1.理由のない注意、指導、警告の争い方
事前に注意、指導、警告が行われていると、懲戒処分や解雇などの不利益処分が有効になりやすくなります。改善の機会が与えられたのに改善をしなかったという点で、制裁の必要性や非難可能性が強まるからです。
こうした傾向を意識してか、改善の機会を与えるというよりも、懲戒処分や解雇をする下地を作り上げることを目的としているとしか思えない、粗探し的、揚げ足取り的な注意、指導、警告が行われることがあります。こうした注意、指導、警告に対して、異議を唱えて行きたいと考える労働者は少なくありません。
しかし、単なる注意、指導、警告は、争うことが容易ではありません。
注意、指導、警告が無効であることの確認を求めようとしても、これらは具体的な不利益と結びついていないことが多く、訴えの利益(確認の利益)がないと理解されているからです。
確認請求が認められないとなると、残された方法は給付の訴え(損害賠償請求)になります。しかし、損害賠償請求についても、具体的な不利益と結びつかない注意、指導、警告に違法性や損害を認めることができるのかという問題があります。
このような状況のもと、近時公刊された判例集に、事実確認等の容易な調査すら実施せず、誤った事実に基づいて警告をしたことをパワーハラスメントだと判示し裁判例が掲載されていました。東京地判令5.12.7労働判例1336-62 TCL JAPAN ELECTRONICS事件です。
2.TCL JAPAN ELECTRONICS事件
本件で被告になったのは、中国系企業の日本法人で、アマゾンのECサイト等を通じて電気製品を販売していた株式会社です。
原告になったのは中国籍の女性で、被告の営業本部計画物流部で働いていた方です。上司からパワハラを受け、適応障害を発症して休職になったと主張し、休職期間満了による自然退職の効力を争うとともに、慰謝料の支払等を請求する訴訟を提起したのが本件です。
原告が主張したパワハラは多岐に渡りますが、その中の一つに、
物流業界に関する書籍を読んでいたのに、課長から業務の無関係の本を読んでいたと注意されたうえ、警告を受けた、
というものがありました。
これについて、裁判所は、次のとおり述べて、パワハラの成立を認めました。
(裁判所の判断)
「認定事実・・・によれば、Eは、原告が勤務時間中に読んでいた本が業務に関連するものであったにもかかわらず、これを業務と無関係の本であると誤認したうえ、このような事実誤認を前提として、原告に対し、就業規則違反を理由とする警告を行ったばかりか、当該警告前に原告に対する事実確認すら実施せず、また、原告から業務に関連する本であったと反論された後においても、業務に関連する本であっても上司の了承を得ずに勤務時間中に読むことはできないと付言しつつ、確たる根拠を提示することなく原告の反論を虚偽であると断定したうえ、虚偽の反論をすると更に重い罰則を適用する場合があるとの警告を追加したと認めることができる。このようなEの一連の行為は、原告に対する事実確認等の容易な調査すら実施せず、誤った事実に基づき就業規則違反を理由とする警告をしたうえ、確たる根拠もなく原告の反論を虚偽と断定し、更に重い罰則の適用を警告したという点で著しく相当性を欠き、業務の適正な範囲を超えて原告に精神的苦痛を与える行為に当たるものであったと認められる。」
「したがって、Eの当該一連の行為は、パワーハラスメント行為に該当するといえる。」
3.パワハラを理由とする損害賠償請求で理由のない注意、指導、警告を争う方法
一般論として、パワーハラスメントへの該当性が認められることと、不法行為責任や債務不履行責任の成立が認められることとは同義ではありません。
パワーハラスメントは成立するけれども、不法行為といえるほどの強度の違法性は認められない、金銭賠償を要するほどの損害(精神的苦痛)が発生したとはいえないという領域があるからです。
しかし、本件はパワーハラスメントを請求原因とする損害賠償請求との関係で「パワハラだ」と言われているわけですので、本件の裁判所は所掲の行為を慰謝料を発生させる違法行為だと判断したと言っても良いのではないかと思います。
事実確認の調査を行わなかったことが指弾されている点においても、誤った事実に基づき警告をしたことが問題視されている点においても、裁判所の判断には、高い汎用性が認められます。懲戒処分や解雇の前哨戦として行われる注意、指導、警告の効力を問題視するにあたり、パワーハラスメントを理由とする慰謝料請求訴訟の提起は、有力な選択肢の一つとなり得るように思われます。
