業務用のメールアドレスを使って弁護士と民事裁判に係るやりとりをする危険性

1.業務用の機器を利用することの危険性

 在職中に勤務先と争うにあたり、事件に関する連絡に業務用端末・業務用メールアドレスを利用することの危険性は、ある程度想像できるのではないかと思います。業務用端末にしても業務用メールアドレスにしても、勤務先で管理している設備であり、やりとりの内容が筒抜けになる可能性があります。実際、東京高判令元.11.28労働判例ジャーナル94-1ジャパンビジネスラボ事件では、

「一審原告(労働者 括弧内筆者)が業務用として使用していた上記パソコンの『ゴミ箱』から削除されたメールを復元するなどしたところ、・・・就業時間内に一審原告が本件組合又は弁護士らに相談する内容を下書きしたメール・・・や、マスコミ関係者とやり取りしたメール・・・が発見された。」

との事実が認定されており、使用者側が労働者の業務用端末の調査を行っていたことが明らかになっています。

 それでは、勤務先を相手方としない別口の係争との関係で、業務用端末や業務用メールアドレスを利用することはどうでしょうか?

 結論から言うと、これも控えておいた方が賢明です。

 何か問題が起きると、業務用端末は調査される可能性は高く、業務用の機器の私的利用だとして懲戒事由として付加・追加される可能性があるからです。近時公刊された判例集にも、そのことがうかがえる裁判例が掲載されていました。東京地判令6.11.14労働判例ジャーナル158-40東京都公営企業管理者水道局長事件です。

2.東京都公営企業管理者水道局長事件

 本件で被告になったのは、普通地方公共団体である東京都です。

 原告になったのは、東京都水道局に勤めていた方です。ストーカー行為等を非違行為とする停職6月の懲戒処分を受けたことから、その取消を求めて出訴したのが本件です。

 本件ではストーカー行為も含め、五つの非違行為が指摘されているのですが、目を引かれたのは、そのうち三番目の非違行為・非違行為〔3〕です。

 裁判所は、非違行為〔3〕の懲戒事由該当性について、次のような判断を行いました。なお、結論として、本件の原告の請求は棄却されています。

(裁判所の判断)

「掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成29年10月19日から令和3年4月23日までの間に、業務用メールアドレスを用いて、自らが関係する民事裁判に係る弁護士とのやり取りや私用メールアドレスからの転送といった、業務とは無関係の私用メールを受信(合計175通)ないし送信(合計22通。勤務時間中に送信されたものも含まれている。)したり、業務とは関係のない企業からのダイレクトメール等のジャンクメール5998通を受信したりしたこと(乙18~24)、病気休暇中であった令和2年8月9日には、被告庁舎内に侵入し、同日午前2時から午前3時30分頃までの間に、業務とは無関係のメール5通を業務用メールアドレスから使用メールアドレスへと送信したこと(乙18、24、25)、業務用パソコンに上記裁判に係る資料のデータを保存したり、私的な内容証明郵便を送付するために業務用封筒を使用したりしたことが認められ(乙15[2~9])、本件非違行為〔3〕の事実が認められる。

「そして、本件非違行為〔3〕は、『職場のコンピュータを職務外の目的で使用』(本件指針第5の1(17)。別紙3(2)イ)するものであって、業務以外の目的での電子メールアドレス等の使用等を禁止する旨の規定(東京都サイバーセキュリティ対策基準2.8.2(1))に反するから、地方公務員法32条、33条及び35条に違反し、同法29条1項1号ないし3号に該当する。」

3.職場との緊張関係が生じた時に揚げ足を取られる

 平時は一々職員の業務用端末の使用状況をモニタリングしていない勤務先が少なくありませんが、何か問題が生じると業務用端末は調査対象となると思っておいた方がいいように思います。本件の原告の方はストーカー行為規制法違反で逮捕されていますが(示談後不起訴)、おそらく、ここから懲戒処分を行うための調査が行われ、ある程度の重さを持った懲戒処分を正当化するために、過去の業務用メールアドレスの私的使用が持って来られたのではないかと思われます。

 一旦、職場との関係が緊張すると、問題視されていなかった業務用設備の私的利用まで掬い上げられてくる可能性があります。そのため、職場を相手方とする手続ではなかったとしても、弁護士とのやりとりに職場のアドレスを利用することには、慎重になるに越したことはありません。