労働基準法の定めに従って休憩時間を付与しなかったことを理由とする慰謝料請求が認められた例

1.休憩時間の付与

 労働基準法34条1項は、

「使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。」

と規定しています。労働基準法施行規則32条で一定の例外が認められてはいますが、使用者は労働基準法34条1項に基づいて、労働者に休憩を付与する義務を負います。

 それでは、労働基準法の定めに従って休憩を付与してもらえなかった労働者は、使用者に対し、慰謝料を請求することができるのでしょうか?

 この問題は当然だと言えるほど単純な問題ではありません。

 過去、長時間労働を理由とする慰謝料請求が認められた裁判例を紹介したことがありますが、

精神疾患の発症がなくても長時間労働は労働者の人格的利益を侵害する – 弁護士 師子角允彬のブログ

長時間労働を理由とする慰謝料請求-精神疾患の発症なし、月30~50時間の水準の残業でも可能とされた例 – 弁護士 師子角允彬のブログ

こうした事案は例外であり、一般論として長時間労働のみを理由とする慰謝料請求は認められにくい傾向にあります(ただし、未払の残業代があれば、それは当然請求できます)。

 近時公刊された判例集に、労働基準法上の休憩付与義務違反を理由とする慰謝料請求が認められた裁判例が掲載されていました。東京地判令7.4.22労働判例1332-15 ジェットスター・ジャパン事件です。

2.ジェットスター・ジャパン事件

 本件で被告になったのは、定期航空運送事業等を行う株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で労働契約を締結し、客室乗務員として勤務している方複数名です。

休憩時間が付与されない勤務を命じられ、これに従事したことにより精神的苦痛を受けたとして慰謝料を請求するとともに、

人格権に基づいて休憩時間が付与されない勤務の差止めを請求した

のが本件です。

 本件において被告は労働基準法施行規則32条に基づく例外の適用を主張しましたが、裁判所はこの主張を排斥しました。

 そのうえで、次のとおり述べて、原告らによる慰謝料請求を認めました。

(裁判所の判断)

「労基規則32条2項の適用によって、休憩時間を付与する必要はない旨の被告の主張は採用することができない。」

「認定事実・・・によれば、原告35を除く原告らは、令和元年12月及び令和3年12月に前記・・・の勤務を少なくとも各1回ずつ(なお、原告7らは、法定休憩時間到達勤務を行った月において、同勤務以外に前記・・・に該当する勤務を行っている。)、原告35は、令和元年12月に前記・・・の勤務を、令和4年7月に前記・・・の勤務をしていることが認められるから、被告は、原告35以外の原告について、令和元年12月及び令和3年12月に、少なくとも各1回ずつ、原告35について、令和元年12月及び令和4年7月に、少なくとも各1回ずつ、労基法34条1項に違反する勤務を命じ、これに従事させたということができる。

そして、労基法34条は、ある程度労働時間が継続した場合に蓄積される労働者の心身の疲労を回復させ、その健康を維持するため、労働時間の途中に休憩時間を与えるべきことを規定したものと解されるところ、被告が原告らに対して同条に違反する勤務を命じたことは、労働者の健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)に違反するというべきであるから、被告は、これにより原告らに生じた損害について賠償する責任を負う。

・損害額について

前記・・・のとおり、被告は、原告らに対し、少なくとも複数回にわたって労基法34条1項に違反する勤務を命じており、原告らは、同項所定の時間数の休憩時間をとることのできない労働を強いられていたことからすると、被告の安全配慮義務違反により原告らは精神的苦痛を被ったものと認められ、原告らの勤務の内容等の事情を総合考慮すれば、その精神的苦痛を慰謝するのに相当な額は各原告につき10万円とするのが相当である。

本件訴訟の難易度,審理の経過,認容額その他本件において認められる諸般の事情を考慮すると,被告の安全配慮義務違反と相当因果関係のある弁護士費用相当額は,各原告につき1万円とするのが相当である。

「なお、原告は、選択的に不法行為に基づく損害賠償請求権を主張するが、被告の違法行為及び損害として主張するところは、債務不履行に基づく主張と同一であるから、上記・・・で認められる限度を超えて認容すべき部分はない。」

3.慰謝料請求が認められた

 長時間労働で慰謝料請求が認められにくいことからすると、休憩付与義務の違反についても慰謝料は認められにくいという帰結になりそうではあります。

 しかし、裁判所は、慰謝料請求を認めました。10万円とはいえ、これは画期的な判断だと思います。安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求で(不法行為を理由とする法律構成によらず)慰謝料請求が認められている点と共に、裁判所の判断は実務上参考になります。