個別学生の退学理由に踏み込むことなく、退学率から教員の能力不足・成績不良を判断することが否定された例

1.退学率や離職率による立証

 教員の方や、企業で管理職として働いている方から、解雇等に関する相談を受けていると、退学率や離職率を問題視されている例が散見されます。学生が多く退学しているのは当該教員のせいだ、新人が定着しないのは当該管理職のせいだといったようにです。

 しかし、この種の事案で、個々の学生の退学理由、個々の従業員の離職理由がきちんと調査されている例は、あまり目にしたことがありません。退学する理由にしても、離職する理由にしても、様々なものが考えられる以上、個々の退学理由・離職理由に踏み込むことなく、率をもって能力不足・成績不良だと指摘し、その責任を問うことは、結果責任を問うに等しく適切ではないように思われます。

 近時公刊された判例集にも、この点が問題になった裁判例が掲載されていました。那覇地判令6.11.22労働判例ジャーナル156-14 学校法人SOLA学園事件です。

2.学校法人SOLA学園事件

 本件で被告になったのは、専門学校を設置する学校法人です。

 原告になったのは、

救命救急士の資格を持ち、P5救急救命学科の教員として稼働していた方(原告P1)

柔道整復師の資格を持ち、P5柔道整復学科で教員として稼働していた方(原告P2)

キャリアコンサルタントの資格を持ち、驚愕部就職課職員として稼働していた方(原告P3)

の3名です。

 原告らの雇用形態はいずれも有期契約で、被告から雇止めされたことを受け、その無効を主張し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 興味深いのは原告P2の雇止め事由です。

 被告は、原告P2の雇止め事由として、次のような主張をしました。

(被告の主張)

「被告が教員らに対して示した提案(担当講義数等の労働条件)が合理的なものであることは、上記・・・と同様であり、たまたま原告P2の負担が増えたからといって、上記提案そのものが不合理などと評価されるいわれはない。また、結果として賃金が減額になるとしても、学校法人の経営にあたっては収支状況等に応じて労働条件の見直し等を行わざるを得ず、これについては合理的な裁量が認められるべきである。」

「原告P2は、勤務時間中に頻繁に近くのコンビニの喫煙所まで行って喫煙を行い、喫煙をしながらゲームに興じていたところ、これらは、『勤務中は勤務に専念し、みだりに勤務の場所を離れてはならない。』(被告就業規則11条3号)、『職場の風紀や秩序を乱すこと』(同条11号〔3〕)といった勤務態度不良・服務規程違反行為に該当し、被告から再三注意を受けていたにもかかわらず、態度を改めなかった。」

「なお、原告P2には、上記の服務規程違反等の他に、無断残業により訓告処分を受けたという事実も存在し、これは、原告P2が主張するとおり、就業規則に規定されていない処分であったが、本件はかかる服務規程違反を直接の根拠として懲戒解雇処分を行ったという事案ではなく、原告P2の様々な服務規程違反行為・勤務態度不良・成績不良等を総合的に考慮して、被告が契約更新を拒絶したことに客観的合理性・社会的妥当性が認められるかが問題となる事案であるから、訓告処分が就業規則に規定されていない処分であったことのみを持って結論が決まるわけではない。」

「原告P2が令和3年に担当した学生15人中の4人が1年以内に退学しており、退学率は約27パーセントであるが、これは、全体の退学率約16パーセントよりも高い。原告P2の能力・成績が平均よりも劣っていたことは明白である。」

「以上のように、原告P2には悪質な服務規程違反行為が見られ、かつ、改善の見込みもなく、また、教員としての能力・成績も劣っていたのであるから、被告が原告P2との契約更新を拒絶するのは使用者として当然の判断であり、被告の申込み拒絶には客観的合理性・社会的妥当性が認められる。」

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、被告の主張を排斥し、原告P2の地位確認請求を認容しました。

(裁判所の判断)

「被告は、原告P2が勤務時間中に頻繁に近くのコンビニの喫煙所まで行って喫煙を行い、喫煙をしながらゲームに興じていたところ、これらは、『勤務中は勤務に専念し、みだりに勤務の場所を離れてはならない。』(被告就業規則11条3号)、『職場の風紀や秩序を乱すこと』(同条11号〔3〕)といった勤務態度不良・服務規程違反行為に該当し、被告から再三注意を受けていたにもかかわらず、態度を改めなかったことをもって、悪質な服務規程違反行為が見られ、かつ、改善の見込みもないとして、雇止めの客観的合理性・社会的妥当性がある旨主張する。」

「原告P2が被告に復職した令和3年4月以降の勤務において、勤務時間中に近くのコンビニの喫煙所まで行って喫煙することがあったこと自体は原告P2も自認するところであるが・・・、就業規則の定める勤務態度不良・服務規程違反行為に当たるほどの頻度での喫煙や、喫煙をしながらゲームに興じていたことを認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。P14及び被告代表者の陳述書・・・には、被告の主張に沿う内容の記載があり、被告代表者は同旨の供述をするものの、P14の法廷での証言からは、原告P2がコンビニに行くことはあったものの、他の教職員と比較して特に問題となるような行動をしていたことはうかがわれず、個別の注意をしたこともないという趣旨のものであることを踏まえると、上記各陳述書及び被告代表者の上記供述部分はにわかに採用できない。」

「仮に、原告P2のコンビニの喫煙所に赴いての喫煙回数等が、勤務態度としていささか相当性を欠くものであったとしても、被告において、注意や処分を一切行うことなしに、雇止めの客観的合理的な理由があるということはできず、社会通念上相当と認めることはできない。」

「なお、被告代表者は、原告P2に対する令和4年2月17日付の訓告の懲戒処分の理由の中に喫煙やゲームの点が含まれるかのような供述をしているが、懲戒書の記載内容及び懲戒処分を通知した際のやり取りで上記の点を理由とすることは一切触れられていないから、採用できない。」

「被告は、原告P2には、無断残業により訓告処分を受けたという事実も存在するとか、原告P2が令和3年に担当した学生15人中の4人が1年以内に退学しており、退学率は約27パーセントであるが、これは、全体の退学率約16パーセントよりも高いとして、原告P2の能力・成績が平均よりも劣っていたなどとも主張している。」

「まず、訓告の懲戒処分については被告の就業規則に規定されていない処分であることは当事者間に争いがなく、その有効性自体に疑義があるが、この点を措いても、事前申請なしの残業をしたことをもって、雇止めの客観的合理的な理由があるということはできず、社会通念上相当と認めることはできない。」

「また、原告P2が担当した学生の退学率が、全体のそれよりも高いからといって、個別の学生の退学理由も明らかでない中で、直ちに原告P2の能力・成績が平均より劣っていたと断ずることはできず、これを認めるに足りる証拠もない。少なくとも、原告P2を雇止めにすることの客観的合理的な理由となるとは認め難い。」

「さらに被告は、被告が提示した令和4年度の労働条件を原告P2が承諾しなかったことも雇止めの客観的合理的な理由として主張する。」

「しかしながら、被告の提示した労働条件の合理性はさておき、そもそも原告P2と被告の面談の経緯によれば、被告代表者が提示した労働条件を原告P2において前向きに検討している中で、被告において訓告の懲戒処分を通知した上で、契約更新の話を打ち切ったものであり・・・、原告P2が被告の提示した労働条件を承諾しなかったとの事実自体認められない。」

「そうすると、被告による原告P2の雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認めることはできない。」

3.率に基づいた主張が排斥された

 上述のとおり、裁判所は、個別の退学理由に踏み込まない退学率に基づいた学校側の主張を排斥しました。

 退学率だとか離職率だとかは一見もっともらしく聞こえるのですが、サンプルデータが少数であることが少なくありません。150人中40人が退学しているというのであればともかく、15人中4人が退学したからといって、そのパーセンテージにどれだけの合理性があるのかは甚だ疑問です。サンプル数が少ないから絶対値として小さな数でも割合換算すると大きく見えるだけであり、これをもって教員の責任を問うことは不合理であるように思われます。

 裁判所もそう思ったのか、

「個別の学生の退学理由も明らかでない中で、直ちに原告P2の能力・成績が平均より劣っていたと断ずることはでき」ない

と判示しました。

 裁判所の判断は、率から結果責任を問おうとしてくる使用者に対抗するにあたり、実務上参考になります。