迎えるにあたり、被告との間で期間2か月(令和5年1月14日~令和5年3月15日)の有期労働契約を締結しましたが、その際に交付された労働条件通知書には「契約更新はしない」と明記されていました。期間満了後、雇止めを受けたことから、定年後再雇用であるのに2か月で雇止めになるのはおかしいとして、その効力を争い、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 定年後に期間が極端に短い有期労働契約が結ばれた理由について、被告は、次のような主張をしました。

(被告の主張)

「本件契約は、原告が再就職活動をする期間とする目的で、継続雇用制度に基づかない任意の有期雇用契約(更新なし)を締結したものであり、被告の再雇用制度(本件就業規則14条2項2号)に基づく再雇用契約ではない。」

(中略)

「雇用期間が約2か月間となったのは、令和4年12月6日、原告に対し、継続雇用することはできない旨伝えたところ、原告が、定年退職後も一定期間は他の会社への就職活動をするための時間が必要であると申し入れたからである。この原告の申入れは、定年退職後の再雇用の申入れを撤回し、新たに定年退職前と同じ条件で数か月間勤務を継続することを申入れるものである。」

(中略)

「本件契約は一度も更新されたことがなく、期間も短い。本件労働条件通知書には、契約更新はしないと明示されており、被告が原告に対してその旨説明したが、原告は特段の異議を述べなかった。」

 本件では、不更新条項(文言)付きの労働条件通知書が交付されていたことから、合理的期待が失われてしまうのではないかが争点となりました。

 合理的期待が否定されないと判示されたことは昨日指摘したとおりですが、結論を導くにあたり、裁判所は、次のような規範を定立しました。

(裁判所の判断)

「高年法は、定年後の継続雇用者を事業場の労使協定によって選別・限定できることを認める旧高年法9条2項を削除し、経過措置による場合(高年法附則3条)を除き、事業主に対し、定年に達した者のうち継続雇用を希望する者全員を継続雇用することを義務付けた。そして、高年法9条3項に基づき定められた本件指針において、心身の故障のため業務の遂行に堪えないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。)に該当する場合には、継続雇用しないことができるとされ、継続雇用しないことについては、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められている。高年法は事業者の国に対する公法上の義務を定めたものと解されるが、このような高年法の定め及び本件指針の内容を踏まえると、使用者において定年後再雇用の継続雇用制度が採用されている場合、解雇事由又は退職事由に該当しない限り、定年退職日より前に再雇用の申出をした労働者には、定年による雇用契約終了後も雇用契約が継続(再雇用契約が成立)するものと期待することに合理的な理由があり、また、定年による雇用契約終了後に再雇用契約を締結した労働者には、定年後再雇用の上限まで契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があって、再雇用契約の締結又は更新を拒否することについて、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、これを拒否することはできないと解するのが相当である。」

3.解雇事由又は退職事由に該当しない限り合理的期待は失われないと読める

 昨日紹介したとおり、裁判所が、不更新条項(文言)付きの労働条件通知書について、更新の合理的期待を否定する方向に考慮すべき事情であることには留意する必要があります。

 しかし、裁判所の判示は、解雇事由又は退職事由に該当しない限り、合理的期待は失われないという読み方もできるように思います。本件は、合理的期待の消失が争われる事件に取り組むにあたり、実務上参考になります。