1.解雇に向かうプロセス
例外もなくはありませんが、ある日、唐突に解雇が告知されることはあまりありません。概ねの解雇は、会社と労働者との関係が徐々に悪化して行った後、その延長線上で告知されます。
この関係が悪化して行くプロセスの中で、しばしば労働者から会社代表者に対する直談判が行われます。酷い処遇をする理由を教えて欲しいといったようにです。
代表者との直接交渉は、労働者側から見ると、事態を打開すべく、一縷の望みに賭けて行われます。
しかし、会社側から見ると、これは従業員としての矩を超える許しがたい行為に映るらしく、しばしば解雇理由の一つとして主張されます。
それでは、この代表者との労働条件をめぐる直接交渉は、解雇理由に該当するのでしょうか? ここ数日紹介している、東京地判令7.3.13労働判例ジャーナル162-30 コロナワークス事件は、この問題に対しても参考になる判断を示しています。
2.コロナワークス事件
本件で被告になったのは、コンピュータソフトウェアの企画、開発、販売、保守等を目的とする株式会社です。
原告になったのは、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し、ソフトウェア開発業務に従事していた方です。懲戒解雇とする旨の記載のある通知書を送付されたことを受け、地位の確認等を求める訴えを提起したのが本件です。
本件では十二の解雇事由が主張されましたが、その中の一つに、被告代表者に昇給しない理由と根拠を明らかにするように求めたり、被告が説明した理由が不十分であると食い下がったりしたことがありました。
その評価について、裁判所は、次のとおり述べて、これを解雇事由に当たるとは言い難いと判示しました。
(裁判所の判断)
「原告は、令和3年2月8日から同年7月15日までの間、q6案件に従事した。被告代表者は、同年3月31日、原告に対し、同年4月以降の賃金を現状維持とすること等を記載したメールを送信した。」
「原告と被告との間で作成された本件労働契約に係る契約書(以下『本件契約書』という。)には、昇給について、『年1回(4月) ただし会社の業績又は個人の成績により改定しない場合がある。』との記載があったところ、原告は、令和3年4月3日、被告代表者に対し、昇給をしないのであれば、上記記載を踏まえて、その理由と根拠を明らかにするよう求める内容のメールを送信した。被告代表者は、会社の業績が不振であること及び原告がq2案件においてリーダーシップを発揮できなかったことにより、従業員全員について昇給をしないこととした旨回答したが、原告は、被告代表者に対し、新たに従業員を2名雇用していることなどを指摘して、昇給しない理由として不十分ではないかという記載をしたメールを返信した。・・・」
(中略)
「認定事実・・・によれば、原告が、令和3年4月、被告代表者に対し、昇給をしない理由と根拠を明らかにするよう求める内容のメールや被告が説明した理由が不十分であるとする内容のメールを送信した事実が認められるものの、本件契約書・・・には、昇給について、『年1回(4月) ただし会社の業績又は個人の成績により改定しない場合がある。』との記載があったことに照らすと、原告が同月初旬に昇給しない理由の説明を求めたことは不合理とはいえず、そもそも労働者が使用者に対して労働条件等について質問し、又は自分の意見を述べることが、解雇事由に当たるとはいい難いことから、被告の主張は失当というほかない。」
3.労働条件等に質問し、意見を述べることは解雇事由にならない
質問や意見表明の仕方の適否という問題はあるでしょうが、会社の代表者に対し、労働条件等に対して質問をすること自体や、意見を述べること自体は、特に問題があると考えられているわけではありません。
裁判所の判断は、使用者側の典型的な主張に対して反論して行くにあたり、実務上参考になります。
