58歳で退職しなければ65歳までの再雇用制度の適用を受けられない仕組みは高年法に反しないのか?

1.高年法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)

 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)は、労働者の65歳までの雇用を確保するため、次のような規定を設けています。

(高年法8条本文)

「事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に『定年』という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。」

(高年法9条1項)

定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下『高年齢者雇用確保措置』という。)のいずれかを講じなければならない。

一 当該定年の引上げ

二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入

三 当該定年の定めの廃止」

 要するに、企業は60歳以下の定年年齢を定めることはできないし、定年制を維持する場合には、定年年齢を65歳まで引き上げるか、65歳まで働けるように継続雇用制度を整備しなければならないということです。

 それでは、定年年齢を60歳としたうえ、

再雇用制度の適用を受けるためには58歳で退職しなければならない、

58歳で退職しなければ60歳で定年退職する、

という仕組みを設けることは法的に許容されるのでしょうか?

 近時公刊された判例集に、この問題を扱った裁判例が掲載されていました。東京地判令7.3.27労働判例ジャーナル161-1 成田国際空港事件です。

2.成田国際空港事件

 本件で被告になったのは、成田空港の設置及び管理等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し、事務職として働いていた方です。被告には、

定年年齢を60歳とする、

65歳までの再雇用制度の適用を受けるためには58歳で退職しなければならない、

58歳で退職しなければ60歳で定年退職する、

という仕組みを設けていました。

 原告の方は58歳までに退職するという選択をとらず、60歳で定年退職したものと扱われました。これに対し、上記のような仕組みは高年法に反するとして、地位確認等を請求する訴えを提起したのが本件です。

 本件の原告は、次のとおり述べて、上述の仕組みは違法だと主張しました。

(原告の主張)

「高年法8条は、定年を定める場合には60歳を下回ってはならない旨を定め、高年法9条1項2号は、継続雇用制度を『現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度』と定めている。これらの規定からすると、同号の継続雇用制度は、現に定年まで雇用されている労働者が希望するときはその定年退職後も引き続き雇用する制度であることを要するものと解される。」

「ところが、被告における定年制及び本件再雇用制度では、65歳までの雇用継続を希望しようとすれば定年前の58歳で退職する必要があり、他方、これを避けて60歳まで雇用されれば定年退職となって継続雇用がされないのであるから、65歳までの継続雇用を希望しようとすれば定年前である58歳での退職を余儀なくされることになる。これは、実質的には58歳を定年とするものであり、全体として高年法8条及び9条に違反するといえる。」

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、原告の主張を排斥しました。結論としても、請求を却下ないし棄却しています。

(裁判所の判断)

「原告は、高年法8条及び9条の規定内容からすると、高年法9条1項2号の継続雇用制度は、現に定年まで雇用されている労働者が希望すればその定年退職後も引き続き雇用される制度であることを要するとした上で、被告における定年制及び本件再雇用制度では65歳までの継続雇用を希望する場合は定年前の58歳で退職せざるを得ないから、実質的には58歳を定年とするものであり、全体として高年法8条及び9条に反する旨を主張する。」

「しかしながら、高年法における『定年』とは、労働者が所定の年齢に達したことを理由として自動的に又は解雇の意思表示によってその地位を失わせる制度であると解されるところ、被告の従業員は本件再雇用制度を利用せずに60歳で定年退職することを選択することもできるから、本件再雇用制度を利用する場合に58歳で退職する必要があることをもって、被告が定年を58歳と定めたとはいえない。」

「また、以下のとおり、高年法9条1項2号の継続雇用制度が現に定年まで雇用されている労働者が希望すればその定年退職後も引き続き雇用される制度であることを要するともいえない。」

「高年法8条が、事業主が定年の定めをする場合には、当該定年は『60歳を下回ることができない。』として同条の予定する定年制の内容を一義的に規定しているのに対し、高年法9条1項2号の継続雇用制度については、条文の文言上、制度の内容を一義的に規定せず、多様な制度を含み得るものとなっている。また、高年法9条の改正の基礎となった労働政策審議会の建議においても、年金支給開始年齢までの雇用の確保を進める一方で、経済社会の構造変化等が進む中で厳しい状況が続く企業の経営環境等を考慮すれば65歳までの雇用確保の方法については個々の企業の実情に応じた対応が取れるようにするべきである旨が指摘されている・・・。これらのことからすれば、高年法9条1項は、同項2号の継続雇用制度の具体的な内容については、65歳までの安定した雇用の確保という同項の目的(同項柱書)に反しない限り、各事業主がその実情等に応じて定めるところに委ねる趣旨であると解される。そして,定年退職後に引き続いて雇用される制度としなければ65歳までの安定した雇用の確保という同項の目的に反するということはできない。そうすると、同項2号の継続雇用制度が、現に定年まで雇用されている労働者が希望するときはその定年退職後に引き続き雇用される制度であることを要するということはできない。」

「以上によれば、本件再雇用制度を利用する場合に58歳で退職する必要があることをもって、実質的に58歳を定年と定めたものとはいえず、高年法8条及び9条に反するということはできない。」

3.なぜ高年法違反を構成しないのだろうか?

 以上のとおり、裁判所は、被告が設けていた仕組みは高年法には違反しないと判示しました。

 しかし、裁判所の論理は形式的にすぎるのではないかと思います。率直に言って、なぜ、これが高年法の潜脱として捉えられないのかは良く分かりません。これが許されるのであれば、事実上の50歳定年、40歳定年も許容されそうな気がします。退職後に再雇用する時の労働条件を極端に低く設定すれば、大方の職員は止めることが想定されるからです。

 実務を行うにあたり、こうした裁判例が出現したこと自体は覚えておく必要がありますが、その判断の妥当性は強く疑問に思います。