1.多数の解雇事由が掲げられる事件
解雇された労働者を代理して、使用者に対し、解雇理由が何なのかを問い質すと、多数の事由が列挙されて返ってくることが少なくありません。このように多数の事実が列挙されてくる事案では、本質的な解雇事由と、そうでもない解雇事由とに仕分けをして行くことが必要になります。
この「仕分け」を行うにあたり、有益な視点を提供する裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令7.2.27労働判例ジャーナル162-44ハーネス・ライフ事件です。
2.ハーネス・ライフ事件
本件で被告になったのは、
損害保険代理業等を営む株式会社(被告会社)
被告会社の代表取締役B(被告B)
の二名です。
原告になったのは、被告会社と労働契約を締結し、営業に従事していた方です。被告会社から令和5年6月18日付けで普通解雇されたことを受け、地位の確認を求めるとともに、被告Bの言動を理由として慰謝料を請求したのが本件です。
本件では被告から、兼業禁止違反、勤務態度不良(出社拒否、人事面談拒否、無断欠勤、就労拒否)、協調性の欠如など多数の解雇事由が主張されました。
しかし、裁判所は、次のとおり述べて、解雇の効力を否定しました。
(裁判所の判断)
原告には、前記(2)イ(イ)及び(ウ)の勤務態度不良行為があったほか、前記(2)ウの業務命令違反行為があったことが認められ、これらは原告が指摘する本件就業規則35条各号の解雇事由に該当し得る。しかしながら、前記(2)イ(イ)及び(ウ)の勤務態度不良行為に関しては、前記1の認定事実(8)及び(9)のとおり、原告は、被告会社に対して反省の弁を述べた始末書を提出し、被告Bも、原告から上記各始末書の提出を受けた後の令和5年5月1日の時点では、原告に対し、また昔のように一緒に仕事をしようといった趣旨の話をしていたことに照らすと、本件解雇の理由として重要視すべきものではない。また、前記(2)ウの業務違反行為に関しては、被告会社として一番重要視していた解雇理由であるものの(被告B本人)、原告に対する運転禁止の業務命令の理由を記載した業務命令書(甲12)には、原告の服用薬の影響を理由とする旨の記載はなく、本件全証拠を検討しても、被告会社が同業務命令の理由が上記服用薬の影響であることを説明したことは認められず、さらに、前記1の認定事実(11)のとおり、被告会社は、原告が上記命令に違反して自動車の運転を継続していたことに対して注意指導をしたことはなかったことからすると、上記運転禁止の業務命令違反をもって、直ちに、解雇とすることは、不合理であって相当とはいえない。」
「以上によれば、本件解雇は、客観的合理的な理由がなく、社会通念上も相当とはいえず、解雇権を濫用したものとして無効である。」
3.宥恕するような言動はなかったか?
本件で興味深く思ったのは、特定の時点で「また昔のように一緒に仕事をしよう」といった言動をとっていたことを捉え、それ以前の行為を解雇理由として重要視すべきものではないと判示している部分です。
何が本質的な解雇事由で、何がそうでもない解雇事由なのかは、争点整理段階で揉めることも多く、裁判所の判断は実務上参考になります。
