1.罵倒語が悪いのか、衆目に晒すのが悪いのか?
令和2年厚生労働省告示第5号『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』は、パワーハラスメントを六類型に整理しています。身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害の六つです。
このうち、精神的な攻撃の例として、上記指針は、
「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。」
「相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること。」
を掲げています。この例からも分かるとおり、
罵倒・叱責+衆目に晒す
の二つが組み合わさった時にパワーハラスメント(パワハラ)が成立することに疑いを容れる余地はありません。
それでは、罵倒や叱責を伴わない晒し行為はどうでしょうか?
ここ数日ご紹介している、函館地判令6.3.27労働判例1330-74 JR北海道(パワハラ)事件は、この問題を考えるうえでも参考になります。
2.JR北海道(パワハラ)事件
本件で被告になったのは、旅客鉄道事業等を目的とする株式会社です。
原告になったのは、被告に採用され、函館新幹線工務所総務に異動し、A所長やB助役のもとで勤務していた方です。上司らによるハラスメント行為により適応障害を発症するなどしたとして、債務不履行(職場環境配慮義務違反ないし安全配慮義務違反)に基づき損害賠償を請求したのが本件です。
本件の原告は多数の行為を問題視しましたが、その中の一つに、次のようなものがありました。
(原告の主張)
「原告が、工務所で行われる安全祈願のための勤務変更に際し、誤って氏名欄に『祈願』と記入した勤務変更記録簿をB助役に提出してしまったところ、B助役は、同記録簿を総務の書棚にマグネットで掲示した。」
裁判所は、上記行為について、次のとおり述べて、不法行為の成立を認めました。
(裁判所の判断)
「9の行為(上記行為 括弧内筆者)は、当事者間に争いがない。」
「9の行為は、原告が誤記入をした勤務変更記録簿を半ば必然的に他の従業員の目に触れさせるものといえる・・・。前記原告の誤記入は、氏名を記入すべき欄に勤務変更の理由を記載したというものであって、容易な修正により業務への支障を回避できるものであるし、単なる注意不足という以上の理由や経緯があるものとも考え難く、殊更に指導が必要なものとは認められないのに、敢えて前記のように原告の誤りを衆目に晒したのであるから、仮にこれが業務指導の一環としてされたとしても、相当性を大きく逸脱し、違法と評価せざるを得ない。」
「この点につき、被告は、前記行為には原告を中傷したり見せしめにしたりする意図はなく、業務上必要は指導の範囲内である旨主張するが、前記説示に照らして採用できない。」
「したがって、9の行為は業務指導の範囲を超えた違法なものであるから不法行為を構成する」
3.必要性、相当性なし
以上のとおり、裁判所は晒し行為には必要性がないし、業務指導としての相当性もないため違法だと判示しました。
日々、ハラスメントに関する相談を受けていると、指針の例に書いてあるほど酷いことをしないとハラスメントにはならないと反対解釈している人が多いのではないかと思うことがあります。
しかし、そのようなことはなく、明らかに必要性に欠ける行為(晒し行為)は、別段、罵倒や叱責が伴っていなくても普通に違法性が認められます。ハラスメント被害を受けている労働者としても、「指針のレベルに達するほど酷いことをされているわけではないから・・・」と諦める必要性はありません。
裁判所の判断は、晒し行為を問題視して行くにあたり、実務上参考になります。
