賃金の支払がない状況下において、金銭の領得行為を理由とする懲戒解雇が否定された例

1.金銭的不正行為を理由とする解雇

 労働契約法16条は、

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

と規定しています。客観的合理的理由、社会通念上の相当性の有無は、厳格に審査されるため、そう簡単に解雇権の行使が有効になることはありません。

 しかし、比較的緩やかに解雇の効力が認められる場合も、ないわけではありません。その一つが、金銭的な不正行為を理由とする場合です。「金銭的な不法行為の事例では、額の多寡を問わず懲戒解雇のような重大な処分であっても有効性は肯定されやすい」と理解されています(第二東京弁護士会労働問題検討委員会『労働事件ハンドブック』〔労働開発研究会、改訂版、令5〕279頁参照)。

 このような状況のもと、近時公刊された判例集に、金銭の領得行為を理由とする懲戒解雇の効力が否定された裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、大津地判令7.1.17労働判例ジャーナル159-52 圓満院事件です。

2.圓満院事件

 本件で被告になったのは、宗教法人です。

 原告になったのは、被告と雇用契約を締結し、僧侶として働いていた方2名です(原告A、原告B)。

平成29年2月1日に普通解雇の意思表示がなされ、

これに対して原告らが解雇無効を主張して地位確認等を求める訴えを提起したところ、

令和元年10月3日に地裁で原告らの地位確認等請求を認容する判決が言い渡されました。

 その後、被告側が控訴、上告したため、結局、一審勝訴判決が確定したのは、

令和3年2月18日

になりました。

 しかし、復職に向けた協議ができず、出勤できないままでいたところ、

令和3年3月9日、被告は臨時役員会議を開催し、原告らが自己都合退職したものとみなす決議を行いました。

 その後、原告らが改めて地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 本件訴訟の継続中、被告は、原告らが無断法要を繰り返したことや、他寺院で勤務を続けていたことを理由に改めて懲戒解雇や普通解雇を行いました。

 本日、焦点を当てたいのは、解雇の効力についてです。

 原告Aは被告の僧侶として葬儀を多数行い、報酬を受領しながら、被告に報告を行っていませんでした。本件では、これが懲戒解雇事由と定める就業規則76条(3)に規定されている「職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等により不当な金員を受け、若しくは求め、又は供応を受けたとき」に該当するとして解雇権が行使されました。

 裁判所は、次のとおり述べて、原告Aに対する懲戒解雇の効力を否定しました(ただし、普通解雇としては有効)。

(裁判所の判断)

「上記・・・の認定事実によれば、原告Aは、被告の僧侶として葬儀を多数行い、その報酬を受領し、その旨を被告には報告していないのであるから、これらは、就業規則76条(3)所定の懲戒解雇事由に該当するというべきである。他方、被告において、前訴確定判決において命じられた未払賃金の支払の必要がないとの態度を示し、実際にも任意の履行に応じず、差押えによって一部が満足されたにすぎない。」

「これらの事実及び事情を総合考慮すると、原告Aにおいて懲戒解雇事由に当たる上記行為を繰り返していることからして、就業規則54条(6)による普通解雇としては、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であると認めることができるものの、他方、被告において、前訴において確定している賃金支払義務についてその履行を拒んできた状況下においては、懲戒解雇としては、社会通念上相当であると認められないものであって、これを無効というべきである。」

「したがって、原告Aに対する懲戒解雇は無効であり、普通解雇は有効である。」

3.使用者側の帰責性が強ければ懲戒権行使が否定される

 上述のとおり、裁判所は懲戒解雇事由該当性こそ認めたものの、懲戒解雇権の行使の相当性を否定しました。

 労働者が勤務先の名前で仕事をとって無断で報酬を受領していたとしても、使用者が判決で命じられた賃金も支払わず、復職も拒否するといった事情のもとでは、制裁として解雇する(懲戒解雇する)のは不適切ということなのだと思われます。

 普通解雇は有効とされており、やはり金銭の領得行為を理由とする解雇の効力は労働者に厳しい判断がなされがちだなとは思いますが、裁判所の判断は、懲戒解雇権行使の在り方を考えるにたり、実務上参考になります。