「こんなミス新入社員でもしない」との言葉がキャリアを否定する強い叱責に当たるとされた例

1.よくある叱責の言葉

 業界毎、会社毎にやっていることは様々でも、上司が部下に使う叱責の言葉は、割と似たり寄ったりです。「代わりはいくらでもいる」「向いていないのではないか」「こんなミス新入社員でもしない」といったような言葉が典型です。

 ある発言が受け手にどのような心理的な負荷を生じさせるのかは、発言時の状況、発話者間の関係性、語調など様々な要素が関係します。そのため、発言の内容から、それによって生じる心理的負荷(ストレス)を演繹的に評価することはできません。

 ただ、そうはいっても、典型的な叱責文言が裁判所でどのように評価されているのかを確認することは、事件の筋読みをするにあたり重要な意味を持ちます。

 近時公刊された判例集に「こんなミス新入社員でもしない」という言葉を「強い叱責に当たる」と評価し、こうした言動を含む上司とのトラブルの心理的負荷を「中」と判定した裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令6.12.12労働経済判例速報2586-7 三田労基署長事件です。

2.三田労基署長事件

 本件は労災の不支給決定に対する取消訴訟です。

 原告になったのは、衛生陶器等建築設備機器の製造・販売等の事業を営む株式会社(株式会社A)に勤めていた方(亡P5)の遺族の方です。亡P5が自殺したのは、長時間労働や連続勤務、上司からのパワーハラスメントによるストレスで鬱病を発症したからであるとして、三田労働基準監督署長に対し、労災(遺族補償給付、葬祭料、労災就学等援護被)を請求しました。これに対し、三田労働基準監督署長から不支給処分を受けたことから、当該不支給処分の取消を求める訴えを提起したのが本件です。

 本件では心理的負荷を生じさせた要因として、複数の具体的出来事が主張されましたが、その中に冒頭に掲げた「こんなミス新入社員でもしない」とする上司からの叱責がありました。

 この出来事について、裁判所は、次のとおり述べて心理的負荷を「中」と評価しました。なお、本件では総合評価により、結論として強い心理的負荷があったとされ、原告の請求が認められています。

(裁判所の判断)

「認定事実・・・及び証拠・・・によれば、亡P5は、平成26年10月8日、B事業所を退室(18時46分)した直後である18時50分、原告に対し、P7リーダーから『こんなミス新入社員でもしない』旨の激しい叱責を受けた旨のラインメッセージ(以下『本件メッセージ』という。)を送信するとともに、帰宅後、出張で利用する航空券につき、正当な理由があって安いパック旅行の料金ではなく正規料金で購入したところ、P7リーダーから正規料金で購入したことを強く怒られた、正規料金で購入した理由を説明することもできなかった、と話したことが認められる。」

「この点につき、P7リーダーは、労働基準監督官による聴取及び証人尋問において、『こんなミス新入社員でもしない』との発言については記憶がなく、そのような言い方はしていなかったはずだとしつつ、『パック旅行は早めに予約を取らないと取れなくなることがありますので、私は部下に早めに出張スケジュールを決めて、早めに予約を取るようにという話をしていました。しかし、パック旅行が取れず、割高な航空券等を購入することになったケースもありました。そういった場合には、私は「早くスケジュール組んで決めるよう言ったじゃん」「次回はちゃんとやってくれ」という指導をすることがありました。』と述べていること・・・、P14は、同聴取において『当社には全国に8社販売子会社があり、販売子会社に出張する際には旅行会社のパックを使うのですが、P5さんが出張した際の旅費が割高だったようで、P7さんがなぜ高額になったのか理由を聞いていました。この時のP7さんとP5さんのやり取りは、トラブルというほどではなかったと思います。P5さんはP7さんに叱られているように見えましたが、P7さんが大声を出したり、激怒して厳しく叱っているような様子はありませんでした。』『「こんなミス新入社員でもしない」という発言をするのを聞いたことはありません。さすがにそういうことを聞けば私もびっくりすると思いますが、私が知っている範囲ではそういったことはありませんでした。』と述べていること・・・が、それぞれ認められる。」

「これらの事実によれば、P7リーダーは、平成26年10月8日、亡P5に対し、亡P5が出張で利用する航空券を正規料金で購入したことについて、他の従業員の面前で、早めに出張の予定を組んで割安なパック旅行を利用して航空券を購入できなかった点を叱責したことが認められる。また、亡P5が、【1】平成26年9月9日、同年10月8日、同年12月3日、同月17日の4日、P7リーダーから叱責を受けた旨のラインメッセージを送信しているところ、このうち本件メッセージのみ『こんなミス新入社員でもしない』との叱責の言葉を具体的に記載していること・・・、【2】前記のとおり、オフィスを退勤して5分以内に本件メッセージを送信していることからすれば、本件メッセージは、亡P5が、職場で体験した事実を、勤務終了後直ちに原告に報告したものであると認められ、その内容を信用することができる。そうすると、P7リーダー及びP14がこのような言葉による叱責の記憶がない旨述べていることを勘案しても、P7リーダーは、『こんなミス新入社員でもしない』と言って亡P5を叱責したと認めるのが相当である。

P7リーダーによる上記の叱責は、業務指導の範囲内であるものの、『新入社員でもしない』との言葉は、亡P5の10年超のキャリアを否定するとも捉えられかねない厳しいものであり、強い叱責に当たる。また、認定事実・・・によれば、亡P5は、P7リーダーから、上記叱責以外にも、平成26年9月9日の前後、同年12月3日、同月17日、業務指導の範囲内である指導・叱責を受けていた事実が認められる。」

「前記・・・のとおり、亡P5は常にP7リーダーとペアで業務を実施しており、このような場合、他の従業員に相談する、あるいは他の従業員が介入してフォローするなどの機会が得られにくいといえ、心理的負荷は増大する傾向にあるといえる。」

これらを認定基準に即してみると、平成26年9月上旬頃から同年12月中旬にかけて生じたP7リーダーの亡P5に対する指導・叱責は、別表1項目24『上司とのトラブルがあった』に当たり、その心理的負荷の強度は『中』を下らない。

3.強い叱責であると評価された

 上述のとおり、裁判所は「こんなミス新入社員でもしない」との叱責を「強い叱責」だと評価しました。相手方が否認する中、ラインメッセージが手掛かりとなって事実認定に至っている点も含め、裁判所の判断は、実務上参考になります。